第百一話
巨大触手の1本がガンダムタイプの脚を巻き取ることに成功し、電流を流す。
しかし、さすがはガンダムタイプといったところか、まだ問題なく動くようで狙撃ライフルで触手を狙って外そうと試みる。
「対策が取られているか、やはり一年戦争時にグフに多くのMSが鹵獲されたことが原因だろうな」
とりあえず、撃たれる前に絡んでいた巨大触手を離す。そして気が逸れている間に本命である巨大触手を背後から巻きつける。
MSは構造上、後ろを取られるとほとんど詰んでいると言っても過言ではない。いくらか打つ手があるが、その打つ手の数が少なすぎてどうにもならないのだ。
しかし、このまま電流を流し続けて追い込もうとしてもパイロットが死ぬ前に自爆されるのがオチだ。
というわけでガンダムタイプを振り回して勢いをつけ、放り投げる。
そして放り投げた先にはもちろん巨大触手が迎え討つ……いや、迎え打つ。そしてまた別の巨大触手が叩く。
べしん、べしん、と何回かガンダムタイプを叩いて遊んでいるとパイロットの意識がなくなったのを確認した。
「さすがに耐えられなかったようだな」
電流を流しながらの衝撃……しかもコクピット周りを重点的に叩いていたからな。いくら訓練されたパイロットでも耐えられるものではない。
ちなみに巨大触手は本気を出せばコクピットぐらい簡単に潰せるのだが今回は鹵獲のために加減をしている。
どうせ手に入れるならハード(機体)も欲しいがソフト(システム類)も欲しいと思うのが人情だろう。
「ティターンズも撤退を始めたか」
ガンダムタイプが無力化された時点で信号弾が打ち上がった。内容は言ったとおり撤退命令だ。
まぁ、数で押すはずが逆に数で押され、首を取りに行った精鋭は弄ばれて捕まったのだから当然の判断だな。
いや、むしろ遅い判断かもしれんな。
明らかに押されていたガンダムタイプが鹵獲されるまで粘る必要があったのかが疑問だが……それだけ信頼していたのだろうか?確かにこれがハマーンやシャアで私がニュータイプでなかったなら任せたかもしれないな。
しかし、私達が普通の部隊ではないことがわかった段階で通常の戦果を期待できると思っていたのだろうか?それともそれだけ無能な指揮官なのだろうか。
「そういえば、艦橋破壊するの忘れていたな」
少しガンダムタイプが頑張ってたから熱心に相手をしてしまい、忘れていた。
だが、それならそれで良いこともあるか。
「アレキサンドリア級に通信しろ。捕虜を買い取らないか、とな」
「了解」
以前から言っているとおり、私達はアクシズには所属しているが軍には所属していない。屁理屈ではあるが本当のことだから仕方ない。
そして、軍に所属していない以上、誰と取引をしても問題ないということだ。
実際戦闘になったとはいえ、アクシズとティターンズは敵対していない……ん?やはり私がアクシズの軍に所属していないことが漏れているのか?ティターンズのトップであるジャミトフとかいう爺さんはアクシズとエゥーゴ、両方を同時に敵に回すほど愚かではないと思う。
調べた限りでは愚行とも取れる作戦のほとんどはバスク・オム、ジャマイカン・ダニンガンの2人のものだと判明している。
下の者の責任は上の者の責任とは言うが、一年戦争で人材不足が進んでいる以上仕方ない部分もある。
そもそも連邦軍人のモラル低下は一年戦争の負債であり、ティターンズとエゥーゴの抗争も未熟で半端な軍人が大多数になったことで無意味に好戦的で我慢を知らない軍が出来上がってしまったのだからティターンズがそうでも不思議はない。
それに問題児ではあるようだが『戦術』と『財政』に関してはエキスパートであるのは間違いない。
話が逸れたな。
「回線来た。開きますか?」
「ああ、頼む」
画面に出たのは如何にも歴戦といった風貌をしたおっさんだった。
まぁ、連邦で若い艦長なんて戦時中だったらまだしも平時(テロはあるが)にそんなにいるわけでもないし、女艦長なんて絶滅危惧種であることからこういった者が艦長になるのは当然といえば当然か。
『私はティターンズ所属、アレキサンドリア級アスワン艦長オットー・ペデルセン大佐だ』
「こちらは善良な一般人代表のアレン・スミスだ。連絡が来たということは捕虜を引き取る気があるということだな」
ん?なぜか敵艦からだけでなく、プルシリーズからも呆れた感情が流れてきたぞ。解せぬ。
『……条件はなんだ』
「話が早くて助かる。まず前提としてこちらが撃破、鹵獲したMSの所有権はもちろん私達のものだ。異論は?」
『いいだろう』
ほう、多少はゴネるか時間の引き伸ばしでもするかと思ったが即答とは予想外だ。
こういう軍人は嫌いではない。だからと言って好きでもないがな。
「ここから本題だが、パイロットを引き渡す代わりに要求するのは空気、水、推進剤だ。何、全てとは言わない。基地に帰還分ぐらいは残す」
『わかった。すぐに準備をさせよう』
自分で言っておいてなんだが随分吹っ掛けたつもりだ。それを駆け引きもせずに即断即決するとはなかなかの人物だな。
だからこそ撤退命令が遅かったことが解せない。
まぁこちらとしてはガンダムタイプが手に入ったので文句は言わないが……ん?もしかすると……ふむ、念のため念入りに調べて見るか。
「では、準備ができ次第連絡をよこしてくれ」
さて、あのガンダムタイプを調べてみるかな。
入念にチェックをしてみたところ、私の予想通り鹵獲したMSのほとんどが遠隔操作で自爆できるようになっていた。
なるほど、捨て駒も兼ねていたというわけか。
もしかすると私が研究者であることがわかっていてのトラップの可能性があるな。
もっとも、遠隔操作するためには戦闘濃度のミノフスキー粒子レベルでは不可能だからもしかしたらあちらから取引を持ちかけてくるつもりだったのかもしれない。
まぁ、もしミノフスキー粒子がなくてもアッティスのコンテナは電波などを通さないから不発に終わるだけなのだが。