第七話
シャアのデータを手に入れた。
そしてわかったことは……とりあえず化物だとわかった。
ニュータイプレベルが多少低くてもあの技量で補う……補うという言葉が適切か微妙だが、何にしてもアクシズトップなのは間違いない。
データにはザクIIF型で蹴りを入れたというものがあったが……無骨そうに見えるザクではあるが正真正銘精密機械、相手が何であれ想定していない動作を行い負担を掛けるために故障する……というのは凡人の話で、部品に多少負担を掛ける程度に収めるのが化物である。
そんな化物に凡人の範疇を出ず、連携も未熟な検体とアクシズの新米が敵うわけがない。
こんな奴を相手していた連邦には同情する……が、それでも連邦が勝ったあたり、所詮一兵士の強さなんぞ戦争を左右するほどの力はないことを証明していると言える。
だからこそクローンによるニュータイプ、もしくは強化人間の量産化こそ肝なのだよ。
ハードに多少の差があったとしてもソフトが優秀ならかなり差が埋められる、それがニュータイプの能力なのだ。
まぁ未来予知のようなことができるなら当然ではあるが。
「ニュータイプといえばハマーンの妹であるセラーナ・カーンも良い素質を——」
「研究させないわよ」
「そこをなんとか」
「ならない」
わかってはいたが残念だ。
まぁハマーンが良しとしてもマハラジャが許可しないことはわかっているから言ってみただけだ。
なんともけち臭い奴らだ。これだから辺境は。
…………ところで本当にハマーンは入り浸りすぎると思うのだ。
ミネバ・ラオ・ザビの付き人になったのだから頻度が落ちるかと思ったが、むしろ増えている気がする。
以前までは週2、3程度だったのだが今は週4、5ほど来ている。
機器こそべたべたとつけたりしないが、ハマーンが好みそうにない訓練もしているにも関わらずである。
心理分析にはそこそこ自身がある私だが、さすがにニュータイプの女心となると分析ができる範囲は限られている。
その分析できる範囲では答えが出ないことはかなり多い。そして今回のハマーンの行動も答えが出ない部類のようだ。
まさか私に恋愛感情を抱いているなどということはないだろうし、研究を協力する動機もない……いや、付き人になったことで責任感が生まれたという可能性があるか……もしそうなら喜ばしい限りだ。
「そういえば、ゼロ・ジ・アールの後継機を開発しているのアレンなんですって」
「そうだが……誰から聞いた」
一応軍事機密である以上、一般人ではないにしても非戦闘員であるハマーンがそれを知っていいはずはない。
これがマハラジャから聞かせられたなら問題ないが、エンツォあたりから聞いたならば問題だが……
「ナタリーから聞いたの」
……さて、これはセーフか?アウトか?
ナタリー中尉はそれらしくないが中尉というだけあって軍人だが、この機密に触れれるだけの権限を持っているかと聞かれれば疑問がある。
どう贔屓目に見てもゼロ・ジ・アールは最終兵器に類する。その後継機ともなればゼロ・ジ・アール以上の軍機であるとも言える。
「……まさかとは思うが吹聴していないだろうな」
「そんなことするわけないでしょ!……その後継機には誰が乗るの」
「残念ながら誰が乗るのかは話せない。まぁ気になるだろう人ではないなとだけ言っておく」
「そう……」
やはり残念そうだな。
ゼロ・ジ・アールのデータを見ると連邦襲来時にシュネー・ヴァイスを艦隊の砲撃から庇ったというものがあった。
その時ハマーンの意識はなかったようだが、尊敬が深まり、他の感情が芽生えても不思議ではない。
しかし……シャアは私と同じように女性を不幸にする臭いがするからやめておいた方がいい……とは思うが口にはしない。
恋は盲目と言うし、以前にも言ったが恋路に首を突っ込むとろくなことにならない。
それにしても、シャアがパイロットではないことを知らないということはナタリーはたまたま聞き齧った程度の情報だったのかもしれないな。
