第三十八話
「岩隠れの忍は随分といるようだな」
元々草隠れの里は中立であるため岩隠れだけでなく、木の葉隠れの忍も多く存在していたのだから不思議ではない。
ただし、戦時となってからは事前に結んでいた条約に則って中立である草隠れの里から双方の忍は撤退して緩衝地帯となった……はずなんだが。
「まぁ馬鹿正直に撤退するはずなんてないか」
けど木の葉隠れの忍はほぼほぼ撤退していたりする。
理由としては砂隠れとの報復戦争ということもあって人材を引き抜いたこと、戦線の増加と兵站の維持を考慮すると得策ではなかったからだ。
だからこそ私達が情報収取に走らされているともいう。
「どうします?」
「とりあえず緊急性はなさそうだから火影に判断を仰ごう」
岩隠れの動きは今の所ない。
どうも岩隠れの忍が草隠れの里に潜伏している理由は軍需物資の確保にあるようだ。特に医薬品と毒を入手しているようだ。
見過ごすにはことが大きいが緊急性が高いかと言われれば難しい。
医薬品は継戦能力を、毒は殺傷能力と兵站の負担を、と厄介なことこの上ない。しかし木の葉隠れは豊富な資源を背景に、その手の資源は自前で用意ができるだけであり、岩隠れがそれを多様しようとしているというよりは自然資源に乏しいから草隠れの里を頼っているという側面が強いだろう。
つまり、軍事活動的には特筆すべきものではないと言える……はずだ。前世を含めて戦争なんて経験したことがない上に、この世界のことすらもろくに知らないため確かとは言いづらいが。
「……役割は情報収集」
夕顔が言う通り、私達の役割はあくまで情報収集が任務。戦術、戦略を考えるのは火影でいい。火影もそう思って新人の私達をここに派遣したのだろう。
ちなみにヒカゲは私達より先任ではあるが、正式に忍となって2年、暗部に所属してからは半年という新米に毛が生えた程度なので扱いはそれほど変わらない。
「……ところで特に取り決めがあったわけではないのだが私がリーダーみたいになっているがいいのか先任」
「仕方ないでしょう。夕顔さんは絶対私の言うことを聞いてくれませんから」
「……………………聞くよ?」
「その間が答えのような気もしますが……ならハヤテさんが反対する私の方針に従える?」
「断固拒否」
「駄目じゃないですか……というわけで私は無理ですし、ハヤテさんと夕顔さんの2人ならハヤテさんの方が向いていると思います」
「ヒカゲ、見る目がある」
「ありがとうございます」
随分と夕顔に慣れたみたいでツッコミどころだろう発言を見事にスルー。
まぁ無表情で何を考えてるか分かりづらい夕顔だが、接してみると行動パターンはわかりやすいから慣れるにはそう時間は掛からないか。
草隠れの里で任務についてから5日過ぎた。
草隠れ自体は特に目立った変化はないが、岩隠れの忍は増加傾向にある。
物資調達にしては人員の投入数が多すぎるため何らかの行動があるだろうと調査を始めたがなかなか目的を掴めないでいる。
言動から察するにどうも潜伏している岩隠れの忍達も任務内容を知らされていないみたいだ。
岩隠れの上忍っぽいやつに小さな私を張り付けて情報収集をさせているが決定的な情報は入ってきていない。
むしろ問題は――
「救出部隊が岩隠れと激突、砂隠れ侵攻部隊は被害多数か」
救出部隊は予定通り派遣され、そして予定通り雨隠れの里へ封鎖している岩隠れと正面衝突したらしい。
本当に正面から激突したらしいんだが……本当に前世の忍という概念を守らないよな。
それはともかく、今の所戦況は木の葉隠れが有利だと書かれていたが……やはり疑問が残る。
来るとわかっている敵に対して対抗策を施さずに正面から戦う?もしそうなら木の葉隠れを舐め過ぎだ。
そして深刻なのは包囲状態の砂隠れ侵攻部隊だ。
大掛かりな忍術で巨大な砂の城……いや、囲まれている方だから砂の牢獄か……が形成されて逃げることもままならない状態らしい。
不幸中の幸いは砂隠れが短期決戦ではなく、被害を極力出さないように長期戦を望んでいるような動きをしていることだろうか……だからこそやはり岩隠れの動きが解せないのだが。