第百六話
シャア達が何を話し合ったのか、私は知らない。
またいつの間にか意識を失っていたからだ。
そろそろ本格的に体力の限界が来ているようで、意識を失う間隔が短くなっている。
シャアを軟禁し、操縦をプルクローンに任せて休憩することにした。
第一戦闘配置ではあったが、パプティマス・シロッコから事情を聞くことができたので戦闘になる恐れはないと判断したからだ。
そして眠っていたら懐かしい気配を感じて目を覚ます。
「ハマーンか……それにイリアに……スミレも来ているのか……艦はグワダンか、確かミネバの旗艦とされていたはずだが、ミネバも来たのか」
あいにく会ったことも興味もないためその存在を確認することは難しい……こともないがやはり興味がないし、必要性を感じない。
多少儀礼的な何かを強要されるかもしれないが無難に熟す自信がある。(本人が言っていっているだけ)
それにしてもそんなに長い間離れているわけでもなく、通信なども結構な頻度で行っていたのにも関わらず懐かしいと感じるとは……それほどハマーンやイリア、スミレに愛着があるのだろうか?
表層面の心理はわかることが多いが、それ以上となるとなかなか難しいな。特に自分のものだと尚更だ。
一応ハマーンやイリアはおそらく私の人生の中で1番付き合いが長い者達だからだろうか?
研究者、開発者としては一流、いや超一流と自認している私だが、人間としては三流だと認識しているのでこのあたりの機微というのはイマイチわからない。
プル達は私の作品であるからそれなりに愛着があるのはわかっているが……人の心とは本当に難しい。
そんなことを思い悩んでいるとグワダンから迎えであろうガザCが出撃している。
ガルスJやドライセンが出てこないあたり、札は伏せておくということなのだろうが、キュベレイmk-IIを露出させている以上意味があるか?
まぁ専用機にして特別機に近いキュベレイmk-IIより量産型の方が重要度が高い……ということにしておこう。そもそもキュベレイmk-IIの露出度が大きいのは一応許可は取ってあるがほぼ私の独断に近いからな。藪蛇は突かない方が身のためだ。
「それにしても……ミソロギアを見て驚き過ぎだろう」
ガザCのパイロットやグワダンのクルーから動揺や驚きの感情が流れてくる。
たかがコロニーの1基や2基に何をそんなに驚いているんだか……そもそもハマーンには伝えてあるのだから情報共有されている……はずだよな?もしかして伝えられていない?ならわからなくもない。
まさかハマーンのやつ、私の立場を固めるためにサプライズにしたんじゃないだろうな。
「さて、エゥーゴとの会談も若干気になるが、スミレと合流する方が優先だ」
ハマーン専用機の基本設計は出来上がった。しかし、それはあくまで現状、私1人が持てる物を注ぎ込んだに過ぎない。
私より劣るとはいえ、有能なスミレがいれば更なる進化が期待できるはずだ。
……ハマーンに挨拶をせずにスミレに会いに行こうとしてハマーンとイリアに怒られた。
それを見ていたエゥーゴ代表としてとりあえず1人で来ているシャアが懐かしそうに笑っているがお前がいた頃にこんなことがあった覚えはないぞ。
しかし、無重力下で正座とは意味が無いように思えるのだが……まぁ言ったら余計に怒られるので言わないが。
「さて、久しいな。シャア」
「久しぶりだな。ハマーン」
お前ら、もう10分以上前(つまり説教は10分以上されていた)に会っておいてそのやり取りはさすがに白々しいぞ。
それからはお互いの情報の摺り合わせや思い出話や今後の軽い打ち合わせなどを行う。
イリアに見張られて退室することができないから仕方なく、話を聞いていると思った以上にエゥーゴが優勢なことを知った。
いや、正確に言えばエゥーゴと簡単にまとめるのは間違いか、以前から基にしていたエゥーゴに協力しているカラバという組織が地球で随分拡大しつつあるようだ……というかハワイからティターンズを叩き出したらしい。
なぜハワイなのか……と思ったら意外や意外、ジオンの水陸両用MSを改良して運用し、奇襲に成功すると更に連邦兵の内応まで起こり、結果どうにもならずティターンズは敗走したらしい。
この出来事により更にティターンズが連邦兵に対して疑心暗鬼となり、それに対して連邦兵も嫌悪感を抱くという負の連鎖が発生、連邦兵の協力者はかなり増えてきているとのことだ。
これはティターンズの終わりも近いか?後はエゥーゴに……ルナリアンにどれだけの外交力があるか次第だろう。
ひょっとするとアクシズの力が無くても何とか成るかもしれない。もっともその場合アクシズはサイド3を手に入れるためにティターンズと組むという可能性もあるから気が抜けないのは変わりないがな。
後は特に私が興味の惹く話しがなったので聞き流し、イリアと話をして時間を潰した。
イリアの話しでは、最近妙に気合の入ったハマーン信者が頭角を示してきているらしい。
ハマーン信者……宰相として活躍するハマーンに惹かれて集まってきた新兵達のことだそうだ。
特に目立つのはキャラ・スーン、マシュマー・セロという2人だという。
身体データや成績などを見たが……確かに新兵の割には良い成績を収めている。
それに何より——
「ニュータイプ、か」
そう、データを見る限り、あまり有能とは言い辛いがニュータイプではあるようなのだ。
叩けばそこそこのものにはなるだろう。
それにどうやら熱心なハマーン信者であるようでその忠誠心からレベルアップも期待できるが——