第百話
バーザムも15機と当初の半数を割り、プルシリーズの疲労も感じることだし、そろそろ終いにするか。
私が操作するファンネルを意図的にアッティスの方向にだけ隙を作るように動かす、そうすればもう余裕がないガンタムタイプは——
「特攻に等しくとも突っ込んでくるしか選択はない」
バーニアを、これが最後の望みと言わんばかりに全開で吹かせて死線を掻い潜ってこちらに向かってくる姿は自身が狙われる対象でなかったならば応援したくなる光景だ。
まぁ腕が4本もあるためイマイチ格好がつかないが、それは言わないでおこう。
しかし……本当にサイコミュ搭載でもなく、それ以前にニュータイプでもない人間がよくあれだけの武装を操れるものだな。
ミノフスキー粒子が戦場で使われる以前なら小型で高性能なコンピュータで処理することで実現は難しくなかっただろうが現在はミノフスキー粒子対策で軒並み大型化した精密機器類のせいでパイロットの技術に依存する部分が大きくなっている。であるからこそ、あまりに多い武装はパイロットへの要求レベルを上げ過ぎる。
だからキュベレイmk-IIの武装はビームガン(砲身が機体に内蔵されているとこの分類)、ビームサーベル、ファンネルの3種類と少ないのはそのあたりが影響している。
プルシリーズは身体能力で他のパイロットを圧倒しているが、MSの操縦技術自体は一桁ナンバーがガトー達のような普通のエース(シャアやアムロは化物、最近はカミーユも加わりつつある)に若干劣るか部分的に勝る程度である。
しかし、これらは殺し合い前提ではなく、更にキュベレイmk-IIという専用機に乗った上でのことを考えればやはりまだまだ未熟だ。
本来なら更に追加武装、特に実弾系武装を追加したいところなのだ。主にIフィールド搭載機対策として。
それはともかく、目の前のガンダムタイプのパイロットは10ものビーム砲を使って、私の操るファンネルを撃墜して見せている。
本当に殺し合いというのは戦略や戦術、才能や実力、数や質などと言ったものだけで決まるものではないのだな、と改めて思う。
「さあ、待望のMSが有利な戦場……という幻想をぶち壊そうではないか」
アッティス最大の凶器……なのか?ハマーンやイリアがそう言っていたが私としては納得がいかない……巨大触手を展開させる。
それと同時にガンダムタイプのパイロットの動揺が伝わってくる。
はて、コロニー落としを邪魔した時に巨大触手は使ったはずだが……ああ、そういえばMSの鹵獲にしか使っていなかったか。
普通に考えれば鹵獲用のアームにしか見えないわけだ。
確かにMS相手に接近戦を仕掛けてくるなんて普通の戦艦ではあり得ないだろうな。
「だが、そこらの凡才と天才を一緒にされるのは心外だ……とはいえ、巨大触手の実戦は初めてだから注意しなくては」
6本の巨大触手を動かし、6方向からガンダムタイプに突撃させる。
当然相手も黙ってやられるわけもなく、狙撃ライフルと外側の両腕のビーム砲10本を1本の触手に集中して砲火を浴びせる。
なかなかいい勘をしているな。
攻撃が少数なら躱し、中途半端な数だったなら幾重にも塗り重ねられた耐ビームコーティングにより破壊されず、勢いを殺しきれずに触手に包囲されて終了だっただろう。
集中砲火により破壊には至らずとも弾かれてしまったために包囲は崩れ、ガンダムタイプに逃げる道を作ってしまう。
「もっともそれも計算の内だ」
実は外側の両腕を使う回数が減少している。
それは機体トラブルか、エネルギー不足か、それとも元々の使用限界か、いずれにしても限界が違いのは間違いない。
そしてガンダムタイプのパイロットの焦り具合からあまり先は長くないこともわかる。
触手をガンダムタイプを追いかけさせ、右から左へ、左から右へと動かしていく。
「ふふふ、やはりそう思うよな」
ガンダムタイプは巨大触手を躱しつつもあることを狙っていた。
それは……触手同士に絡ませるというものだ。
凡人ならすぐに思いつく対処法だろう。
「しかし、私は天才なのだ」
意図を気づいていながら意図に乗り、触手は見事に絡まった。
確かに絡まった……が、次の瞬間には解け、ガンダムタイプを追い詰めていく。
さすがのガンダムタイプのパイロットも驚きを隠せないようで、操縦に荒が出ている。
「ふふふ、巨大触手は元々多関節アーム、なら関節を外して接合し直せば解けるのも通りだろう?」
ファンネルのように遠隔操作をするのは難しいが、密接している状態ならそれほど難しいものではない。
「ほう、ここまでそれを温存していたか」
秘められた最後の切り札であり、最後の悪あがきとしか言えないミサイルが発射された。
本当はもっと近づいて防げない状態で狙いたかったのだろうが限界を感じたのだろう。
「しかし無意味だ」
ミサイルはキュベレイIIの護衛に回していたものを敵の数が減ったことにより余裕ができたシールドビットをこちらに配置し直し、迎撃バルカンが見事に全弾を撃破することに成功した。
そしてついに——
「さあ——私の手が届くぞ」
今まで健闘していたガンダムタイプにも終わりが訪れる。