小さな改定がありました。
主人公の検体であるα達が出撃する際に乗ったMSはザクIIF型ではなく、ザクIIF2型です。
第六話
マハラジャに頼んでMSシミュレーターの優先使用許可をもらった。
今までは精神訓練やニュータイプ能力の訓練が主だったが、連邦襲来で軍事拡大路線に傾いたことでパイロットの需要が増したため、その波に乗ろうと思ってのことだ。
今のところ操縦訓練をしているのはαとβだけだが兵士としてはそこそこ強くなってきた。アクシズにいる一年戦争未経験者の中では上の下ぐらいか。
α達には近いうちに転属命令が出るかもしれないな。
……ん?ああ、マハラジャの使いか、何のようだ。
……ゼロ・ジ・アールの再設計?そういえば中破したと聞いたが、それの改良機としてか?
違うのか、つまり後継機ということか。
サイコミュは?……無しか、残念だ。
承った。
期待してるといい……ところでこれはシャアが乗るのか?
ハゲ……ゴホン、デラーズ・フリートに送るのか。
パイロットは?……アナベル・ガトー?確かソロモンの悪夢とかいうイタイ異名が付いてるやつか。
データは……ああ、このデータディスクに入ってるんだな。
では、マハラジャ提督によろしく伝えておいてくれ。
毎回毎回思うんだが、なんで研究者の私が開発をしなければならないのか……そもそも分野が違っているため、既存の技術を調べるところから始まるから面倒なことこの上ないのだがな。
ドラッツェに関しては既にある兵器を組み合わせるだけだったから簡単だったが今回はゼロ・ジ・アールの後継機と言う名の新型機を作ることになるわけで、その労力は計り知れない。
唯一の救いは兵器開発部とは物々交換を頻繁に行っている仲であることだ。今回のことではおそらく競合相手ではあるが協力を得られるだろう。
ハァ、クローン開発はいつになったらできるのか。
シャアがゼロ・ジ・アールからゲルググに乗り換えるという噂を聞いた。
そしてその慣らし運転に際して模擬戦闘訓練を行うとも聞いたのでαとβをねじ込んでみた。
機体は以前の出撃に使ったザクIIF2型を正式に配備してもらい、私が魔改造中だ……おや?自分で仕事を増やしてる?いや、これはニュータイプ研究の一環だ。うん、そうだ。
ゼロ・ジ・アールの後継機開発もしながら、ニュータイプ育成をしつつ、ハマーンの面倒を見て、魔改造をする……ちょっとハードだな。
サイコミュの生産はまだできず、OSやブースター、スラスター、更に連邦のMS……ジム・コマンドという名らしい……に使われていたマグネットコーティングを施している最中だ。
元々ジオンでもアクト・ザクという機体で試験運用されているそうだが私にその存在を詳しく知る伝手はなかった。ハッキングしても見つからないあたり他の場所で開発、試験されているのだろう。
もっともα達はF2型を使いこなせているとは言えないから宝の持ち腐れ感があるが、連邦の専用機に施されていたならまだ無視できるが、量産機に施されていたとなると話が変わってくる。
おそらくこれからはマグネットコーティングが標準装備とされることになるから先に手を打っておくということだ。
となるとハマーンの機体はもちろんのこと、イリア・パゾムの機体やゼロ・ジ・アールの後継機にも施す必要があるか……アナベル・ガトーのデータを貰ったがニュータイプではないことを考えなければなかなかの腕前である程度無茶な機体でも操縦はずだ。
……正直に言うとアナベル・ガトーはα達よりも断然強いという計算が出ている。それも2対1の結果でも同じだというから恐れ入る。
もちろん実戦は計算と違うことはわかっているが、計算の上で勝てるだけでも相当なものだ。
なんでアクシズに受け入れしなかったのだろうか……あ、そのデータもあったか。ハゲに感化されてロマンを追いかけてるんだったか……勿体無いな。
もしこちらに来ていたならシャアと並んで発言力を得ただろうに……まぁ本人はそんな権力なんぞ興味なさそうだが……そういう意味ではシャアも変わらないか。
シャアとα達が模擬戦を始めた。
てっきりシャアの部隊だけかと思っていたら他にもいた……その中には連邦襲来の時に奮戦していたラカン・ダカランもいたのは驚いた。
ラカン・ダカランはデータでは6機撃墜している。私の作品達は3人で組んであの結果なことを考えるとかなり優秀だ。
どうやら連邦襲来の時に不甲斐なさを感じて訓練を申し込んだそうだ。皆考えることは一緒だということだな。
さて、肝心の内容だが……シャアの取り巻きであるアンディとリカルド(後のアポリーとロベルト)とラカン・ダカラン達の戦いは一方的という言葉をこの場面で使わなければ他に使う機会がないぐらい一方的で終わる。
インスタント食品ができあがるかできあがらないかぐらいの時間しか保てなかった。
これがエースと言われる存在なのか……赤い彗星というネーミングもあながち誇張ではないな。
しかし、レポートであったとおり、あのような操縦をするならゼロ・ジ・アールは好まないというのはよくわかる。
