第二十六話
驚きから立ち直った昼顔さん慌てて幻術返しを始めた。
いや、幻術はまだ掛けてないんだが……とりあえず
——手裏剣影分身の術——
私が投擲した手裏剣だけで影分身にして更に動揺を誘い、更に今度こそ幻術を仕掛ける。
あ、幻術が上手く掛かってしまっ——って手裏剣が刺さる?!慌てて起爆させて爆風で手裏剣を吹き飛ばす。
危なかった。お義父さん的な人を殺すところだった。いくら殺す気で来いと言われたからって本当に殺していいわけがない。
さすがに実の父親を殺されたなんてことになれば夕顔が……ん?何処からか舌打ちが聞こえたような?
「熱いッ?!くっ、また幻術か!」
それはどちらの意味なんだろう。今が幻術だと思っているのか、さっき掛けた幻術に対してなのか。
何にしても軽い火傷はしているようだがその程度のようで安心した。
実はさっきので私の勝ちとしてもいいはずだが……幻術に掛かっていて何が起こったのか把握できていないだろうし、何よりまだ戦って経験を得たい。
ここからは本気の幻術は控えよう。どうも私の幻術は相手がこちらの手札を知った上でも通じることはこれで立証できた。血継限界などがない限りは、であるが。
決闘は継続だという意味も含め、影分身を突っ込ませる。
影分身は体術だけなら100%の実力を発揮できる。夕顔と1対1なら守りに徹すればそこそこいい勝負ができている……はずの私なのだから昼顔さんとの戦いでもそれなりに通じる……といいなぁという希望的観測。
その理由は——
——多重影分身の術!——
元々昼顔さんから見て覚えた術だから……って、あれ?なんか私が使っている術と違う?術式も途中までは影分身の術だったのに後半に付け足されているな。
「さすがはハヤテ、娘が認めた男だ。その年で多重影分身を使うとはな」
多重影分身?影分身とはどう違うんだろう。
そして私の影分身20と昼顔さんの影分身12が激突する……数が違うのはやはり私の性質変化による優位点だろうか?それとも影分身の質が違うのか?勝負とはいえ期待が膨らむ。
お互いの影分身は忍術を使うこともなく接近戦へ……数的にはこちらが有利で一部は2対1の状態で戦う。
昼顔さんの本体に堂々と幻術を掛けて足止めしつつ影分身達の戦いを観察する。
さすが上忍、1対1では当然押され、2対1でも贔屓目に見て互角というところだ。
しかし、なんとか足止めが成功しているところを見るとこちらが有利といえるかもしれない。
夕顔の影分身から察するに本来の影分身はかなりチャクラが必要なもののようだ。ということは恐らくだが夕顔よりは効率がいいにしても私より効率がいいとは思えない。
ならば消耗戦となればこちらが有利になる可能性がある……あくまで可能性だが。
昼顔さんは業を煮やしたのかとうとう目を閉じて私に向かってくる。なるほど、私の幻覚は視覚に頼ったものしかないので有効な対抗手段だ……が、視覚無く戦うことはできるのだろうか。
試しに手裏剣を投げる……普通に弾かれた。ならばと再び手裏剣を投げるが今度は手裏剣影分身の術で30に増やしてみる。
影分身ができたのだから手裏剣影分身の術ができることも想像できる……と思ったのは私だけのようで昼顔さんは驚いた様子を見せ、立ち止まって対処する。
しかし対処が間に合わず幾つかの手裏剣が刺さる——いや、変わり身の術か?!何処へ——
——水遁・水龍弾の術——
——ッ?!上か!
そしていつぞやのトラウマ(母親の訓練)の忍術が?!
慌てて影分身を4体増やして水封陣を展開して龍の身体を削り取る。
だが、削り切る事ができないと途中でわかり回避するが、地面に着弾した余波で2体の影分身を失った——なんてことを気にしていたら目の前に昼顔さんがいた。
夕顔と同じデザインの忍刀が私の胸に迫り……貫く——ただし、影分身だけどな。
幻術を掛けて足止めをしている際に入れ替わっていて良かった。と言うか胸を突き刺すとか殺る気あり過ぎるだろ。
貫かれた影分身はチャクラを多めに注いでいたのですぐには解除されず、最後の仕事として印を結び……爆発。
至近距離から爆発に巻き込まれた昼顔さんは吹き飛ばされて転がるとどういうわけか昼顔さんの影分身も消える。
はて?影分身が勝手に消えることはないはずだが……チャクラを使いきったのか?それにしても全部同時に?
考察は後か、私の影分身は残り22体と多く残っているが内10体は既にチャクラのほとんどは使い果たしていてギリギリ解除されない程度でしかない。
そのギリギリの影分身を昼顔さんへ突撃させる。
まだ起き上げっていない、気絶しているのか死んだふりで隙を窺っているのかわからないための一手だ。
私はそれほど殺る気はなので四肢を突き刺す程度に留めるつもりだったがもう少しで届くというところで10体全て解除される。
もちろん昼顔さんの忍刀によって、だ。
昼顔さんの手には火傷が確認できた。これで若干だがこちらが有利になった。
怪我をしていても容赦はしない、封印を反転させ、水龍弾の術を返す。
もちろん大人しく受けてくれるわけもなく、印を組むところを見ると忍術で対抗するようだ。
こちらは忍術の一部封印した程度でしかなく、威力なんてお察しなので早々に逃げる。
逃げたため術の詳細は確認できなかったが、とりあえず大洪水が起こった。おかげで影分身2体巻き込まれて残り10体。
術の規模はさすが上忍だ。
しかし、なるほど……夕顔が言っていた通り、夕顔が私に慣れているから勝てないというのは過大評価ではないようだ。
もっとも大怪獣的な狸が出てくることを考えるとあまり過信してはいけないだろうが。
「何処へ行く気だ」
……さすがに身体能力では勝てないようだな。割りと全力で逃げたのに先回りされるとは。
不意打ちをせずに声を掛けてくれたのは優しさか、それとも……
「楽しみはこれからだぞ」
私を追い込みたいからか。
距離が近い……この距離だと普通に接近戦をするしか手はない。
影分身達が気づいて駆けつけてくれれば距離をとることができるだろう。それまでなんとかするしかない。
戦いは私が守勢、昼顔さんが攻勢というのは影分身同士の戦いと変わらない……だが——
——卯月流奥義・春風——
「つぅっ?!」
いくら決闘とは言っても聞いたこともない奥義まで出すのはどうなんだ。
右腕と右胸に一筋の赤い線が入る。斬られた深さは2cmほどで動きに支障が出るが後遺症はないはず。
これは本格的にやばくなってきたな。