第百三話
というわけでミソロギアの改修はプルシリーズに丸投げして私はハマーン専用機を開発すること15日ほど、やっと朧気に完成像が出来上がってきた時、その知らせは届いた。
「アクシズがとうとう来たか」
予定より若干早いが誤差の範疇か。ちなみに知らせて来たのはイリアだった。
ハマーンが忙しいらしいので代行とのこと……他の者に任せると大惨事になりかねないと言われたがアクシズ到着の知らせ程度のことで惨事になるわけがないというのに……変なやつだ。
さて、久しぶりに顔を合わせたわけだが、以前より逞しく、1人前の軍人の表情をしていた……まぁ説教してやったがな。
ニュータイプは兵士となってもいいが軍人となってはならない。
兵士という戦う者になってもいい、しかし軍という組織の歯車にはなってはならない。
軍人というのは殺すことが職業だ。その殺すというのは他人も自分の心も殺すもの、つまりニュータイプとしての才能も殺してしまうのだ、と懇々と説教してやった。
元々クールなやつだったが、クールなのは表に出にくいだけで感情は豊か……なはずだ。一緒に居過ぎると読み取りづらくなるのでハッキリとはわからんが、少なくとも3年ほど前まではそうだった。
ちゃんと私の言葉が届いていればいいが——
「イリアよ。勘違いするなよ。それは成長ではない、停滞だ」
さて、考えても仕方ないことは置いておくとして、ハマーン専用機の仮組みぐらいはしておくとするか。
まだ課題がいくらかあるがスミレと合流ができれば一気に進むだろう。
やはり天才は1人より2人いる方が科学反応(一般的に混ぜちゃやばいようなレベルで)が起こり、刺激になるはずだ。
特に最近サボリ気味な私とは違ってスミレは研究、開発に専念しているはずだから期待できる。
「と考えている間になぜか連邦の耐ビームコーティングの再現してしまった」
コロニー落としの際に手に入れたギャプランとTR-1の耐ビームコーティングが別系統で、今手にしているのはTR-1のもののようだが……無意識過ぎて何の素材を使ったかわからん……ん?プル31が覚えているだと?それに録画もある?よくやった。
そして連邦製の耐ビームコーティングはジオンの、アクシズのそれを上回った、厳密に言えば18%ほど拡散率、20%ほどの耐久性が向上しているため……キュベレイIIの塗装し直しが決定したわけだ。
アッティスに施すのは後でいいだろう。
そもそもIフィールドというアンチビーム兵器がある以上、優先順位は高くない……ああ、巨大触手には施した方がいいか。TR-1を鹵獲する際に散々撃たれたからな。やはり鹵獲というのはそれ相応のリスクを伴うものだ、と改めて思う。
ああ、シールドビットと長距離用ビットにも施しておくべきか、ファンネルはその本体の殆どが砲身とスラスターであるため有効とは言えないが、ビットは初代のエルメスのものと比べると小さくしているがそれでも大きいので効果はあるだろう。
「……開発すればするほど仕事が増えていく……まぁキュベレイIIの塗装はプル達に任せておけば問題ないか」
その代わり、ミソロギアの改修作業が遅れるが……まさかこういう形で人材不足を実感するとはな。あるとすれば戦力的な意味での人材不足だと思っていた。
後2日もすれば40までロールアウトするが焼け石に水とはこのことだな。
それに、白兵戦も想定しての触手を用いた戦闘訓練までしているのでプル達は現状、ブラック企業並の重労働を強いられている。
ちなみに私の労働状況はブラックホールレベルだが、まぁ趣味の範疇だから苦はない。
確か睡眠を取ったのは……58時間前か?
まぁイルカやマグロなどは脳を半分ずつ寝かせているというからな。バイオセンサーのおかげでほとんどを触手で作業を行うため、私自身はあまり動かないでいいので身体的疲労は少ないし、イルカやマグロ如きができることを私ができないことはないはずだ。
「なんて考えていたらルービック・キューブができあがっている……なぜ私はそんなことをしている?」
アーガマ来訪。
交渉のためにアクシズへ向かうらしいが、その案内役として私が抜擢という名のお願いという名の命令を承っている。
最近、ハマーンがおねだり上手になっているような気がする。ちょっと躾が必要か?感度が10倍になる薬を投与をして触手と戦闘訓練でもするか。
「アレン博士、無駄にプレッシャーを掛けないでもらえるかな。居心地が悪くて仕方ない」
「おっと失礼。久しぶりに会うハマーンの訓練内容を考えていたものでな」
「それにしては禍々しかったが」
「気のせいだろう」
シャアは一体何を言っているのやら。
ここにシャアがいる理由はアーガマと共にアクシズとの合流地点に向かうのだが、私達はアッティスだけではなく、ミソロギアも同行する。
そうなるとアーガマが万が一敵対行動に出た場合、アッティスはともかくとして、いくら耐ビームコーティングを施していると言っても至近距離からアーガマのメガ粒子砲を撃たれてはミソロギアに大きなダメージを被ることになる。
それを未然に防ぐためにアッティスにシャアがいればアーガマも迂闊に手が出せない。つまり、簡単に言えば人質だ。
もっとも、シャアが搭乗するにあたってプルシリーズの存在を気取られるわけにはいかないのでアッティスには必要最低限の人数しか搭乗しておらず、他は全員ミソロギアにいるため、万が一が現実のものとなった場合は大きな損失となるだろう。
そうなればシャアの首1つでは割に合わないがな。
「そういえば、この同盟が締結し、エゥーゴとアクシズが勝利した時、シャアはどうする気だ?」
「そんな先のことは考えていない。今は目の前のことを対処するだけで精一杯だ」
「ナタリー達はどうするんだ」
「……一緒にいたいとは思う」
現実としてはそれが叶うかどうか微妙なところだな。
エゥーゴのトップとなったシャアをアクシズは手放す気にはならないだろう。それがハマーンの意思云々関係なく。
この戦争でハマーンが更なる求心力を得、ハマーンがその気になればあるいは、といったところか。
「そういうアレン博士はこの戦争が終わったら……いや、愚問だったな」
「その通りだ。いくらか清算することはあるが、基本的に変わらないさ」