ドズル・ザビの意志を尊重してなのかは知らんが、向いていない者を乗せてもろくなことにならないことぐらい想像できないのか、ここの上層部は……闘争から離れた獣は所詮この程度なのか。
シャアは攻撃をしないなどというハンデを背負った状態で勝てたのは、シャアだけでなく、取り巻きの2人の腕もいいからだ。
これはα達の自尊心を叩き折るにはちょうどいいかもしれない。
自尊心は成長の妨げになることが多いから複雑骨折ぐらいにおってもらって構わないぞ。
だが、多少は粘らないと参加できず拗ねて眺めているハマーンに何をされるかわかったものではないからそれなりに頑張れ。
許可を出さなかったのはマハラジャなのだから私達は無関係なはずなんだが。
さて、始まったようだな。
「どちらが勝つと思——」
「シャア大佐に決まってるでしょ」
間髪入れずに言ったな……愛されているなシャア、この少女たらしだ。
ああ、でもナタリー中尉と最近いい感じだったんだったか?あちらは子供っぽいところもあるが一応成人していたか。
子供ができたときはぜひ私の研究室にあずけてくれないだろうか。
それはともかく、戦いの様子だが……まぁ質が劣る上に数が劣るとなるとどうにもならないな。
ニュータイプらしい反応の良さで取り巻き2人の攻撃は避けているものの、α達の攻撃も同じようにかすりもしない。
やはり連邦のニュータイプと言われている白い悪魔と戦い続けた者だけあってニュータイプとの戦いはお手のものらしく、シャアの回避には余裕がある。
それに比べてα達は被弾こそしていないが回避に余裕が見えない……が、取り巻き2人からは若干焦りを感じる。
まぁ普通に戦っていればそれほど続けて回避されることはない。つまり、つい先日初陣を飾ったα達が攻撃を躱し続けるは取り巻き2人からすると異様な存在に見えることだろう。
「さて、そろそろ終わりかな」
「え、まだ2人共余裕がありそうなのに……なんで?」
「F2型の装甲、機動性、運動性は通常のF型に比べると全てを上回るのは知っているか?」
「もちろん。それにアレンも改造してたじゃない」
「ああ、改造はした……したんだが、実は致命的なF2型には元々欠陥が存在する」
「え、駄目じゃない。あ、もしかしてだからアレンのところに配備されたの?」
「何気に失礼な事を言う……まぁあながち間違いではないな。F2型は欠点とは……推進剤の少なさだ」
「……」
「当時のジオン公国は苦肉の策として推進剤を大幅にカットすることで重量を軽くした。もちろん他にも色々改良点は色々とあるが、注目すべきはここだろうな」
「…………動き、止まったわね」
やはりか、通常の戦闘とは違いってドッグファイトを続けていたようなものだから推進剤の消費量も多かったことは容易に想像がつく。
そうなると通常のMSより少ない推進剤では先に音を上げてしまうのは自明の理。
結果、攻撃が当たらないということはラカン・ダカランと同じだったが、戦闘時間は長かったので判定勝利……とも言えなくもない。最初から勝負していたわけではないがな。
「不完全燃焼ね」
「1番思っているのはα達だろうな」
だが、これで少しはやる気になるだろう。
所詮は一年戦争を経験せず、つい最近まで下から数えた方が早かったパイロットなのだ。
ちょっと戦果を上げたからと言って調子に乗られても困る。
残念ならが複雑骨折にはならなかったが罅ぐらい入っている……はずだ。
まぁまだこれで終わるわけではないようだしな。
今度はシャア対取り巻き2人&ラカン・ダカラン達というなんとも無謀な戦いをするようだ。
その間にα達は推進剤を補給してしまえば参加できる……かは微妙か、シャア達もなんだかんだでα達と戦っているから推進剤を消費しているだろう。
となるとα達対ラカン・ダカラン達という対戦が見えるか、データが増えることは良いことだ。
それにしても……以前から感じていたがシャアはニュータイプ能力自体はそれほど高くはないのか……むしろこれだけ戦えてニュータイプ能力が低い方が驚きだが、やはり経験……だけでどうにかなる技量だろうか、うーむ、検体として来てくれないだろうか。
「シャア大佐凄い……」
「将来ハマーンはシャアなどより優れたパイロットになれるだろうさ」
「本当?」
ああ、嘘は言っていない。
ただ、ハマーンに本当に必要なのは政治や人脈構築などだと思うがな。
今のところ悲しきかなニュータイプはMSの操縦にしか役に立てていないのが現状だから仕方ないとはいえ、ハマーンにパイロットなどという雑務の仕事をさせるとは思えないけど。
もちろん私的には優秀な検体が手に入って嬉しい限りなのだが。
「ところで先程ナタリー中尉から連絡があった。ハマーン、護衛に内緒で付いてくるのはいただけないな」
「……ごめんなさい」
ナタリー中尉はハマーンの付き人兼護衛でもある。
まぁアクシズという閉鎖的空間で四六時中一緒にいるとストレスが溜まるのもわかるがな。
そのストレスがニュータイプの素質を高めるというのがなんとも皮肉なのだが。