第三十四話
影分身の術と多重影分身の術には明確に違いがあるらしいことを暗部から聞き出した。
まず大きな違いは時空間忍術を混ぜることで作り出した際に本体と影分身の位置を任意で入れ替えることができるとのことだ。
それを聞いた瞬間不覚にも、おお、と声を漏らしてしまった。
影分身の術の弱点は呼び出した本体はそのままであることだ。これが数十もの数を揃えれるなら目隠しにして誤魔化せるが、そこまでしてしまってはチャクラの消耗が激しすぎるため実用性は高くない。
合格祝いだと暗部の忍から印を教わったのだが……空間忍術を組み込むというだけあってチャクラの消費が大きい。
しかし、それ以上のアドバンテージを得られると確信する。
そして影分身の術で数を増やすよりもチャクラの燃費がいいのも見過ごせない。
ただの影分身を生み出すのに必要な消費チャクラが2割ほど違う。これが2、3体なら誤差……と言うには少し多いが、それでも許容範囲だと思えるんだがさすがに5、6体になれば重いし、10体ともなればかなりキツイ。それもあって影上半身の術を生み出すに至った。
ただ、印自体は増えていないが時空間忍術の術式が使われているので多重影分身の術の難易度は高いのだが――
「――よし」
私の性質変化との相性がいい。
教わった通りに実践するだけで1発成功。
もっとも第三者がパッと見ただけだと影分身と多重影分身の違いなどわからないだろう……が暗部の人はわかるようだ。
「さすがね。教えてすぐにできるなんて」
――しまったな。せっかく増えた手札をうっかり披露してしまった。しかも自分の性質変化に繋がりそうな情報を。
この手の情報は私はなるべく漏らさないようにしているのだ。だからこそ剣術と幻術をメインに戦ってきたのだ。
なのに影分身を使い、更に多重影分身までも使ってしまった……同里とはいえ、身内以外を信頼する気はない。戦争ともなればどこから情報が漏れ、我が身に返ってくるかわかったものではないからな。
「ところでそれ見ないの?」
おっと、気になることができてついつい話し込んでしまって肝心の封筒の中身を見ていないな。
「うおっ?!」
紙を覗くとでかでかと合格の2文字が書かれ――この文様は術式か――と認識した途端小規模の爆発……影分身が解除された時のようなそれが起こると、いつの間にか木ノ葉隠れの忍を意味する額当てが現れる。
ただし、それだけなら未熟な者なりに認められたかと感慨に耽ることができただろうが問題は――
「暗部の……仮面」
そう、共に出てきたのは暗部の仮面だった。
「おめでとう。君は中忍兼暗部候補となった」
夕顔と共に過ごすために頑張ったらものすごく面倒なおまけがついてきた。
暗部の人から聞いた話によると元々夕顔の暗部入りは家柄的にも実力的にもほぼ確定していたそうだ。
だから同じ部隊に所属するだけの実力があるかどうか私を試したそうだ。
前半の1対1が中忍試験で、不意打ちを凌ぐか、そして先程行われた暗部の人による奇襲を防げるかが暗部入りの試験だったらしい。
つまり、この合格通知は地獄への招待状と同義であったのだ。
とりあえず表向きは中忍で、火影から依頼があれば暗部として働くという形になる。
そして表向きとはいえ中忍である以上、私と夕顔の2人だけの部隊というのはありえない。
スリーマンセル、3人で1組というのが今の木ノ葉隠れの里のドクトリンだ。
ちなみに第2次忍界大戦の頃はツーマンセルが基本だったのだが、2人では片方が負傷してしまえば揃っての生還が難しくなることや大戦の被害によりどうしても身体能力が劣ってしまうくノ一の増加によりスリーマンセルに移行したという経緯がある。
というわけで私達と共に行動する新たな仲間を待っているのだが――
「……2人がよかった」
と夕顔が無表情でむくれている。
日常でならともかく戦場で2人きりというのはリスクが高すぎるだろ、とは思うが口にはせず、頭を撫でて機嫌を取る。
こういうところは子供らしいな……故に私が気を引き締めなくては。
「来たようだな」
「ん」
こちらに近づいてきている気配を感じる。