第二十五話
封印術で術を封じることができた。
これで私が有利に……と思っていたらもっと規模が大きい術を使われて押し流されて終了となった。
術を封印する難しさは封印する術よりも上の封印術を使わないといけないことだ。
つまり相手が下忍クラスの術を使えば中忍クラスの封印術を、中忍クラスには上忍クラスを、上忍クラスには禁術クラスを、禁術クラスは……どうしたらいいんだろうな。
「ちょっと驚いた」
封印術は一発芸ではないんだがな。夕顔さん。
しかもそのお返しが倍以上とは大人げない……あ、まだ4歳だった。
「質で無理なら数、それがハヤテの持ち味」
「……あ、そうだな」
うっかり忘れてた。
いや、いつもは忘れないんだがどうも相手が夕顔となると影分身は意味をなさないことが多いから使わなくなったのが原因だ。
影分身だけあっって影が薄くなってしまっている……さぶい。
そもそも影分身はチャクラをそこそこ消費しないとあまり使い勝手が良くない術だから扱いが難しい代物なのだから仕方ない。
実際、夕顔は影分身をほとんど使わない。私以上に燃費が悪い彼女が実戦で使えるわけがない。
……まぁ、基本スペックが違うから私と違って学校で戦闘訓練などがあっても耐えられる影分身が作れるのは凄い。
私の影分身だと途中でうっかりいいのが1発当たれば解除されてしまうからリスクを考えるとできない。
戦闘訓練では夕顔に誰も当てられないからなぁ。
「ところで……何してるの?」
「これか?毒を作ってる。絶対口に入れた——って言ってる側から食べない!」
「美味しそう……ハヤテの手料理」
いや、違うから、これは手料理じゃない。調合だからな……美味そうに見えるから気持ちはわかるけど。
本屋でたまたま暗号化された毒薬のレシピが手に入ったので今回は試しに作っている最中だ。
毒の内容は痺れ薬の1種で、量を調整して痛み止めにもなり、尚且つ美味いから調味料的に使って盛ることができる。
匂いは蜂蜜と区別がつかない。そのせいで虫が寄ってくるし食べればそこら中に痺れて動けない虫だらけになるので隠蔽度は高くないのが難点だ。
今は緑色のドロッとした液体で使い道は少なそうだが、時間が経つと水飴と見分けがつかないものになる。
もっとも敵に対して痺れ薬という用途で使うなら量が必要な上に効果が出始めるまで3分ほど掛かるので戦闘にはあまり向いていない。
潜入捜査や捕虜の無力化、もしくは痛み止め程度にしか使えない……あ、本当に緊急時の食料にはなる……か?食料が無くて痺れてもいいという限定的な状態がどれだけあるかは疑問だが。
「……決闘に使えない……あ、事前に盛る?」
「違うから、これは練習用だ。そっちは今から」
実は毒薬は買った方が簡単で安全に手に入る。ならどうして調合しているかというと……どうやら近いうちに戦争になるのは確定のようなのだ。
国境での争いが段々と拡大を始めていて年内……はないか、残り2ヶ月ほどしかないが物価の推移から察するに、大丈夫だと思う。
多分来年の2月ぐらいには戦争が始まると踏んでいる。
ただ、今度の戦争は色々とやばいのではないかと思っている。
お互い私利私欲で戦っているならまだ救いがあったのだが、どうやら末端の前大戦から続く怨みと憎しみで殺し合っている。
つまり、何処も上層部とは関係なく戦争に突入しようとしているのだ……もしかしたら裏で糸を引いているのかもしれないが、それならまだ収めようがあるだろう。
もちろん、全ての里が同じ状態というわけではないが、民意に押されて戦端を開くとなるとなかなか収まらないだろうな。
もしかすると昼顔さんはこれを見越した上で、決闘なんて組んだんだろうか?夕顔を悲しませる要因を減らすために……あり得るな。
夕顔はおそらく今の状態でも中忍にはなれるだろう。
それに比べて私は中忍になれるかなれないか程度の実力でしかないし、戦闘訓練もほとんど忍者学校と夕顔と昼顔さんとしかしていない。
実力が不足していて畳の上の水練すら不足している私に力を貸してくれたのかもしれないな。
……このままだと日向一族と戦う前に戦争へ突入してしまうかもしれないのは惜しいが、相手のあることだから仕方ない。
「だから食べたら駄目だって」
「美味しそうなのに……」
年内最後の決闘が決まった。
来年は里が忙しくなり、もしかしたら徴兵が実力重視でなされて夕顔も対象となる可能性もあるので平穏で真っ白で居られる最後の年かもしれない。
私達は近いうちに赤く染まることになるだろう……まぁ忍への道を選んだ段階で覚悟はしているつもりだ。
さて、指定の訓練場についたが……誰もいない——っ!
「これぐらいは躱して当然だな」
手裏剣と苦無で挨拶なんて物騒な。
「……どういうことですか昼顔さん」
「何、頭のいいお前なら知っているかもしれないが来年から忙しくなる」
「戦争ですね」
「やはりわかっていたか……それで戦争を前に皆忙しくてな。決闘の相手がつかなくなったのだ。そして私も忙しいが、これは私が言い始めたこと……だから——」
「最後の決闘者を昼顔さんが務めると」
その通りだな。と肯定が返って来た。
小声で夕顔を相手にさせようかとも思ったが……という物騒なことは聞こえないフリだ。
「今回は殺す気で来い。幻術という切り札はもう見切った以上、無傷で無力化する方法なんぞないだろ」
それは本当に幻術を見切ったなら、ですけどわざわざ言う必要もないので黙って頷くだけにする。
さて、想定外の相手だが、年内最後だと気合を入れて万全を期して準備をしてきたのは幸いだ。
殺す気で来いというなら本気で殺しに行く気で行こう。昼顔さんも以前ほど隙がない。迂闊な対応は己の敗北となるだろう。
実戦なら自分の命が奪われ、最悪は夕顔の命も危うい。そうならないように今回は本当に本気で行く。
開始の合図を待たずに印を結ぶ私を見て満足そうに頷く昼顔さん。
印は今まで通り影分身の術に似せた偽印幻術……だと思っているだろう。
しかし今回は——
——影分身の術——
「な、にぃ?!」
さすがに驚いているな。
影分身の数は20、忍術抜きで5分ほどしか戦闘ができない程度にしかチャクラを注ぎ込んでいない。
しかし驚かせることに成功した。この隙を逃さないように一斉に手裏剣を投げる。
私達が攻撃モーションに入った段階で心を整えたのはさすが上忍だ。
楽しい戦いになりそうだ。