第百九話
「ねえ、本気で触手でMSの操縦させる気なの?」
「もちろん、本気だ」
「ねえ、本気で触手でMSの操縦させる気なの?」
「本気だと言っている」
「ねえ、本気で触手でMSの操縦させる気なの?」
「…‥」
「ねえ、本気で触手でMSの操縦させる気なの?」
ハマーンが壊れた……まぁ、いくら壊れても悲しきかな現実は変えられない。
「……」
何やら気落ちしているハマーン、そして慰めているイリア、苦笑いを浮かべるスミレ……ハァ、仕方ないな。
「少し待っていろ」
そう言い残してミソロギア内のアクシズの自室兼研究室より格段に充実している研究室……いや、研究所に移る。
ハァ、私としてはあまり無駄なことはしたくないのだがな。
篭もること1時間、そろそろハマーンが帰らなくてはならない時間だが、ぎりぎり間に合ったな。
「これで文句はあるまい」
「……かわいい」
触手をデコレーションしてみた。
動作を阻害しないように調整するのに苦労したが、女性ウケしそうなハートやキラキラしたピンク色を散りばめてみたが……ハマーンは満足したようだ。
パッと見た感じ触手には見えなくなったので受け入れやすいはずだ。待機状態で腰に巻きつけたりすると一種のオシャレアイテムに早変わり……もっともハマーンが日頃から着ている黒一色の服装とではあまり合わない気がするが、そこは本人の努力に期待しよう。
「よし、これで最大の問題はクリアだな」
ちなみに触手は2本にしてある。
私ほど精密な操作は他に求めるのは酷であるし、あまりに多いと白兵戦で使用するならともかく、MSの操縦という限られたスペースで複雑な動作をさせると絡まったりするおそれがあるため少なめにしている。
……先程からプルシリーズからの視線を感じる。ついでに思念も感じる。
どうやらこのデコ触手を所望のようだ。
正直、面倒で仕方ないんだがな。全て手作業(触手込み)だからなのだが……まさかこれをするためにわざわざ製造ラインを増設するというのはありえないだろ。
しかし……プルシリーズから送られてくる思念は次々と増えてきている。
これは私でもなかなか堪えるものだ……が、それでもあえてスルー。
開発で忙しいからな。
「さて、ハマーンは帰る時間だ。スミレはここに残るんだったな」
「はい。研究室よりこちらの方が設備が充実してますし、あちらは居辛くなってきてるんですよ」
スミレが言うにはアクシズ内で派閥争いが発生しているらしい。
その原因は残党を取り込んだことにあるようだ。
残党の中には将官クラスのものが存在していたりと面倒な事態になっているらしく、ハマーンがミネバを連れ出し、グワダンでエゥーゴと会談したのも実績作りにあるらしい。
それだけならスミレが居辛くなるということはないはずだが、どうやら主力MSの半数近くを私達が開発していること、そして独自にMSや戦艦と言った戦力を保有していることが気に入らないようだ。
まぁ民間人が戦力を保有していたら徴発したくなる気持ちはわからなくもない。認めるつもりはないがな。
更にハマーンやアナベル・ガトーなどとの繋がりがあることが気に入らないという醜い嫉妬もあるのだそうだ。
「研究室に押し入ろうとした人達まで居ましたからね。あの時は怖かったです……死人が出なくてよかったですよ。本当に」
……それは押し入り強盗が怖かったのか、それとも私の防衛設備の過剰さが怖かったのか、どちらだ?
いや、どちらでもいいのだが。
「もっともティターンズを退け、このミソロギアを手に入れたことで表立っての声は小さくなったがな。地球圏で残党として活動をしていただけあってティターンズの強さを知っている奴らからすれば私兵で退けたというのはそれだけの衝撃があったようだがな」
いつの間にかハマーンが仮面を被り直したようだ。
ふむ、そんなことになっているのか……結果的にはミソロギアを手に入れて正解だったかもしれないな。
「それに本格的に戦いに参戦となればそれどころではないだろう。軍人というのは武功を立てることに文字通り命を賭ける者達だ。武功が目の前に転がっているのだから研究者の1人や2人にいつまでも構っているとは思えない。だが、安全とは言い切れないのも事実だからミソロギアに移るのは正しいだろう」
そう言うハマーンは表情こそいつも通りだが、思念から寂しさが伝わってくる。
私が思っている以上にハマーンとスミレは仲が良かったようだ。それとも私がアクシズから離れてから仲良くなったのだろうか。
「ああ、そういえばハマーンにつけているプルシリーズだが、新たに2人そちらに回そう」
「……いいのか。ミソロギアの運営や戦力として必要なはずだが」
「幸いミソロギアは最低限運用できる程度までは改修も済んでいるし、戦力も当面は問題ない。それに……私の予想では今回の作戦でお前自身、戦場に出るつもりだろう?」
「……そのつもりだ」
「なら護衛は多い方がいい。それにアクシズの力を魅せておけ」