第三十九話
「2人共、無事か」
「問題なし」
「こちらも」
フゥ、なんとか逃げ切れたか。
草隠れの里に潜伏している岩隠れの忍に動き出す予兆があり、火影に報告に伝書鳩を出してしばらくすると小さい私の一部が解除され、本体の私に情報が流れ込んできた。
影分身が解除して知らせるのは緊急性が高い場合にしか行われない連絡方法だ。
つまり、緊急事態である。
その内容は潜伏中の岩隠れの中で上位層であると思われる人物とその周囲の人物に張り付いていた小さい私達によるものだった。
張り付けていた上位層と思われる人物達は予想通り指揮官に位置する上忍であり、そして里から命令内容を入手することに成功した。
そしてこの命令が作戦内容には山狩りを行えというものだった。
話していた内容から察するに私達以外の木の葉の忍が下手を打って捕まって情報が抜かれたらしい。
この世界は忍術があるので前世の世界のように口を割らすのに手間が掛からないのは良いのか悪いのか……何にしても私達にとっては迷惑な話である。
もっともその捕らえられた忍も私達の存在は知っていても居場所などを知っているわけではなかったので難なく逃げおおせた……というわけではない。
当然私達と潜伏中とはいえ岩隠れの忍の数では私達の方が数が少ない。具体的には岩隠れの忍の数は把握しているだけで33人、把握できていない数を入れなくとも圧倒的戦力差だ。
ならどうするのか選択肢は1つしかない。
捕らえられた味方を助けに行く?どうぞ君が行ってくれ。私達は逃げる。
というわけで早々に退却を指示すると夕顔はもちろんだがヒカゲも反対意見どころか理由も問わずに従ってくれたのでタイムロスはほぼなく引き払うことができた。
しかし、どのような移動方法か知らないが決して遅くない私達の撤退に岩隠れの忍達は追いついてきた。
そして追跡の気配から察するにどうやら岩隠れ側には感知系の忍が3人ほどいたらしく危うく捕捉されるところだった。
私の影分身とヒカゲの白眼が揃っていなければ交戦することになっただろう。
ただし、追いついてきた方法が不明である以上、まだ安全とは言えないのが現状だが。
「ヒカゲ、敵の数や追跡術がなんなのか見れたか?」
逃走中の得ただろう情報の共有も兼ねておそらく1番情報を得ただろうヒカゲに話しかける。
「数は28までは確認したわ。術は正確にわかるわけではないけど地中に潜ってたわね」
把握していた敵の数と合わないが、解除されていない小さい私が5体いることからおそらく草隠れの里に留まっているのだろう。
しかし5人程度いないからと戦力差が覆るはずもない。
地中を移動か、たまに気配が消えているとは思っていたが……土遁が得意な岩隠れらしい方法ではあるな。
本当にヒカゲ、白眼さまさまだ。
「伝えておくが追跡している敵は少なくとも最後まで分身の類はいなかった」
「そうなんですか?」
「ああ、私はなぜか分身かどうかわかるからな」
「それはすごいですね」
ちなみに白眼は分身、特に影分身は見極めはできないと聞いているので驚くのも無理はない。
ほぼ万能と言える白眼であるがゆえに白眼でできないことができるというのは凄く感じるのだろう。
「……敵倒す!」
ただ1人活躍できなかった夕顔なんとか自分の見せ場を!といつも以上に感情的で子供っぽさが表に出ている。可愛いので頭を撫でておく。
「さすがにあの数は駄目だ」
「私達なら勝てる!」
「そして勝って何を得るのかな?」
「え?」
そう、撤退を選んだのは私達が奴らに勝てないからではない。
私と大事な婚約者、そして仲間の命を賭ける価値を見出だせなかったからだ。
楽には勝てないだろうが本気で掛かれば勝てるだろう。順当に行けば全員しなないはずだ。
しかし――
「夕顔の中の私の価値はその程度か?」
「そんなことはない!!」
「ああ、私にとっての夕顔も……そしてヒカゲもな」
「……照れますね」
うん、ヒカゲの闇も少しは軽減できたらいいな。