第二十四話
あれから結局うちは一族からは何もない。
何なんだろうか、あの一族は。
なにか言いたげなのに何も言わない。我慢が美徳なのか?まぁ日本人っぽい名前だから合っているといえば合ってるが。
ただし、私達の親世代に噂が流れているらしい。
幻術の申し子などという意味の分からない中二病的な二つ名が付いた子供がいるそうだ。
……はい、私です。
写輪眼に幻術を掛けたことが盛大に噂になっているようで……決闘内容は漏らさないって約定はどこいったのか。
そもそも私が使っている幻術は誰にでも使えるものなのだが……
「ダウト、術式意味不明」
「それは夕顔が勉強が苦手だからだ」
なんだ、そのやれやれ、ハヤテはわかってないなぁ、的な表情は。
「あんな複雑の術式を一瞬で普通は組めない」
それは初耳だ。
あれぐらいは普通だと思っていたんだが……まさか?
「まさかとは思うが夕顔もできないのか」
「できない」
本当にまさかだ。
夕顔を上回る才能が影分身系を除いてあるとは思いもしなかった。
てっきり私に配慮しているのかと思っていたのだが、できなかったのか。
私は現状より先がまだあると思っている以上、長所となり得る可能性が濃厚だ。
やっと己の武器が増えた。影分身は上忍、早ければ中忍で覚えられる忍術だからあまり強みとは言えず悩んでいたんだが……まぁ対策が簡単に取られてしまいそうだという短所を除けばだけど。
「だから言った。ハヤテ強い」
夕顔が言うと説得力がないんだよなぁ。私に対しては甘い評価をしているようにしか聞こえない。
……全く関係がないが夕顔に違和感を感じる。一体なぜだ?
「それにしても決闘の期間が長くなったのはありがたい」
どうやら対戦者達が幻術対策を講じるための時間稼ぎのようだ。
おい、公平性はどこ行った。
しかし、私も影分身を使っているので才能差がない限りは引き離されるより引き離す、もしくは詰めることができると思う……そうとでも思わないとやっていられない。
しかも、まだ様子見だった木の葉にて最強こと日向一族も参戦してくると聞いた……遠慮したいものだ。
白眼の相手は厳しいの一言だ。
写輪眼ほどの動体視力はないが視力自体がいい上に視野が広い。
この視野が広いというのが曲者で、幻術を仕掛ける上で必要な隙が限りなく小さくなる。
実は幻術には射程がある。
あまり離れすぎると術式を正しく認識できずに幻術が失敗してしまうのだ。なら視力のいい白眼相手なら効果を発揮すると思うだろうがもう1つの特性である視野の広さが問題になる。
視野が広いというのはそれだけ全体を捉えることが習慣となっている可能性が高い。そうなると視覚に頼るところが大きい幻術は効きにくいはずだ。
まぁまだ試したことがないから正確なところは言えないんだがな。写輪眼とは別のアプローチが必要になるのは間違いないだろう。
それと写輪眼より白眼の方が優れているという点は実は開眼率にもあると思っている。
写輪眼は開眼率が低く、強力であるため競い合うことが少ないのに比べて白眼は8割以上が開眼するため、特別視することもなく、切磋琢磨しないといけないのだ。
もっとも日向一族も伝統を重んじるので柔軟性には欠けるので実力はともかくテンプレ的な戦い方が多いらしいが……
「っと、どうした夕顔」
なぜか突然抱きつかれた。
いや、抱きつかれるのはいつものことだから驚くに値しないが、寂しいから取り合ってとゆっくり抱きついてきたり、後ろから脅かしたりはするが突然勢い良く抱きついてくることはない。
「お別れのキス——」
「天誅っ」
「夕顔?!」
二重の意味で夕顔である。
抱きついている夕顔の後ろに現れた夕顔が抱きついている夕顔を縦に一刀両断したのだ。
「これは……影分身か?!」
疑ってなかったから気づかなかったぞ?!ああ、夕顔の違和感はこれだったのか。
……そして、夕顔(影)は大胆だな。消える前にキスしようとしたぞ。
「私がまだなのに……影にやらせないっ!」
影分身が暴走……と言っても本人の思考なんだよなぁ。つまり夕顔の欲望ということか……まぁ悪い気がしないがおままごとの一種にしか思えない。
もっともこの年齢でガチだとさすがに問題があるからこの感性は間違っていないと信じている。
「もしかして、影分身の術を修得したのか?」
「一応完成……でもハヤテみたいに影分身のチャクラ量の調整できないし、解除時の還元率なんかは悪いまま」
そうなのか、てっきり夕顔だから完成度に拘っているのかと思ったら最低限の完成度でこんなに時間がかかったのか。
思った以上に影分身の術は難易度が高いのか?最近は息をするように影分身が作れるようになってきたからイマイチわかりにくい。
やはり性質変化は伊達ではないのか……でも地味だ。
「もっと頑張る」
フンスッ!と気合いを入れる姿は可愛いのだが……私の優位も何処まで保てるかな。
「よし、今日もいつも通り戦闘訓練から始めようか」
決闘が先延ばしになっているからといって気を抜かない。
凡才が油断すれば天才はもちろん、同じ凡才にすら足元を掬われる。
間近に本物の天才が居てくれるのは心が折れないかぎりはありがたいことだ。常に慢心せずにいられる。
今日は新術のテストを試みてみる予定だ。
開始の合図はいつも通り空に苦無を投げ、それが地面に刺さった瞬間である。
開始した直後はいつも通り後ろに下がりつつ印を組む。片手で偽印幻術、片手で火遁の火玉だ。
夕顔に教えてもらって最近できるようになった片手印だが……偽印幻術はともかく、せっかくもう1つ忍術が使えるというのに貧弱過ぎる。
しかし、私の使える忍術の中で印を組むものは数が少ない。
影分身系と火遁ぐらいだ。
私が主軸としている幻術や結界、封印はどれも術式を書きはするが印は必要がないのだ。
——火遁・火玉——
——水遁・水乱波——
——幻術返し——
幻術は打ち消され、火玉も水流によって消され、残ったのは襲い掛かって来る水のみ。
これは予測済みだ。
さて、性能テストと行きますか。
前で両腕を横向きにしてぴったり合わせるようにしてチャクラを流し込む。
——封術・水封陣——
服に描かれた術式は無事起動したようで、術式の中心に迫る水が吸い続け、水は1滴も残らず封印に成功した。
そして合わせていた腕を上下入れ替えてもう1度チャクラを流す。
「こいつはおつりだ!とっときな!」
先ほど封印された水乱波が開放される。
……まぁ驚きこそすれあっさり躱されるのだが。