過去にミスがあり、修正しました。
修正点は4話から月光ハヤテの年齢が-1歳されていたことです。
第二十二話
卑怯だ!汚いぞ!正々堂々勝負しろ!戦うのが怖いのか!
なんて声が聞こえるがスルー。
誰の声かはあえて言わない。
それにしても……忍に卑怯も汚いもないだろ。
何より自画自賛ではないが幻術は高等忍術だ。ものにもよるが大体は普通の忍術よりも難易度が高い。
まぁ叫んでいる本人は結界の中で起爆札まみれだから負け犬の遠吠え以上に惨めに見える。
結界を破ろうとしているようだが、前回昼顔に施した結界より更に強力になっているため、うちはスルイでは突破することはできないだろう。まぁ外からだと子供が殴った程度でも破れるほどの耐久力しかないけど。
あ、なんか印を組んでるな。
——火遁・豪火球の術!
おお、中忍クラスの忍術だ。
さすがエリート、この年齢で中忍クラスの忍術を使うとは……しかし、印の組み方が雑だし、遅い上にチャクラの練りが甘くてとてもじゃないが中忍クラスの忍術とは言えない出来だがな。
その程度の忍術では結界は突破できないが、狭い結界内で火遁を使うとどうなるか、結界に火があたり逃げる先がないため結界内を炎が覆う……こんがりスルイの出来上がり……なんて望んでいないので慌てて結界を解く。
軽く焦げてしまった付き添いのうちは一族の人が慌てて連れて行ったので多分大丈夫だろう。
……さすがに今の自爆を私のせいにしないよな?
甘く見て封印しなかったのが仇となったな。
「くっ、同じ幻術を2度も掛かるとは……一生の不覚っ」
「こんな父親を持って不覚っ」
おい、夕顔!昼顔さんを殺す気か?!
ちょっ?!上忍の無駄な身体能力の高さで首吊り自殺しないでください!
げっ、助けようと吊っているロープに手裏剣投げたら弾かれた?!よく見たら首吊りのロープ、鋼糸の束か?!どんだけ本気なんだ?!
慌てて目標を吊っている枝に変更する。
枝の破壊に成功し、昼顔さんが落ちたので急いで近寄る私……といつもと全く変わらない夕顔。
「大丈夫、死ぬ気ない」
「いや、どう考えても本気だろ」
「首吊りは吊った拍子に首の骨が折れるか首が締まっての窒息死、骨は折れてないから慌てなくても大丈夫」
冷静過ぎるだろ。
自分の親が自殺を図ったんだからもう少し心配しても……あ、昼顔さんの身体がピクンッと跳ねた……もしかして演技だったか?
「上忍が自殺する気なら首は千切れてるはず、窒息するまでは30分は掛かる」
また昼顔さんの身体が跳ねた……どうやら計画的な行動だったらしい。
「こんなのが私の父親……ハァ」
「うおおおぉぉぉぉーーーーーーー」
昼顔さんが泣きながら逃げ出した!
夕顔は呆れている!
……最近はこれが日常になるんじゃないかと危惧している。
あれから何度か決闘があったが全て幻術KO。
しかし、変化もあった。
昼顔が私の幻術をすぐ解けるようになったのだ。
どうも自分が都合が良い展開になると条件反射的に幻術返しをする癖がついたようだ。
日常生活でも幻術返しをしてしまうあたり若干疑心暗鬼気味になっているようだ。
まさかの幻術の副作用……と思ったが、よく考えたら幻覚ばかり見せるなんて脳内に異常を来たすよな。
問題は今度昼顔さんと勝負することになると幻術が使えないということになることだ。
もっとも相手が格上である以上、相手が有利になる→自分の都合がいい展開→幻術返し、という流れが定期的に起こるだろうからそこを突けばなんとか勝負になるかもしれない。
それに陣幻の術はまだ見せていないから幻術の種類を変えればまだ通じる可能性が高い。
「幻術だけで片付くから無駄な時間を使ってるような気がしてならない」
たった1枚の手札で勝ち抜けたのは行幸と言えるが、さすがに時間が拘束されるのは痛い。
もっと上の相手が現れるのは確定しているのにこれほど実にならない戦いを経験ばかりさせられるとモチベーションが下がる。
「なんて思ったのがいけなかったのか?」
次の決闘相手が……うちはキザミ、なんて言ってもわからないだろうから分かりやすく言うと、うちはスルイを可愛がった際にお礼参りに来た写輪眼に覚醒していた彼だ。
いきなり難易度上がり過ぎじゃないか?もしかしてかなり怨まれているのか?