……ハァ、防諜とは言わないが機密ぐらいは保って欲しいものだ。これだから田舎は。
「もしかしたらハマーンかもしれないぞ」
「いやよ。あんな大きなの乗りたくないわ」
「だろうな」
これで乗ると言ったらスペシャルハードコースをスケジュールに組み込むつもりだった。
ニュータイプの素質に優れ、操縦に関してもかなり優れているハマーンに大型MAは向かない。
それならシュネー・ヴァイスを改造した方がまだ現実的だろう。
「お父様から私の機体もアレンが作ると聞いたけど、本当?」
「まだ正式に打診が来てないが……許可が出ればそのつもりだ」
「……可愛い機体にしてね」
可愛い機体……私にそのようなセンスを求められても困るのだ……
正式にαとβが召し上げになった。
配属先はシャアの直轄らしい。
本人達も喜んでいたし、検体の数も足りているので問題ない……ただ、気になることがある。
シャアに関わっているニュータイプは軒並み戦死していることだ。
クスコ・アル、シャリア・ブル、ララァ・スン……どれもハマーンと並ぶかそれ以上の検体ばかりだ。
まぁ本当のところは全員が白い悪魔にやられているのだから、疫病神は間違いなく白い悪魔の方だな。
……改めて考えると白い悪魔……アムロ・レイはシャア以上に化物であることがわかる。
是非とも解剖してみたいものだ。
それはともかく——
「α達のこれからの健闘を願って……かんぱ〜い!」
「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」
検体とはいえ、出て行くのなら送別会ぐらいは開かなければ残る検体の士気に関わるということで開催するに至った。
残念ながら私は未成年であり、アルコールは飲めない。とは言ったものの成人したとしても飲むつもりはない。
アルコールの依存症や副作用を考えると飲む気にはなれないのだ。
そして当然、ハマーンやイリア・パゾムもアルコールではなく、ジュースを手に持っている。
それにしても……α達……喜び過ぎだろう。
そんなにここを離れるのが嬉しいか?
「日頃の訓練を見ているとむしろあれぐらいで済んでる方が不思議なんだけど」
「同意します」
そんなバカな、ちょっと死に掛けたり、軽く死に掛けたり、せいぜい死に掛けたり、(精神が)死に掛けたりしてたぐらいだろう。
「あれでぐらい……」
「私は女に生まれたことに感謝します」
むしろあれだけ死に掛けてあの程度しか成長しないあたり駄作っぷりを感じているんだが……ハマーンやイリア・パゾムに同じメニューを施せば格段に能力を高められるだろう。
「イリア、死なないでね」
「大丈夫です。博士は変態紳士ですので女性にはあのようなことしません」
「……随分嫌な思いはさせられたけど」
「それには同意します」
こいつら、好き勝手言い過ぎではないだろうか。
おい、ナタリー・ビアンキ、苦笑いなんて浮かべずフォローすべきところだ。
ちなみに余興として簡易型MSシミュレーターを2台設置している。
日頃は訓練で使っているものより簡略化されたものだが持ち運びができることがメリットなシミュレーターでゲーム感覚で行えるということで設置してみたが……思った以上に食いつきがいい。
宴会でも訓練か!と苦情が来るかと思ったんだが、それはそれ、これはこれらしい。
やはり何人も戦っているがやはりトップはハマーン、次にイリアと続く。
「では私もやってみるか」
……おい、なんだ、その日頃の恨みを返さんばかりに輝く表情は。
ふん、所詮お遊びさ。
「おい、マジかよ」
「ハマーン様とイリア以外に全勝って……洒落にならないって」
「ぐあ、今月一気にピンチに?!というか博士1人勝ちかよ?!」
この程度の遊戯なら勝てるさ。
相手を読み、感じ、それに合わせるだけだ。
それと博打はほどほどにな。
「アレンって……万能なのね」
「いや、そうでもない。実際ハマーンやイリアにも負けただろう」
それに何より……Gが掛からないからな!
Gが掛かるとカタパルトから発射するだけでKOされる自信がある。