第四十話
「里との境まであと少しだが――ここまで追ってくるか」
「しつこい」
これほどの移動速度とは地中の中はそれほど快適なのか?と疑問を抱いてしまうほどの機動力だな。
そしてやはり地中を見通す白眼とヒカゲさまさまである。動きからして奇襲するつもりで動いていたのがわかるがこちらからは動きが筒抜け状態だ。
私と夕顔だけでは既に戦闘状態に入って勝敗も決している頃だろう。
それにしてもここまで私達を執拗に追いかけてくる理由がわからない。まさかこのまま木の葉隠れに攻め込むつもりか?いや、数から言うと攻め込むなんて仰々しくはないか。侵入するというのが適当か。
となると――
「ハァ……結局戦うしか無いか」
このまま敵を引き連れた状態で里に入ったりしようものなら非難轟々、最悪の場合寝返りの疑いまで掛けられてしまう。
「出番?」
いつもの無表情は何処へやら、期待に瞳がキラキラと輝いて訴えてくる。やっちゃう?殺っちゃう?と。
まぁいくら言い聞かせたとしてもこういう感情は制御が難しい。それは大人でも同じであり、子供ならなおさらだ。
「ああ、出迎えてやろう」
「頑張る」
ムンッと小さくガッツポーズをして気合いを示す姿は愛らしい。愛らしいが――そんな彼女に人殺しをさせるのに抵抗がないかと問われれば否である。
前世の記憶を有する私が年端も行かぬ女児に人殺しをさせるなどあってはならないことだ。
そんなことは百も承知……だったはずなのだが、やはり現実が目の前に迫って来ると戸惑ってしまう。
私の手を汚すことは覚悟しているし、その覚悟に揺らぎはない。
こんな世界に生まれ、忍として生きるのなら避けて通れない道だ。そして夕顔はそれを当然としている以上、私は止めることができない……私の方こそ歪な存在なのだから。
ああ、ちなみにヒカゲに関してはもう既に経験積みなのは聞いている。
ただやはり見聞きしただけではあまり現実味がないだけかもしれないが、恐怖などはなく、どちらかというと頼もしさが先に来た。
覚悟はしているが動揺しないとも限らず、夕顔も動揺しないとも限らない。その時にフォローに回れる人員がいるというのは心強い。
「迎撃準備だ」
「やっと追いついたか」
草に隠れたネズミ共を追いかけてこんなところまで来ちまった。
途中で追撃から木の葉隠れ里へ侵入し後方撹乱の任務に変わったとはいえ、ここまで追いつくのに時間がかかるとは思わなかった。
分身の囮もうざかったし、何より気配は追えるのに姿を捉えるまでの距離に詰めることができなかった。
「あれか」
おそらく俺達の気配がなかったこと境に近づいたことで警戒が緩んで休憩に入ったのだろう。各々木に背を預けて休んでいるのが見て取れる。
「……包囲して一気に仕留めるぞ」
「了解」
土から這い出て素早く包囲網を形成……敵には気づかれた様子はない。
「届かぬ声とわかっている」
しかし、警戒用の仕掛けもせずに休むとは気が緩めすぎだろう。
「待っている家族、愛する者、やり遂げたい夢、心残りは数多いだろう」
奇襲の際には予め合図を決めてある。後は――
「その思いは来世にて叶うことを願う」
合図を――
「こんなものか」
私が始末したのは10人。
全員、地中から出てきたところで幻術を掛け、首を切り落とした。
敵は3班に分かれていたので私達は連携するのではなく、各々で対応することにしたのだが――
「……思ったよりも衝撃がないな……それとも今だけか?」
地面に転がった岩隠れの忍の首を見て思う。
私はもっと人間として普通の存在だったと思っていたのだが……それともその転がっている首があまりに無表情だからだろうか?