あれから1年ほど経っているが……さて、何処まで成長しているのか。
そもそもまともな忍術を使った戦闘を夕顔としたことがない。
「大丈夫、負けない」
「前に負けてるのにすごい自信だな」
「ん、敵情視察してきた」
……ウチの婚約者は抜け目がないようだ。
「私より弱い」
ただし、大雑把。
夕顔よりは弱いって大体の下忍なら大体そうだろ。
「写輪眼、大したことない」
写輪眼込みの敵情視察なんてどうやったのかという疑問もあるが、もしそうなら勝率は思った以上に高い……か?
少なくとも夕顔が弱いというと言えるだけ差があるということは私とそれほど差がないかもしれない。
「うちのクラスで言うと何位くらい?」
「2位」
……それって私より強いということじゃないか?
「ちゃんと全部使えばハヤテは負けない」
手札を全部晒せってことか。
「いや、ここから強くなる。全てを賭けて、なんて私の心情に反する」
余裕で勝ってこそ本当の勝利だ。
そういう意味では今までの決闘は1枚の手札で瞬殺できていたのだから理想的だった……まぁ模擬戦としては物足りなさがあったのは事実だが。
人間とは欲張りな生き物だな。
「さすがハヤテ、私も頑張る」
今回の対戦相手が写輪眼に覚醒しているということもあって1ヶ月もの猶予をもらうことができたのは行幸だった。
この間に更なる開発を進めることにする。
さて、何に手を出すか。
継戦能力を高めるために医療忍術か、それとも基礎技術を上げるべきか、それとも既存の術の完成度を上げるべきか。
とりあえず——
——幻術・夢心地(ゆめごこち)——
——幻術返し——
「本当に逞しくなって……私は嬉しいぞ」
「ふっ」
決して負け惜しみではないぞ。
これは夕顔を鍛えるためにやっているんだ。
負け惜しみではない。
結局鍛えたのは基礎技術……と言うより対写輪眼の訓練だ。
相手の眼を見ずに戦うなどという特殊な環境は想定して鍛えていなかったのでなかなかきつかった。
もちろん仮想敵をしてくれたのは夕顔だが、ここで1つわかったことがある。
写輪眼対策として顔を見ないようにして戦うと視線を意識しているばかりに幻術が掛かりやすくなるようだ。
実際夕顔に何度も幻術を掛けられてしまった。
もしかしてうちは一族が幻術を基本戦術としたらかなり強いんではないだろうか、自分達が幻術に掛かりにくいからと軽視しているようだけど。
「久しぶりだな」
「ああ」
できればあまり会いたくなかったとは言わないでおく。
ん?周りをキョロキョロと見回して……何を探しているんだ。
「卯月の鬼才はいないのか」
なんだ、まさか本気で惚れてるんじゃないだろうな……いや、それにしては様子が変だ。
「今日は朝顔さんに訓練をつけてもらっているはずだ」
本人は不本意だったようだが……おそらく昼顔さんの妨害だろう。
帰ったらまた夕顔にボコられるだろうに……昼顔さんも懲りないな。
うちはキザミは夕顔がいないと知って、強張っていた表情が柔らかくなった。
「そ、そうか、うん、今日は全力を出し合おう」
……夕顔……彼に何をした?
いないと言って安心したようなのに、まだ周りを探ってるぞ。
(お、俺、卯月の鬼才とは結婚するつもりないからな!途中まで真剣にやるけど最後は綺麗に決めろよ。絶対だぞ!)
私に聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で言ってきた……本当に何をした。