第百五話
第一戦闘配置に移行したものの、ドゴス・ギアはこちらに攻撃を仕掛けてくるようなことはなかった。
「あちらの動きから察するに目的地は私達と同じようだな」
シャアの言葉が正しければ、ここに私達がいることで抑止力になっているという可能性もあるな。
私がアクシズと繋がっていることはティターンズも知っている……はずだ。
しかし、そうなるとTR-1を手に入れたこの前の戦いはなんだったのか、既に敵対したも同然なのに今攻撃を仕掛けてこない理由は……戦力が足りないと思っているのだろうか。
それとも……エゥーゴとアクシズが繋がらないと考えているのかもしれない……か?だが、シャアは元ジオン軍のエース、しかもアクシズに所属していたことがあるのだから同盟は成功する方が確率的には高いと思うのだが。
ああ、そうか、もしかしてシャアがクワトロであることが伝わっていないのかもしれないか……ただし、それを差し引いてもジオン残党が多く所属するエゥーゴなのだから妨害はするべきだと思うが。
「私が思うに、単純な話でアレン博士とアーガマの戦力には勝てないと踏んでいるのではないか」
「……考えても仕方ないか、とっとと探りを入れるとしよう」
「なに?」
既に観測できる距離にいる以上、私の射程圏内だ。
思念波を飛ばして様子を窺う。
(くっ?!何というプレッシャーだ!アレン博士がニュータイプとして逸脱した存在だとは思っていたが、まさかここまでとは?!汗が止まらん)
(なんだ?!この感覚、これは、危険過ぎる)
(なになに?!何があったの!!あ、これアレン博士だ!!)
ん?なんかシャアやカミーユ・ビダン、ヤヨイ・イカルガの思念まで混ざり込んでいるが……まぁ細事だ。
はて、プル達の思念が混ざったことがなかったが……なぜだ?
それは後にするとして、まずはドゴス・ギアの様子だ。
ふむふむ、あのカブトムシタイプに乗っていたそこそこのニュータイプと訓練されているが出来がイマイチなニュータイプもいたか。
そして——
『これはこれは、お初にお目にかかります。私はパプティマス・シロッコ、ドゴス・ギアの艦長をしています』
ほう、こちらと共鳴したか。なかなかの才気だな。
『いえ、それほどでは——』
しかし、その程度では身近でそれをやっていたなら私に呑まれて大変なことになっただろうがな。
『——それは幸いでした』
ハマーンやイリア、プル達が私と共鳴したことはほとんどない。
それは身近にいたからこそ本能的にわかったのだろう。
日頃行っている思念のやり取りは基本的に私が送受信を行い、調整をしている。つまり、共鳴ではなく、一方的に送信とハッキングで思念を抜き取っているようなものだ。
今、このパプティマス・シロッコのように共鳴という行為はお互いの思念を送受信するという形になるのだが、これがもしもっと近かったなら思念(データ)の受信容量をオーバーし、パンク、良くて廃人にとなっていただろう。
まぁそこまで教えないがな。もっとも彼の才能があれば本能的に察する可能性が高いが。
さて、そちらは何のつもりでこちらを付け回す。
『我々の任務はアクシズとの交渉です』
いやいや、私達と戦闘をしておいてそれはないだろう。
『こう言っても許されるわけではありませんが、あれはジャマイカン……コロニー落としを画策した者の暴走によるものです』
あいつか、エゥーゴの追撃を逃げ切ったとは聞いたが、報復までしてくるとは……面倒なやつだ。
(補足:史実ではヤザンが誘導して殺されたジャマイカンですが、アレン一派にボコボコにやられて戦力がガタ落ちしていたので追撃していたラーディッシュを迎撃せずに逃げの一手だったため生存しています)
なるほど、事情は察した。
エゥーゴとの交渉次第だが、ハマーンに……アクシズのトップに口利きしてやろう。
『ありがたき幸せ』
ではな……ああ、そうそう、怯えを隠すのは構わないが……折れてくれるなよ。
そうでないと手に入れた時、面倒なことになるからな。
「というわけでティターンズの狙いもアクシズとの交渉のようだな」
「……アレン博士、既に人間やニュータイプを軽く超越していないか?」
いや、さすがに人間の範疇のはずだ。生物学的には、な。
ニュータイプとしてはそこらの有象無象とは一線を画する存在だとは認識している。
……別室でモニターしているプルシリーズから同意の思念が送られてくるとは思わなかったがな。
「これでエゥーゴはアクシズと決裂した場合、ティターンズと組むという可能性も出てきたな。むしろ現在の情勢を考えればティターンズの方が安定を手に入れやすいと言える」
とは言うものの、ティターンズと手を結んだところであまり長い間保てるとは思えない。
『情勢』とは言ったが、本当は現状の戦力であれば、という意味であり、本当の意味での情勢ではエゥーゴに傾いていると私は思っている。
なにせティターンズの特使であるはずのあのパプティマス・シロッコはティターンズを踏み台としか思っていないことが先程の共鳴で感じている。つまり、獅子身中の虫だ。
彼はその気になればおそらく一組織を作ることも可能だろう。そして、その気もある。
そんな彼がティターンズに所属している理由……それは十中八九ティターンズの乗っ取りだろう。
そして、それが成功するか失敗するかは知らないが、内乱は必至だ。そうなれば確実にティターンズの戦力は減少することになり、更にエゥーゴに傾くことになる。
しかし、そんなことをシャアに教える義理はなく、ハマーンには義理がある。ならばハマーンがやりやすく、信用できる方を優先することは当然だろう。
「ふむ……アレン博士、アーガマに通信しても?」
「好きにするが良い」