第百十一話
プルシリーズの被害はやはり接近戦や連携によるものが大半だった。
今まで私がシールドビットで担っていた守りがなくなり、その結果がこれというなら少し甘やかして育ててしまったかもしれない。
それともこれまで被害が少なかったことが幸いと言うべきなのだろうか。
『今回の戦いを分析してみたところプルシリーズは連邦やティターンズなどよりジオンとの相性が悪いようですね。MS自体は連邦に劣ってますけどパイロットの操縦技術は圧倒的にジオン兵が優れていますから』
「ん?ということはジオン兵がベテランパイロットだったのか」
『むしろ新米にプルシリーズがやられたら目も当てられませんよ』
「それもそうか」
となると本当にジオン残党という可能性があるのか……はぁ、疑心暗鬼になって来たな。
早く戦争を終わらせて引き篭もりたい。
「では、こちらも作戦があるので通信切るぞ」
『はい。ご武運を』
敬礼してスミレが映像から消える。
それにしてもこちらの戦力を削ってでもミソロギアに戦力を残してきてよかったな。もしこれでいつも通りの編成なら敗北は無いだろうが辛勝、しかも戦死者多数出ていただろう。
初めての戦死者が味方(仮)によって生み出されるなんぞ悪夢だ。悪夢なんてソロモンの悪夢だけでいい。
さて、ソロモン攻略作戦が始まる前にケチが付いたが、こちらは今からが本番だ。
ミノフスキー粒子が戦闘濃度まで散布され、事前の打ち合わせしたとおりに指示を出す。
「全機出撃」
私がいるブリッジにはプルシリーズ、つまりクルーは誰1人いない……いや、それどころかMSのコクピット以外の艦内にいるのは私1人だ。
いくら触手で整備点検ができるとはいえ、本当に整備員すらいないのはかなり不安があるが、人員がいないのだから仕方ない。
むしろ偶然でもアッティスを1人で操縦できることこそ幸運と思うべきだろう。自身のニュータイプ能力の高さとサイコミュに感謝だ。
そんなことを思っているとキュベレイII8機全てが出撃していた。
今回私達の任務は旗艦グワザンの前方で盾となることが任務だ。主にアッティスが。
Iフィールドを搭載している艦は壁になれ、私達の壁になれて光栄だろう、などとほざいたアクシズ高官達に反射的に触手を見舞ってしまって大騒ぎになったのは懐かしい思い出だ。最近、触手の反応が良すぎて困る。もしかしてバイオセンサーのせいか?
ちなみに被害者は3人で内1人は片玉になったらしいが余談だろう。
ハマーンも笑うのを堪えるのに大変そうだったな。(実際はあまりの事態に胃が痛くて顔を顰めただけ)
ただ、この事故(事件ではない、あくまで事故だとアレンは言い張る)のおかげでプルシリーズの指揮権を移譲させるという高官達の思惑は潰れたようだがな。
もっともアッティスを盾にするというのは言い方は気に入らなかったが言っている事自体は間違っていない。
いくらグワジン級が優れた戦艦であってもメガ粒子砲は脅威なのは変わらない。Iフィールドがあるアッティスが壁になるのは当然といえば当然だ。
だからこそ高官達の顔を立てて受け入れてやった。(後でハマーンに言ったらなぜか黙って殴られた)
その代わり私達に手柄を上げさせるのは面白くないらしく、プルシリーズはあくまでグワザンの護衛という1番戦闘から離れていて艦砲が飛び交う危険な場所に配置されることとなった。
「まぁさすがにこの距離から当たることはないだろうがな。むしろこの距離で当たったらお仕置きが必要だろうな」
おっと思念が漏れてプルシリーズを緊張させてしまった。これは失敗したか……いや、甘やかせすぎたと思ったところだしちょうどいいか。
もし被弾して生きているようだったらここまでの道中に拷問用として開発した超リアルエロ触手のテストに参加させてやろう……おお、プルシリーズが今までにないほどやる気を漲らせている。
「さて、こちらはこちらでいつも通りの仕事をするとするか」
いつも通りアッティスによる砲撃……既に狙撃か?……を行う。
まずは目障りなサラミス級から狙う。
マゼラン級を潰せば手っ取り早いのだが、どうやらマゼラン級で指揮をしているのはエゥーゴの内通者らしいので狙わない。
というより、そのマゼラン級から内通者の情報を得ているのでこちらに寝返りやすくするために、それ以外を排除するのがこの作戦の本筋とも言える。
アッティスのメガ粒子砲は数こそ少ないが出力を集中させることでグワジン級をも上回る砲撃が可能だ。さすがにドロス級には勝てないがな。
アクシズ高官達はそんなことも知らないだろうからこんなところに配置したのだろうが、私にとっては狙いやすい位置に配置されて助かったがな。
「まずは1隻」
放った2つのメガ粒子はサラミス級の艦橋と艦橋の根本に命中し、耐ビームコーティングをも貫き溶解して沈黙する。
少し冷却期間を置き、もう2つ叩き込み、また1つの美しい生命の最後の思いが流れ込んでくる。
死にたくない、家族と会いたい、帰ったら結婚するんだ、と言ったものが次々と聞こえる……が所詮は既に死んだ者や死ぬ間際の者の声だ。今更聞いても知らん。
グワザンで見ていたであろう高官達が動揺しているのが手に取るようにわかる。
天才を侮るからそのようなことになるのだ。
続いて2隻目に取り掛かる。
今度は上手い具合に動力に直撃したので1斉射で仕留めることができた。
さすがに立て続けに2隻の艦が撃沈して連邦、ティターンズに混乱が生じ、これをチャンスだと見たのかグワザンからキュベレイとガッライ(アレンが開発したキュベレイ・アクシズ仕様っぽいもの)5機が出撃する。つまりハマーンと親衛隊に貸し出しているプルシリーズだ。
本当に前線に出るのだな。
しかし……今まで目を逸らしてきたが……あの白はやはり目立ち過ぎだろう。狙ってくれと言わんばかりではないか。ハマーンに死にたがりや戦闘狂という気質は低かったと思うのだが。
そういえばシャアは金ピカのMSに乗っているんだったが、やはり囮としての役割を重視しているからなのか?
「さて、ハマーンの手腕、見せてもらおうか……その前にグワザンから少し距離を取っておくか、」