第百八話
アクシズとエゥーゴの同盟は正式に成った。
私とスミレはその間ハマーン専用機の設計に追われていたので詳細は知らない。
シャアが若干何か騒いだらしいが同席していたナタリー中尉に宥められて落ち着いたらしい。
一体何があったのか知らないが、何にしても敵が定まったのは間違いない。下手をすると三つ巴という最悪な自体は回避することができたのは行幸だ。
三つ巴となり、三竦み状態になってしまえば、長期戦となり国力差と地盤を固める時間を与えてしまうためティターンズが一人勝ちしてしまう可能性が高い。
そうなってしまえばジオン公国のようにコロニー落としのような大質量攻撃を仕掛けるしか選択はなくなってしまう。
つまり、最悪の事態は回避することができたといえる。
「エゥーゴとカラバがキリマンジャロを攻めて、アクシズはエゥーゴの別働隊と共にソロモンを攻めることとなったわ」
ハマーンはやる気がなさそうに姿勢を崩した状態でアクシズのこれからの予定を告げた。
おそらく慣れない人間との会話で疲れたのだろう。
シャアだけだった時はともかく、アナハイムなどというタヌキとキツネの悪いとこ取りしたような妖怪とやり合ったのだからそれも仕方ない。
「キリマンジャロか……つまり、先日のハワイ強襲は囮ということか」
「シャアはそう言っているわね」
今までカラバは表立って行動してこなかった。
そのため、ティターンズは手を焼いていたのだがハワイを占拠したことで表面化し、潰すには絶好の機会と思うことだろう。
それこそ囮であり、本命はキリマンジャロ、ということか。
「本当かどうか知らないけどキリマンジャロにはジャミトフがいるらしいわ」
「ほう、いきなりトップの首を狙う気か……いや、ハワイ攻略などという大それた囮を使ったのだからそれぐらいは当然というべきか」
しかも、アクシズを使って更に陽動を仕掛けようというのだからエゥーゴとカラバの本気度が伺える。
「ソロモンへはただの陽動か?それとも本気で落とすつもりなのか?」
「落とすつもりだ。ここでアクシズの力を見せておくのも悪くないはずよ」
データを見る限り、ソロモンに配置されているのはティターンズよりも圧倒的に連邦が多いのでそれほど苦戦しない……はずだ。
それに連邦には多く内通者がいるらしく、内応も期待できるとのことだからそれほど攻略は難しくないだろう。
現在のアクシズの戦力はグワジン級3隻(最初期から配備されていたグワザン、ゼナ・ザビやミネバ・ラオ・ザビ、シャアなどが乗ってきたグワンバン、ミネバの旗艦として新造されたグワダン)、ザンジバル級3隻、チベ級3、ムサイ級18隻となかなかの充実具合だ。
これは元々はこれほどの戦力はなかったがジオン残党が合流した結果で、ムサイが多いのもそれが影響している。
他にも補給艦としてコロンブス級やパプワ級などがあるがそちらは割愛する。
実は連邦を除くと最大戦力を保有しているのはアクシズだったことが判明した。
もっとも兵站がどれだけ維持できるかわからないがな。
更にはサイズの都合上、拠点防衛か火力もMS搭載能力も他のグワジン級ほど優れていないが巨大な搭載スペースが確保されているグワンバンにしか搭載できないアレン・ジールも8機保有している。
全ての戦力を投入はしないにしても、ソロモン攻略するには十分な戦力を捻出することができるだろう。
「それにしても……わかっていたがコロニーというものは広いわね」
現在私達がいるのはミソロギアの居住区画だ。
ちなみに全体の5%が使用可能になったわけだが、元々コロニーの最大収容人数は2000万人、つまりその5%ということは100万人が収容可能という意味でもある。
そしてジオン残党を受け入れる前の人口は大体20万人だ。ハマーンが広いと言うのも納得できる。
今、アクシズは残党を受け入れた事により、また居住スペース不足に陥ってるので余計に思うことだろう。
しかし——
「やらんぞ」
「残念……いっそ私だけこちらに移り住むのもいいわね」
「そんなことになればアクシズと戦うことになりそうだな」
ミネバ・ラオ・ザビを旗頭としているが、現状はハマーンの指揮の下でまとまっているだけで、それもジオン残党が合流してかなり苦労しているというのに、そんなことをすれば間違いなくアクシズは良くて政争、最悪は割れることになるだろう。
「もちろん冗談よ。でも卑怯よね。あの無駄に凝った滝は何よ。遊んで良い?」
……あれは見ないでもらいたい。
「しかし、さすがスミレだ。サイコミュの更なる小型化とは恐れ入る」
「いえ、そんな……このバイオセンサーの発想には負けますよ。私はサイコミュの小型化に思考を縛られすぎていました。機体制御に特化させるなんて考えつきませんでした」
それは仕方ないだろう。
私達は本来希少なニュータイプを量産する手段があるのだからバイオセンサーの優位性は通常のMSを専用機並の追従性にすることとコストダウンぐらいで、サイコミュ兵器を使うことができないのでは連邦を相手にする場合心許ない。
やはりサイコミュの小型化は最優先事項だろう。
「それでもバイオセンサーでニュータイプが汎用MSを扱えるのは大きいです」
「確かにな」
実際、鹵獲したバーザムにバイオセンサー搭載して(なぜか未搭載)プルシリーズに操縦させてみたが今までの汎用MSに比べると格段に扱いやすくなっていることがわかっている。
「ファンネルコンテナにサイコミュを搭載して、MSにはバイオセンサーで機体制御の方が効率がいいかもしれませんね」