第二十七話
将来の舅が厳しい過ぎる件について。
間合いを詰められてから術を使う隙がない。
間断ない剣撃を防ぐために両手で刀を握っていないと受け切れない。普通の印どころか片手印すらも組めない。
「シィ――」
半分勘で半歩後ろに下がる――と目の前を昼顔さんの刀が通り過ぎたようだ。見えてないけど剣風は感じた。
動体視力には自信があるけどこれほど近いとどうにもならないな。まだ戦っていられるのは夕顔の太刀筋と酷似していて次の行動が何となく読めるおかげだ。
「ハッ――」
そうだ。今の状況で慌てる必要はない。
なぜなら私は知っているから……むしろ新たな心配が出てきた。
夕顔と昼顔さんはどうも剣筋が似ている……というよりほぼ同一。もちろん同門どころか親子であり師弟でもあるのだから当然といえば当然なのだが、殺し合い上等のこの世界でこれはいいのだろうか。
一族が教えることは遺伝子が似ている人間同士なので効率がいいと思うのは間違いではないが写輪眼や白眼のように視ることに特化している血継限界に対して圧倒的不利になる可能性が高い。
そうでなくても誰かが捕虜となってしまって技術流出してしまえば、対策が取られるだろう。
更にいえば夕顔が強く、天才だと言われていても今の所は所詮、身内や学校内の井の中の蛙に過ぎない。実際の殺し合い(大海を知る時)となった場合どうなるかが心配だ。
両親から訓練されているが独自に編み出した忍術で初見殺し、わからん殺しが基本な私には無縁の話だが……夕顔に向く忍術の開発でもするか。
「私を相手に考え事とは余裕だな」
「奥義はさすがに焦りましたけど、動きは夕顔と変わらないので」
あの奥義こそ未知であったために対処できずに傷を負ってしまったが前動作、太刀筋、効果がわかった以上、その動くの3割がミスリードでない限り躱すか防ぐことができるはずだ。
それに煽っておけば精神が、太刀筋が乱れる。
その分――
「ぐっ」
込められる力は増して、それに比例して速くなっている。ただ、必要のない力が入っている分だけ前動作がわかりやすくなった。
それに私が付け入らないわけがない。正確には――私達だが。
「ちっ、数だけは多い!」
刀や苦無、手裏剣といった通常攻撃のみで火力がない。反面、昼顔さんの言う通り数だけは用意している。
正直、半ば(全開?)殺す気で来ている格上の相手を捕縛しなくてはならないというのは難易度が高い。
殺していいなら開幕でなんとかなったが、さすがに殺すわけにはいかない。もう少しで戦争が始まるならなおのことだ。
「ええい、鬱陶しい」
さすがに目を閉じた状態でこの数を凌ぎ切るのは難しいようでせっかく詰めた私本体との間合いはまた開く。
そして――
「小賢しいことを!」
影分身とシャッフルするように動き、これで私本体は見失った――
――水遁・水源鉄砲――
「これは――まずい」
嫌らしいにも程がある。
昼顔さんはどうやら性質変化は水なのは確定か?ご丁寧にここはどうやら地下水が比較的浅い場所にあるという明らかに本気の地形選びである。
更に嫌らしいのは本来水遁というのはあまり属性の中であまり威力が高い部類ではない。
もちろん上位の忍術ともなれば話は変わるが、少なくとも瞬時に発動させられるものは威力はお察しなのだ。
水の鮫なども水圧による痛みからの捕縛からの窒息死という迂遠な方法となってしまうので4歳や5歳の私でも耐えられるのだ。
そして昼顔さんが使った術はその水遁の術は水遁であって水遁ではない。
水遁によってその名の通り地下水が鉄砲のように吹き出る。しかし、先程言った通り水がダメージの源ではない。
それは水が噴出する際に勢いよく飛び散った土や石、そして噴出する道中に内包させた砂利や岩なども含まれたものだ。
しかも水の噴出の数は1つや2つではない。全部で6……いや、今7つ目が出た。
今ので影分身が3人――それと昼顔さんを足止めしていた1人が消えたのを確認した。
一瞬でやられたのでそれほど疲労感がなく、距離も近いのでチャクラの還元率も高かったのは幸いだ。
――水遁・水流鞭――
「それは水遁と言っていいのか?」
どうやら前の術を操作する忍術のようなんだが……水は不純物で泥水になっていて、その中には石や岩、砂利などが多く含まれていてどちらかというと土遁に見える。
私の水の性質変化攻撃力が低い説を真っ向から否定するかのようなその7つの鞭……鞭というにはあまりにも物騒、あ、鞭自体も物騒だったか……は見かけは太くて木のようだがその動きは正しく鞭の動きで私達に向かって振るわれる。
しかし、影分身にも振るわれたことから察するに本体がどこにいるのかはわかっていないのは確定だ。もしわかっているなら私を集中的に攻撃されているはずだからだ。
手数を増やすために影分身を増やす……いや、それじゃ術が発動した瞬間に本体がバレてしまう。
昼顔さんが感知系の忍びではないことは本体がわからないのだから間違いないがさすがにあまり離れていないこの距離で忍術を発動すると気づかれるだろう。
封術の水封陣も水は封じることができるがあれほど土が混じっていては封じている間に土砂に襲われることになる。本体では論外、影分身ならいいか。
6人の内の1人に水封陣を使わせるように密かにハンドサインを送――
「お前が本体か!」
気づかなかったがいつの間にか昼顔さんは目を開けていたように私の顔をしっかりと視線が合う。
よし、もう1度幻術を掛るか……と決めたところで――乱入者が現れる。
「ハヤテ、助けに来た」
その乱入者とは自分よりも小さな背中……夕顔だった。
どこかで見たことある展開だな。と思ったりもしたが――
――幻術返し――
すると夕顔は笑顔を浮かべながら煙となって消えた。
貴重な笑顔を幻で見せられるのは微妙な気分だ。
ちなみになぜ幻術かわかったかというと夕顔が本物でこの状況なら私にわざわざあのように声を掛けずに昼顔さんに斬りかかっていたに違いないからだ。
「ちっ、さすがに幻術が得意というだけあって気づくのも早いな」
そんな理由でバレたのは武士の情け……いや、忍びの情けで言わないでおこう。こんなでも将来のお義父さんなのだから。