第三十話
閃きとは突然だ。
きっかけは些細なこと。
「くっ、負けたか」
もう何度目かわからない私の影分身の敗北。
相手はもちろん夕顔だ。
夕顔は強くなっているのはわかる。しかし、やはりというか私自身が強くなっているのかはわからない。
着実に知識と知恵を蓄えているし、卯月流の剣術や他の剣術も取り入れて磨いているが小手先の技感が否めない。
根本的に夕顔との才能差を感じる。
別に夕顔に負けていること自体は問題ない。しかし、戦場というのはどのようなことが起きるのかわからない。
夕顔以上の敵も当然いるだろう。というか火影クラスの強さを持つ存在と相対する可能性だってある……あまり想像したくない事態だが。
そんな存在に小手先の技が通じるだろうか……自信を持てるのは写輪眼にも通じた幻術ぐらいだ。
せめて私だけの強みが欲しい。
「ハヤテは十分強い」
「私などまだまだだよ」
「ムー」
ふっ、こういうところは成長が早いとは言っても子供だな、と思いつつ夕顔が近づいてきた気配を感じたので頭を撫でる。
影分身以外にも目隠しをして過ごすことで気配に敏感になったと思う。何事も修行だと言えるかもしれない。
「しかし、私をいくら増やしたところでたかが知れているしな」
これは私であって私ではない……つまり、影分身の1体が言ったものだ。
しかし、不思議なものでこの言葉がきっかけで新しい戦術が、忍術が閃いたのだ。
「私を増やしても勝てない……か」
「……思いついた?」
「ああ、明日には出来上がるだろうから楽しみにしていてくれ」
「わかった」
知っての通り私の性質変化は影(推定)だ。
伸び代が1番あるのは間違いなく、打開策もそれにあるだろうとは思っていた。
しかし、血継限界に等しい……いや、それ以上に希少な存在であるようで資料はないため完全な手探りで開発しなくてはならなかったが、問題は影という性質変化で何ができるのか想像ができなかったことだ。
「行くぞ」
そう声を出したのは夕顔と対面にいる影分身の私である。
それに夕顔が答えたのを確認して印を結ぶ。
――陰遁・影部分身の術――
「おぉ」
驚いてくれたようで何よりだ。相変わらずの無表情だけど。
影分身が使った忍術は名前だけ読むとただの誤字にしか見えないような術だが、誤字ではなく、私のオリジナル(少なくとも得た知識の中にはない)の忍術である。
影部分身の術というのは使用すれば夕顔のリアクションからも分かる通り見た目に変化がある。
「腕が増えるというのはなかなか慣れないから少し手加減をしてやってくれ」
「わかった」
そう、影部分身の術とはその名の通り、身体の一部を影分身させる術なのだ。
そして――
「こっちも出しておくか――」
――陰遁・影上半身の術――
こちらは説明しなくても名前からしてわかりやすいだろう。
現れたのは先日と数は変わらず10体、しかしその佇まいは明らかに先日と違うものとなっていた。
「……怖い」
今度は先程とは違って珍しく表情に変化があった。
浮かんだ思いは間違いなく恐怖と心配。
どうやら上半身だけとなった私が並ぶ光景は……うん、普通に恐怖だな。それに自分で言うのも何だが愛されているし、心配にもなるだろう。
というかチラチラと私を確認してホッとしている姿が可愛すぎる。ちょっとこの忍術を開発してよかったと思ってしまったのは国家機密レベルでプロテクトしておくとしよう。
「大丈夫だ」
そう伝えると頷いて腕が4本となった影分身に向き合う。
ちなみに影部分の術のメリットは単純に攻撃手段が増えることだが、忍術を2重に使うことはできない。
これは単純に私の技量不足なので使えないというのは語弊があるかもしれない。
ただし、この術にはデメリットが存在する。
チャクラの消耗が激しいのは言わずもがな、問題は影分身の疲労度が多くなり、私に返ってくる疲労度が増してしまうのだ。
逆に影上半身の術は還元される疲労が軽減され、得られる情報は減ることはない上に発動チャクラも維持チャクラも軽減されるとメリットがかなり大きい。
今回はまだ試運転なので数は変えていないがおそらく数は倍にすることができるだろう。
正直、私が1番助かっているのはこんな世界観なのに書物が溢れている矛盾したこの世界の存在だな。
もしこの本が少なかったらこの術の使い道は限られてしまうからな。