第九十九話
着実に数を減らしていくティターンズから1つの反撃が行われた。
それはやはりTR-1によるものだった。
4つある腕の中で外側にある普通のMSのそれより二回り以上大きいそれが火を吹いた。
実はこの太い腕は元々サイコガンダムのものであり、マニピュレータ(指のこと)1本1本がビーム砲となっている。
そのビーム砲はサイコガンダムとは違い、サイコミュで制御されているものではないがそれでも火力としては十分で、ファンネルを5基ほど撃墜することに成功している。
もっともあくまでファンネルを撃墜であって、母体となるアッティスに近づくことができず、護衛についているキュベレイIIを撃墜することは今のところ叶っていないが。
それに気づいてはいないがアッティスから5基のファンネルが展開され数は変わらず、アッティス内では減った分だけのファンネルは製造が開始され、10分もしない内に完成して補充される。これをもしティターンズが知った時、心が折れることだろう。知らぬが仏とはよく言ったものだ。
そんな絶望的な戦いを強いられているのはT3部隊所属の小隊隊長であるウェス・マーフィーである。
「ビットを多用してくる敵だとは教えられたが……想定していたよりずっと手強いぞ」
事前に聞かされていた以上に厄介だと舌打ちするウェス・マーフィーは延々と続くビームの嵐に圧倒されていた。
「ビームの出力が弱いことは救いだが、いつまでも耐えられるというわけではない」
ギガンティック・アーム・ユニットは火力重視であり、その大きさもあって機動力や運動性は他のオプション装備より劣るため防御性能は優れているため、出力の低いビームが多少命中したとしてもすぐに撃墜、ということにはならないでいる。
しかし、無謀に突っ込んで無事でいられるほど頑強さはTR-1にはない。
「せめてエリアルドとカールがいれば……いや、いなくて幸いか?」
ここに2人がいたなら心強いと思う反面、先が楽しみな2人をこの無謀な戦いに突っ込ませるのは軍人としては正しくないが、さすがに目の前の強敵を見ると戸惑われた。
「戦艦にIフィールドなんてまだティターンズも連邦も実現していないというのに……ジオン残党はどれだけ生き残っている」
ウェス・マーフィーはまだ根強く活動しているジオン残党に戦慄するが、これが個人の持ち物だと知ることがあればどう反応するだろうか。しかし、当然ながらそんなことを死闘を繰り広げる彼はまだ知る由もないが。
「何よりこの弾幕では近づけない」
アレン達が変えたのは陣形だけではなく、ファンネルの運用方法も変えた。
以前までは全てを機動戦力として運用していたため、お互いのファンネルが衝突したり、同士討ちをしたりすることがあった。
その対策として考えたのが大半を動く砲台とすることだった。
プルシリーズが1人で扱えるファンネルの数は平均で7基、その内5基を本体の周囲で砲台と化し、残った2基を機動戦力として投入するという運用方法に変えたのだ。もちろん個々の能力によって数や質に差が生まれるがそれは調整されている。
これによりファンネル操作や周囲の把握など処理する情報量が減り、行動の選択を効率よく行うことができる。
もっともこれはファンネルのオールレンジ攻撃を半ば放棄(全方位ではなくなっているから)しているが同士討ちよりはマシだとアレンが判断してこの形となった。
それにニュータイプが感覚に優れているとは言ってもやはり視覚情報の頼る割合は大きく、ファンネル操作でも同じで、視界に入っている状態の方が操作し易い。
そういうこともあり、キュベレイIIは接近戦を控え、ほぼ砲撃機となっている。
ただし、これに弱点がないわけではない。
例えば——バーザム8機がキュベレイIIの視線を引くように動き、それで2機が落ちたが、本命である半包囲陣の外周から6機のバーザムが突撃する。
半包囲陣を構築しているアレン一派の方が数が少ない以上はキュベレイIIは広く展開しているため密度は低く、1機1機がほぼ独立しているに等しい。
包囲内からなら数機で対処することができるだろうが外縁部になると対処ができるのは外縁部にいる2機程度しか対処ができない。
「もっとも対処ができなければ、だがな」
外縁部を攻めてくることはわかっていた。
むしろ、最初から外縁部を狙う可能性が高いと思っていたため少し驚いた。
まぁ敵が蛮勇であるのは問題ない……というか十字砲火の中でよく20機を下回らずにいられるものだなと感心する。
さすがティターンズの精鋭達だ。
「しかし残念だったな」
外縁部から爆発が5つ。
4つはティターンズのMSによるもので1つはファンネルによるものだ。
予想していたなら対策を取っていて当然だ。外縁部に当たるキュベレイIIはプルシリーズの中でも成績上位のナンバーを配置しているため、オールドタイプならシャアやガトー、もしくは目の前で踊っているヘイズルとかいうガンダムタイプに乗るパイロットぐらいでないとどうにもならないだろう。
まぁもっと数を揃えれば何とかなるだろうがな。
「しかし、ガンダムタイプのパイロットは本当によく粘るな」
共に突撃してきたバーザムは既に全滅し、勢いは既に死んでいる。
周りからの助けは偶に来るがファンネルで阻んでいる状態だ。ちなみに助けを全滅させないのはガンダムタイプをここから逃さないためだ。
あの機体の腕は、やはりジオングの技術を応用したものなのだろう。
そうなると腕がオプション化されているということから本来なら別のMSのパーツであったのは間違いない。
そして別のMSのパーツをオプション化するということは汎用性に乏しいMSのものであり、おそらくニュータイプ……いや、カミーユ・ビタンが言っていたことから考えると強化人間が扱うMSである可能性が高い、つまりサイコミュを前提で作られたものである可能性が濃厚ということだ。
ジオンとティターンズの技術が合わさったニュータイプ専用機の武装……興味が無いと言えば嘘になる。
「このまま推進剤が切れるまで付き合えば無傷で鹵獲が……機密保持のために自爆されるかもしれんか?いや、それなら鹵獲された後にすれば私達を巻き込むことができると踏んでくれるかもしれない」
もしそうなればアッティスの触手で鹵獲し、電流を流してパイロットの意識を奪えばいいだろう。
一年戦争時、グフのヒートロッドのおかげで機体の精密機器の保護はかなり進められているのは確認しているので大丈夫なはずだ。