第三話
何も言っていないのに培養槽などの必要な設備が送られてきた。
貧しいくせになかなか太っ腹だな。
最低限のものは物々交換で手に入れようと思っていただけに嬉しい誤算だ。
ちなみに今回のスクラップ作品は超高性能カメラの予定だったが、これだけの設備と素材があれば問題ないな。
……それにしても設備は全てアナハイム製か……そういえばアクシズはアナハイムが出資していたような記憶があるが、今もそうなんだろうか?まぁ私にはどうでもいい話だが。
クローン医療の何が素晴らしいかというと自分の細胞を培養して使うため拒絶反応がないこと、使い捨てができること、そして……改造できることだ。
まぁ改造すると拒絶反応が出たりするので良し悪しではあるが、その変わりまだ実現できていないが理論上は24時間程度なら空気を外部から補給しなくても生存可能にすることもできる……はずだ。
とりあえず改造なんてせずに全うな医療用に専念するとする。でないとスポンサーに見放されては身動きが取れなくなる。
クローン技術の進歩は我慢の連続だ。
理論なんて完成させても実際できるかどうかはトライ・アンド・エラー。
それに計算や理論などより経験から来る勘の方が当てになることが多い……のは私ぐらいかも知れないが、少なくとも私はそう思う。
そして、1ヶ月の成果で出来上がったのが……びっしり鱗で敷き詰められている皮膚である。
……ファンタジーものの小説を読んでリザードマンを実現してみたくなったのが敗因である。
ついハッとしてやった。反省しているが後悔はしていない。
ちなみに性能面は拳銃程度なら25mほど離れていれば貫通できないはずだ。
さて、これを成果として上げていいものだろうか?明らかに一般受けがよろしくない部類のような……いっそ自分に移植してみるか?
全身するのはさすがにちょっと気が引けるが心臓と肺を守る程度なら選択肢としてはアリだ。
真面目に視野に入れて……む、これは……重いな。これでは動きづらい上に簡易防弾チョッキを着た方が効率的だな。残念だが不採用だ。
何やら騒々しいが何かあったのかと思いハッキング。
そうすると……なんとびっくり連邦軍襲来。
こんな辺境までご苦労なことだ。
ハト派のマハラジャ・カーンあたりは頭を抱えているだろうな。
さて、アクシズの軍隊の実力を見せてもらおうか……もっとも連邦も一年戦争が終わったからと遊んでいたわけではないだろうし、アクシズは未だに現実を受け入れられない子供のようなもの。
もし連邦が何らかの手段を用いたとしたら……いや、アクシズの規模を把握しているはず連邦が攻撃を仕掛けてきたということは戦功を焦ってか、それとも勝つ自信があると考えるべきか。
となると……アクシズは危ういな。
……ん?シュネー・ヴァイス?ビット・キャリアー?……この感じ……ハマーン・カーンか、勇ましいな。なるほど、サイコミュ搭載MSか、ニュータイプらしい増長の仕方だ。
そして出撃してビビるとは、典型的過ぎて笑えんな。
ん?……なるほど、ハマーンはシャアにお熱か、ニュータイプは恋愛モードに入れば不安が取り除かれ強くなるが……ニュータイプ同士の恋愛は基本上手くいかないだろうと以前誰かがレポートしていたな。
それにしても……ビット・キャリアーか……ビットを機体とは別に格納してコンパクト化を目指しているのか、方向性は悪くない。おそらく将来的にはMSに搭載することが目的だろう。
しかし、エルメスのビットを小型化しただけだとするとパイロットに負担を強いるのは変わり無いはずで、そうすると継戦能力に問題があるはずだ。防衛戦に向いていると言えるだろうか?
そもそもビットというのは中途半端な兵器で、敵が複数になると本体の操縦が疎かになるか、ビットの操作が疎かになる。MAでもそうなのだからもっと複雑な操縦をするMSなら当然もっと粗が出る。
タイマン勝負なら無類の強さを誇るが、そもそも戦場でタイマンなんてなかなか無いシチュエーションだ。
エルメスのように遠隔から不意打ちするスタイルならそもそもMSの必要がないのだし……実用化するならMSもビットも操縦できるニュータイプパイロット育成から始めなければならない。
だが、ニュータイプのパイロットなどそう簡単に増やせないし、強化人間は増やせなくもないが安定性に欠ける……下手をすれば錯乱して同士討ちなど目も当てられない。
そこでクローンなのだよ諸君!
クローンの1人をニュータイプ、もしくは安定した強化人間にすることができればマニュアルを作成し、量産することも可能なのである!
