第三十五話
生死を共にする者が現れた。
しかし……その姿は少々変わったものだった。
年頃は14、15と言ったところの少女(私達の方が年下であることはさておいて)で、髪は長くおそらく生まれてから切っていないのではないだろうか。
そして最大の特徴は――
「私は月光ハヤテだ。よろしく頼む」
「……卯月夕顔」
「初めまして、日向ヒカゲといいます」
そう、彼女は日向一族の者だ。
日向一族、白眼という瞳術を持ち、しかもその瞳を移植すれば誰でも使うことができるほどの親和性まであるということで日向一族は基本的に一族内か、よほど信頼できる忍と共にしか活動をしない……はず。私程度の情報収集能力ではそこまで深い情報は得られないから確実とは言えないが。
にも関わらず、私達の班に配属されるというのも異例だが、実のところそこに驚いたのではない。
本当に驚いたのは彼女の瞳が……オッドアイ、片目が白眼、片目が黒い瞳なのだ。
文献が間違っていなければ白眼は血継限界というだけあって血に影響を受けるがそれは瞳の色にも確かに現れる。
だが、それは純度の高い白眼は白に薄紫の入ったものとなり、他の血が混ざって開眼した場合は白眼を使用する時のみ白眼の色となる。
故にオッドアイというのは異例中の異例。
そして異例というのは差別の対象となることは容易に想像がつく。だからこそ日向姓にも関わらずヒカゲなどという名前を付けられたのだろう。
もっとも前世の記憶がある私としては中二病っぽくて痛々しさを感じてしまうが。
ともかく、あまり集中して見てしまっては気に触るかもしれないので視線を散らす。
その仕草の意図を見抜いたのか、くすっ、と小さく笑い――
「お2人はお優しい方ですね」
「……興味ないだけ」
どうやら夕顔も気を使っていたようだ。相変わらずの無表情に素っ気ない声だが私にはそれが照れ隠しであることがわかる。
しかし、出会って間もないのに私はともかく、よく夕顔の感情を読み取ることができたな。
とりあえず可愛いので撫でておく。
「フフフッ、仲がよろしいですね」
「一応婚約者だからな」
「一応は余計」
秒と置かず間髪無いとはこのことだと思わせる速さでツッコミが入ったことに苦笑いを浮かべると何を笑っておるかっ、と言わんばかりにポコンッと拳が飛んできた。もちろん本気ではないため大してダメージはない。強いて言えばその可愛さに心の吐血で出血多量か。
「あら、その年でもう婚約を?」
結婚年齢が低いこの世界でも私達の年齢で婚約が決まっているのは稀だ。
とは言っても血継限界などの特殊な事情があれば年齢1桁で婚約者が居ても不思議ではないが……やはり日向一族からはあまりいい待遇を受けていないのだろうな。このぐらいのことは血継限界保有の一族が教えていないわけがない。
まぁ私も夕顔も血継限界があるわけでも無いのでその当たりを把握した上でのこと……いや、それなら婚約自体を知っているはずだ。
つまり、私達が彼女と組むことになった背景は、白眼というカードを使いつつ暗部候補である私達2人を護衛としたわけか。しかも私の年齢からして不埒なこともできない。
上手いこと利用されているな、と感じるが良くも悪くも白眼が共にいるのは心強い。
本来の瞳術には劣るだろうがそれでも使えないということはないだろう。
「婚約は婚約でも恋愛婚約」
と夕顔が付け加える。
ちなみにこの言葉の裏には政略結婚でも親に決められたものでもないからちょっかい出さないでよね!と言っているのだ。女は幾つでも女というが本当だったようだ。
しかし、さすがにそんなことを言っているというのはわからなかったのか、わかった上で反応を示さないのか、ヒカゲは涼やかに微笑んでいるだけで何を思っているのかまでは推し量れない。
夕顔とは違った意味で表情が読みづらい。
「それはよかったですね。私とも仲良くなってくれたら嬉しいのですが……」
「考えとく」
ちなみに夕顔の考えとくは前向きに検討しますとほぼ同義である。
それからしばらくは親睦と連携の訓練に明け暮れた。
私や夕顔は今更だが、ヒカゲはなかなかの強者だった。
幸いヒカゲの白眼は片目故に偏りがあるものの能力に問題はなく、独特な近接戦闘である柔拳も使える。
強いて問題を上げるとすれば――
「決して、決して本家にはご内密にお願いします!平に!平に!」
一体何があったかというと、まぁ既に私の十八番と化したことでつい癖で幻術を白眼状態のヒカゲに掛けることに成功してしまったのが運の尽き、白眼は写輪眼と同様に幻術を掛けることに成功してしまった。
そしてその結果がヒカゲのこの恐ろしいまでの動揺だ。
やはり写輪眼と同じように幻術に対してはその洞察力を保って看破するのだが、いつもの通り幻術を発動するとあっさり掛かってしまった。
私としてはそれでよかったのだが、なにせ白眼を騙すことができたのは行幸だ。
そして肝心のヒカゲの反応は、瞳に悲しみを背負うことになっている。
その様子からやはりヒカゲは日向に冷遇されていたようだな。あまりに必死でちょっと恐怖を感じた。