第百七話
「正直この2人は好みじゃない」
「やはりそうですか」
そこそこ付き合いが長いイリアはわかっていたようだな。
まずこの妄信的な性格はレベルアップするのに弊害となる。
妄信というのは心の拠り所であるという意味で、自分に主体性が薄く、妄信する対象以外には無関心な傾向が強い。そのためニュータイプとして成長させるにはかなり手間がかかる。それならプルシリーズを教育した方が効率がいい。
……と言うのは建前で本音は煩そうな女と鬱陶しそうな男、明らかに面倒なことになるのは間違いない。
「なんとなくだが……こいつらは私の事を嫌っていそうだ」
「……ニュータイプ能力も使わず……察したっ?!……」
イリア、お前は私をどう思っているのか少し聞かせてもらおうか。
まぁそれはともかく、この2人は狂信者であり、信仰対象がハマーンである。そんなハマーンと蜜月な関係である私に対して何を思うか、想像して余りある。
簡単に言うと面倒なのだ。
そういう意味ではプルシリーズのほとんどは真面目で無口なものが多い。
肉体と精神の成長バランスが整っていないということもあるが、それでも初期型で経験をそれなりに積んだ者達も無口というほどではないが一部を除いて(プル)真面目で無口だ。
それにプルも口数が多く、不真面目そう……いや、自身の興味を優先しそうではあるが、案外責任感があり、妹達の面倒をよく見ている。
もっとも妹達の支持を多く集めているのはプルツーで、それを真似てクールで口数を少なくしているという面もあるようだが。
「ハマーン様……手駒が増える」
「訓練を施している間は私が戦力外になるが?」
「……」
この2人がニュータイプとして強化されたところで戦力としては私の方が上であり、その強化訓練中は私が拘束されてしまう。
そうなれば私は戦場に出ることは叶わないだろう……まぁ戦場に出たいというわけではないが、それ相応に活躍をしておかねば戦後の研究に支障を来すだろう。(もう既にかなり戦果を上げているのだが本人は気づいていない)
何より、好みのニュータイプではないので強化訓練が楽しくない。時間があるなら心をゆっくり圧し折って信仰の摩り替えなどでどうとでもできるが、それを許すほど現状は甘くない。
それなら時間の合間にMSの開発やプルシリーズの充実させる方がマシだろう。
「……基礎訓練だけ」
「ふむ、それぐらいなら片手間でも熟せるか」
確かに覚醒しているのとしていないのとでは随分差があるので覚醒程度ならさせておくか。
こういう依存系のニュータイプのデータはあまり多くないので私の予想よりも優れたニュータイプになるかもしれないしな。……逆にナマクラの可能性ももちろんあるが。
まぁ、ナマクラだったとしてもオールドタイプという鉄屑よりは使い勝手があるだろう。多分。
「わかった。近いうちに連れてくるといい。それとMSはこちらで用意するのでそちらからは資源を融通しろ」
「まだ新米……専用機は早い」
「ニュータイプに覚醒させておいて汎用MSに乗せる気か?なら私は降ろさせてもらうぞ」
「……わかった。用意する」
ハマーン専用機の技術を流用して試作機とするか、新技術もいくつか導入しているのでデータ収集も必要だろう。
こちらの話がだいたいまとまった時、ハマーンとシャアの交渉も終了したようだ。
そしてやっとスミレと会うことができた……こういうとまるで恋愛感情を持っているかのようだな。現実は全くないのだが。
「これはまた……とんでもないものを目指していますね」
私が考えたハマーン専用機の設計図を見ての一言だ。
「少し過剰ではありませんか?火力を増やすというのはわからなくはないですけど、これではハマーン様の負担が大きくなるかと……いえ、それ以前に操りきれるのか疑問です」
「それは大丈夫だ。これを使えば全てが解決だ」
「…………それは触手、ですよね」
「そうだ」
触手さえあれば腕の代わりになり、多種多様な武装の操作が可能となり、更には連邦やティターンズにソフト面(ニュータイプ)の理由から真似されることは少ないだろう。
「……本気で言ってます?」
「私がこの手の話で冗談はいわないのは知っているだろう?」
スミレは私が真剣であることを悟ると、怒り、悲しみ、戸惑い、恥辱、ハマーンへの申し訳無さや励ましなどが読み取れた。
……1つも理解や納得がないのが解せないのだが。
「……ハマーン様から許可をいただけたら作りましょう」
スミレはそう言って説得を諦めた。