第二十三話
まずはお決まりの偽印幻術を仕掛ける。
私の幻術を知っていたのか、それとも思った以上に警戒心が強いのか、うちはキザミは最初から写輪眼となっていた。
そのため——
「写輪眼に幻術とは……精度はさすが天才と言えるがその程度か」
幻術は通じなかった。
それにしても先程までの心折れた姿はどこへやら、テンプレうちはになっているようだ。
まぁ写輪眼の能力を考えれば傲慢になっても仕方ないとは思うが。
キザミはまだ動こうとしない、先制の幻術を破ったことに気を良くしているのだろう。余裕の笑みを浮かべている……ところでうちは側の見届人の額に青筋ができているのに気づいているか?気づいてないだろうな。
見届人的には油断をしているキザミに思うところがあるのだろう。
……あ、そういえば昼顔さんはともかく見届人も私の幻術に掛からなかったのか。やはり手札がバレていると対策もされるか。
さて、次はどうするか。影分身のご開帳も有りだろうが……まだ本当の切り札は見せたくない。
とりあえず、保険的な意味も込めて——
「幻術の次は結界か、多彩なのは認めるが攻撃力が欠けているのではないか」
ごもっとも、キザミは知らずに言ったのだろうが私の最大の攻撃力は起爆札とその応用である手裏剣影爆の術だ。
爆破するという意味では攻撃力は高い方だが、追尾性も無ければ1つの爆発規模も小さい。写輪眼を相手にする以上、必殺の一撃としなくては二度は通じないだろう。
その必殺を決めるための隙を生み出す一手が結界だ。
この結界は外側からの攻撃を防ぐことに優れている。特に対忍術に関しては上忍下位の忍術すら防げる……可能性を秘めている。少なくとも夕顔の忍術は防げていた……が、物理攻撃で軽くぶち破られたのだが。
今回の決闘の準備として、うちは一族の情報を改めて洗いなおしをして思ったがうちは一族は肉弾戦より忍術戦を好む傾向にある。
肉弾戦も苦手というわけではない。しかし純粋な力勝負となると他の一族に負けることもある。
それをカバーするのが写輪眼と個人の技量なわけだ。
つまり、忍術を封じれば多少なりとも有利……なわけもなく、肉弾戦だと写輪眼の動体視力が牙を向くからやはり肉弾戦も拙いわけで——
「戦いもせずに引き篭もるとは以前俺と戦った時によほど懲りたようだな」
まぁあながち間違ってはいない。
さて、キザミもやっと動くようでこちらに真っ直ぐ走ってくる。
こちらも更に迎撃準備をする。
この対忍術結界は物理攻撃にはあまり強くはないがある特性がある。
それは——
「なにっ?!」
内側からなら物は素通りするということだ。ただし生物は素通りしない。
そして私は手裏剣は十ほど投げると結界をすり抜け、キザミに襲いかかる。さすがに結界の内側から攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかったようで驚いてもらえた。
しかし、まだだ。
手裏剣を爆破する。
投げた手裏剣は予め作っておいた起爆手裏剣の影分身で、さすがに予期していなかったようでキザミも爆破に巻き込まれた。
ただ、こんなもので倒せるほど可愛らしい相手ではないことはわかっているので更に普通の苦無を投げて追撃する……が、さすがに当たることはないか。
しかし、やはり写輪眼といえど虚を突けば通じるようだ。
態勢を整えられる前に更に八の手裏剣で追撃するが……惜しくも足元に刺さる……がそれは私が狙った通りである。
「どうやら成功したようだな」
立ち尽くすキザミを見て確信する。
何が成功したかというと……芸がなくて申し訳ないがお馴染みの幻術だ。
「ハァ、これだけでどうにかなったか」
写輪眼に幻術を掛けることができるのか、それは疑問だった。しかし、この成果をみると写輪眼が相手にでも工夫次第では幻術を掛けることができるようだ。
それにうちはの性格を考えると私の幻術からはそう簡単にぬけ出すことも出来ないだろう。
「……ハヤテ……貴様、写輪眼相手に幻術を掛けたのか?!」
「なにっ?!」
あ、昼顔さんと見届人は幻術に掛かっていないようだ。
まぁそれもそのはず、今回の幻術は陣幻の術の応用で手裏剣に術式を分割してあり、写輪眼の動体視力の良さを利用して分割した術式を瞬時に読み取らせて陥れるというものだ。
実際、昼顔さんも開眼しているかどうかは知らないが写輪眼状態ではない見届人も掛かっていないのが証拠だ。
ただし、この幻術はかなり難易度が高い上に運の要素も強い。
どういうことかというと、手裏剣に術式を分割しているということはそれを正しい順番に読み取らせないと術式は正しく起動しない。
だから本命の致命傷となる手裏剣、身体の何処かに当たる手裏剣、避けるのを妨害するための手裏剣という順に術式も分けていた。
昼顔さんと見届人も掛からなかったのはこちらのせいかもしれないな。
……それにしても先ほどから見届人の顔が怖いんだけど……もしかしてやっちゃったか?
うちは一族のプライドを刺激しちゃったか?もしかして写輪眼状態で幻術掛かったことがないとか?……だったら拙いことになる予感がするな。
これは本格的に夕顔と逃避行の準備をしないといけない気がする。
そして何も言わず見届人はキザミに幻術返しで術を解く。
「な、え、どうなっている。なんで奴が無傷なんだ?!」
恐らく幻術の中でボコボコにした私とのギャップを受け入れられないのだろう。かなり狼狽えていた。
あの様子から幻術に掛かり慣れてないようだ……いや、日頃から幻術に掛かり慣れている方がどうかとは思うが……やっぱり拙ったか?
「幻術……写輪眼に幻術だと……馬鹿な」
何やら意気消沈しているようだが……声を掛けるとどう返ってくるのかわからないからとりあえず傍観する。
手札をまた見せることになったがそれでも完勝した。
それにキザミの動きを見ていると夕顔の動きに比べれば劣っているように見えた。
やはり夕顔が言っていたように実力に随分開きがあったようだ……夕顔の強さの底が見えない。
しかし、過去のキザミと現在のキザミの成長を考えると……あまり成長しているようには思えない。もちろんそれなりに成長はしているのは間違いないが、私や夕顔の伸びから比べるとイマイチに見える。
もしかして写輪眼に胡座をかいたか?