第二十九話
結局昼顔さんが殺されることはなかった。
これは夕顔が実行に移さなかったからではなく、そのまま任務に付くことになったからだ。
夕顔の手厚い介護を受けつつ、ある程度回復すると影分身で情報収集に努めた結果――
「雨隠れの里との国境で幾つかの部隊が消息不明、か」
こんな都合が悪い方向で流言するとも思えないのでおそらく事実だとは思うのだが……。ちょっと木ノ葉隠れの里の防諜が心配になった。
しかしすぐに報復に動かず、まだ調査段階らしい。まぁ雨隠れの里との国境で部隊が消えたからと言って雨隠れの里の仕業というのは安直が過ぎる……が、里の代表である火影が3代目ということからも分かる通り、ほんの50年ほど遡れば民族単位で活動していた群雄割拠の時代だったのだから国の運営のノウハウなんてまだ蓄積されていないのだから可能性が無きにしもあらずというのが悲しい現実だ。
ただ、木ノ葉隠れの里は忍界では牽引する立場である以上、舐められてもいけないので徹底した調査を行い、消息不明の部隊が無事ではなかった場合はそれ相応の報復を行うことは既に決定しているようだ。
これって既に戦争は確定しているってことか。問題は規模だな。
木ノ葉隠れの里は最大勢力で、それが動くとなると武力での報復行動だった場合、他の里が動揺しないとも限らない。
そしてそうなるとどう動くか……最悪の場合、木ノ葉隠れの里包囲網が構築される可能性まである。
伝説的な強さだったという初代火影・千手柱間が存命ならまた話は違ったかもしれないが……というかこの人、ちょっと信じられない強さなんだけど実在したんだよな?
現代の核兵器的な立場の尾獣よりもチャクラ量が多いとか怪我は瞬く間に治るとか荒野が樹海になったとか逆に樹海が砂漠になったとか実は里全戦力より千手柱間1人の方が強いとか色々と資料が残っているのだけど……50年程度前の話なのに創作話なのだろうか?それともマジなのか……マジだった場合そんな化け物がいる可能性を考えるとちょっと戦場に出るのが怖くなるな。
それはともかく、現在木ノ葉隠れの里を含む忍の里は緊張状態となったわけだ。
これによって忍はもちろん、一般人までピリピリしていて治安が悪化を始めていて兵士兼警察兼消防隊である忍は下忍から駆り出されているのが現状だ。
ただ、たまに一般人に負けそうな下忍などを見かけると返って不安を煽ることなりそうだが大丈夫だろうか。私的には私や夕顔よりも頼りなさそうな中忍とかいるのも不安が増す。
「戦になれば徴兵されるのはほぼ間違いないだろうな」
「……訓練頑張ろう」
「ああ」
私本体は体調の回復に努め、影分身3体と夕顔が鍛錬している。
チャクラの使用はお互い無しで寸止めルールだ。純粋に剣術の技術を上げることに専念する。
チャクラの使用はやはり疲労するので私の回復を阻害するし、まさか私が使わず、夕顔が使うなんてありえない……鍛錬にならないという意味で。いい加減3対1でも負け越しているからな。
ちなみに学校には影分身を送り込んでいる。
本当は学校での授業の方が敵にバラエティがあっていい経験になるが、私は動けず、夕顔は看病すると聞かないので仕方ない。
そんなことを考えていたら自らセットしていた目覚まし時計が鳴り始める。
「時間か……解っ」
私の後ろで本をペラペラとめくって10人の私が読みかけの本を床に置いたのを確認して解除するとポンッという音とともに消え去り、私に知識と眼精疲労が襲いかかる。
「んーーー、何度やってもきついな」
眼精疲労を少しでも回復すべくカイロを貼り付けたアイマスクを外して兵糧丸を分析して開発した目薬を点す。
これを点すとしばらくは物が見えすぎて眼精疲労がひどくなったりするが、アイマスクをすることでそのデメリットを解消することができる。
目薬を開発するに至ったきっかけはだいたい察しのとおり、影分身の乱用で脳や目の疲労が酷いことになって急遽開発したものだ。まぁ急遽開発しただけあって開発にかなり無理して大変なことになったし、他にどんな副作用があるのかも把握しきれていないと問題は尽きないが……成分からするとそれほど酷いことにはならないはずだ。
ただ、戦闘中に使う気にはなれないな。
「影分身の術」
再び10人の私が現れた……はずだ。既にアイマスクをもとに戻しているから見えないが気配は感じ、また本をめくる音が聞こえてきたので大丈夫だろう。
影分身を解いたことで知識の共有ができたので新しく得た知識を知恵へと落とし込む作業に取り掛かる。
「開発が捗るのは便利だけど休んでいる気がしないのがネックだな」