第三十二話
というわけで母さんと朝顔さんに私の推論を話してみた。
母さんは私の保護者ということで、朝顔さんは自身も上忍であることから正しく判断してくれるであろうことや朝顔さんを通じてなら昼顔さんにも話が通るだろうとの判断だ。
ちなみに母さんが忍なのは知っているけどどの程度の忍なのかは知らない。というより教えてくれない……もしかして暗部所属だったりするのだろうか?
「……」
「……」
そして話し終えてから2人の女性は難しく、険しい表情で考え込んでいる。
2人は私の拙い情報とは比較にならないほどの情報を有しているから脳内で検証しているのだろう。
しかし、その表情は私の推論を否定する要素が少ないことを物語っている。
そしてしばし時が流れ、スクッと朝顔さんが立ち上がる。
「用事ができました。今日はここで失礼させていただきます」
「はい。身体にお気をつけて」
母さんも違和感なく別れの挨拶をする。
そして――
「ハヤテ、貴方は多くの同胞の命を救うことになるかもしれません。ありがとう」
そう言って私の頭を撫でるその表情はいつもの朝顔さんのものだった……が、一頻り(ひとしきり)撫でるとまるで夕顔のように表情を失う。
これが朝顔さんの仕事モードか、この親にしてって感じだな。
そして瞬身の術で我が家から姿を消した。さすが上忍、動きがまるで見切れない。
「……ハヤテ」
残った母さんは近づいてきて私を抱き寄せた。
「母さん達、頑張るからね」
未然に奇襲は防げたかもしれない。しかし、五大国と呼ばれる国を2カ国も相手に戦争することになる。
これはもう大戦という規模に突入するということだ。
そして、その被害は……我が家に来ないとも限らない。
「私も頑張る」
その発言にどのような思いを込めているのか母さんも察したようで抱きしめている腕の力が増し、震える。
これが普通の子供の発言なら背伸びした発言か、家でお利口に過ごすという健気な発言かのどちらかだ。
だが、私はどちらにも当てはまらない。
五大国の2カ国を相手に戦争をするとなると下忍すらも戦場に駆り出されるだろう。
そして、私の実力が現在の下忍を上回り、新米中忍に匹敵するか本当の本当に一部だが上忍と並ぶ能力があると自負しているし、昼顔さんや母さんの反応でも間違いはないはずだ。
そんな私を忍学校に通わせ続けることは不可能だろう。そして私を大きく上回る才能を持つ夕顔も。
更には今回の推測を話したことで私の評価は上げることになる。
しかし、同時にこれは私が望んだことでもある。
このままなし崩し的に徴兵された場合、ただの成績優秀な下忍か新米中忍程度の扱いになってしまう。
それ自体に異論はない……が、夕顔と別に配置されてしまうことだけは嫌なのだ。私情と言われようと嫌なものは嫌なのだから仕方ない。
というわけでこの推論が手柄となるなら積極的に戦功とし、夕顔と同じ部隊に配属させてもらう。それが私の計画である。
これは母さんにも朝顔さんも協力してくれるとのことだから少し安心している。
「生き残りなさい」
「母さんこそ」
これが親子の会話だというのは辛い世界に生まれた……と思ったが、本当にそうだろうか。
現代は現代で多くの闇を抱えていた。
必死に頑張っていたとしても褒められずに貶され、世渡りが上手いことが評価の対象となる社会。
何事も人権が優先されるなんて正直歪過ぎると思う。
銃で撃たれても撃つなと言われる警察、流行り病が発生した国から帰国したのに検査拒否する帰国者、虐められている方も悪いなんていう訳のわからん道理を通す教育者。
そんな社会よりもこの世界の社会はわかりやすい分だけ生きやすいようにも思える。
少なくとも――敵を殺しても讃えられることはあっても責められることはないのだから。