……α、β、γ(検体の呼称)も囃し立てんでいい。ノリでやってみただけなのだから。
それにしても……酷いな。
連邦のMSの反応がおかしいのもあるが、アクシズの部隊は動揺し過ぎだ。
連邦軍のMSは何らかのプログラムでサポートされているであろうことは決まった動作で決まった行動ある程度察することができるだろうに……いや、一部のアクシズの部隊は一年戦争の経験者がいるようで動きが明らかに違う。
だが、その一部は本当に一部であって大半は新米のように見える……まぁ素人の私がどの程度正しく見抜けているかは不明だが。
……ここで1つぐらい功績があってもいいかもしれないな。
……カーン提督に繋いでくれ。
忙しいのは重々承知だが3機ほどMSを提供してくれないかと伝えてくれ。
……あ、そう、了解。
思った以上に許可が取れた。
もしかして私が動くことを予見していたのか?だったらカーン提督の評価を改めなければならないな。
さて、α、β、γ、出撃してもらうぞ。
そして朗報だ。ザクIIF2型を使っていいそうだ……なに?今まで使ってきたザクとはコクピットが違うから使いづらい?根性でどうにかしろ!そもそも訓練はしているだろう!
あのジムはおそらく近接戦闘はろくな動きができん。そこを攻めろ。
この際死んでもいいが1人最低3機は沈めてこい。
ん?作品は大事にするという信念は何処いった?
ハァ、君達はかの有名な名言を知らないようだな。特別に教えてやろう。
芸術は爆発だ!
これはどんな駄作でも爆発してしまえば芸術となるという深い意味がある言葉で……なんだ?共感できない?だからニュータイプ(肉体強化、薬物使用の少なさで強化人間に部類しない)としても未熟なのだ!
もし目標達成できずに生きて帰ってきたりすると死んだ方がマシな地獄に招待する。
目標達成できたなら……酒でも奢ってやる。
では、健闘を祈る。
行ったか……一応強化人間としては中の下ぐらいの仕上がりで攻略法も教えたのだから大丈夫だとは思うが……まぁ死んだ時は死んだ時か。
唯一の不安要素は検体達の精神。
ニュータイプのほとんどは最初は劣等感や孤独感が強い、そして思った以上に自分がやれると思った瞬間に増長して足元が疎かになる傾向が多い。
まぁこちらの方が味方や敵の……人間の死に引き摺られないだけマシではあるが……ニュータイプの素質が高いとどうしても精神に深く影響を与えてしまう。
その影響の善悪は知らんが、大体はニュータイプとなるきっかけになったPTSDで大変なところに更に追い打ちして深刻化してしまう場合が多い。
それをケアするのも私達研究者……なのだが、以前軽く触れたが私以外の研究者はそのあたりを軽く見るため精神が安定せず、失敗作品か駄作しか仕上がらないんだよ。
これだからマッドは……。
お、検体達が出撃したか……ふむ、ニュータイプにしては連携が上手いな。
感受性が高いくせに独りよがりなニュータイプのくせに……ああ、そういえば奴らは元々軍人だったか。
いや、元々は不良軍人に属する存在だったような?
お、一気に2機撃破か……思った以上の功績だ。
ん?そういえばハマーンの機体とゼロ・ジ・アール……パイロットはシャアか……がいなくなっている?
……もしや艦隊を叩きに行っているのか?また無謀な……とは言えんか、MS戦は不利な現状、少しでも被害を少なくしようとするなら母艦を落とすことこそ最短の道か。
シュネー・ヴァイスとゼロ・ジ・アールの組み合わせならば遅れを取らんだろう。
それにしても……アクシズは艦隊を温存するつもりか……いや、今艦隊を出せば良い的かアクシズに侵入を許すか。
おお、更に4機撃破か……想像以上に頑張っているな。ひょっとすると黒い三連星の再来と呼ばれる……あ、γが墜ちた……まぁ戦争とはこういうものか。
一応6機撃墜したからノルマは達成ということにしてやるか。
うーむ、やはりニュータイプの残留思念はなかなかにキツイ。よく皆平気でいられるものだ。よほど戦争で神経を磨り減らしているに違いない。
それにしてもビーム兵器とはなんとも理不尽な兵器だな。当たれば一撃で最低でも致命傷とは……装甲とは一体何なのか……時代は変わったな。
ビーム兵器を主武装とするには資源などの生産コストの問題がある以上、難しいだろう。
アクシズの主軸がハト派とはいえ、今回の件でタカ派が勢いづくのは間違いない。
もしかするとクローンの研究にも弾みがつくか?むしろ乗っかって煽るというのも……いや、タカ派の情報を集めてからだな。
αとβは無事帰還、γはやはり戦死……まぁ思念波が届いたからわかってたけどな。
戦果の方は……9機撃墜。
α、βおめでとう。
罰ゲームは無し、褒美は豪華な食事と酒を楽しむが良い。
まぁ、祝う気になれない気持ちはわからないでもないが今お前達がやることは戦いで疲れた身体を休めることだ。
γの思いも受け取っただろう?……ん?何のことかわからんのか?
……こいつら、それほど低能か。
まぁ所詮はまだニュータイプの下の下の下だから仕方ないか。
ふっふっふ、仕方ない奴らだ。
妙に上機嫌でどうしたかだって?
お前達あれほど強力な思念を……いや、いい。
実は生きのいいモルモッ——ゲフン、検体が来ることになったのだ。
念の為に言っておくが、γの交代要員ではなく、心のケアをするためにここに——誰だ?!地獄に遊びに来るなんて酔狂な奴とか言ったのは!!
これでもフェミニストで通っているのだ。つまりお前達は男だからテキトーなのだよ。
優しくされたかったら来世は美女に生まれて来い。