第百十ニ話
<最近教育係的な博士がマイペース過ぎて頭と胃を痛める厨二病的な仮面を被るうら若き乙女>
「アレンのアレは砲撃ではなく狙撃だな」
自機の息子に当たる巨大な艦から放たれるメガ粒子砲の恐ろしいまでの命中率に感嘆するしかない。
ただ停止している艦ならばともかく、回避行動しているにも関わらずあの的中率……味方としては心強い……のだが、その反面問題も多々あるのも事実。
まさか派閥争いから逃がすために偵察に出したらコロニーを手に入れてくるなんて誰が思いつくだろうか。
私が(立場やアクシズの空間的な意味で)窮屈な思いをしているというのに、1人悠々と自由を満喫している姿に少しイラッと来るのは八つ当たりだろうか。
「しかし……さすがはソロモンの悪夢などと名乗っているだけのことはある」
ガトー大佐とカリウス中尉(駆るザクIIN型(アレン製ガトー、カリウス専用機)が次々MSを落としていく。
その機動はただの人間には耐えられるようなものでは既にない。
「これもアレンの研究の成果か」
アレンには色々思うところがある。あるが……それは所詮細事、結局は私の都合に巻き込んでいることは自覚しているし、支えられているとも思っているし、感謝もしている。
だからこそ、早く戦争を終わらさなければな。
「ファンネルッ!」
私の初陣は無様なものだった。
あの時、私がアクシズの兵を焚き付けてしまい、タカ派に大義を与えてしまった。それを今でも後悔している。
それに勢いと責任感から無謀にも戦場に出てしまったあの時……シャア大佐が助けてくれなかったら間違いなく死んでいた。
あの恐怖を今でも覚えている。
恐怖で凍りついたかのように動かなくなる体、全身を刺し貫く殺意、自分1人では何もできないのだと改めて思い知らされた無力感、もう助からないのだと死ぬ未来が視えた時の絶望感。
最近は回数が減ったけど、それでもたまにフラッシュバックすることがある。
しかし、その後、アレンと出会えたことは幸運と言える……はずだ……多分。
あれから随分と鍛えられた。
ポエムを書くよう言われたと思ったら大声で朗読させられ(羞恥心による訓練)、聞こえるか聞こえないか絶妙な小声での密談されたり(好奇心から来るストレスによる訓練)、1時間しかない酸素で1時間30分宇宙遊泳させられたり(極限状態に以下略)、穴を掘っては埋めを繰り返させられたり(拷問的な以下略)、お腹一杯になってもお菓子を食べさせられ続け(アレンが大事に置いてあったお菓子を勝手に食べたためのお仕置き)、触手でお嫁に行けないようなことをされ(以下略)、火の輪潜りさせられたり(以下略)…………結構酷い思いばかりしている気がする。
「これで強くなっていなかったなら文句の1つでも言えるのだがな」
瞬く間にファンネルが6機のMSを火花に変えてしまっては成果があったということを証明してしまったわけだ。
いや、信じていなかったわけではない。本当だ。
それに……なんだろう。死者の念が以前ほど……感じるには感じるのだがきつく感じないような……ああ、身近にとんでもない念を発する者がいたからか。
「しかし、さすがは連邦の基地だ。数だけは多い……む、更に援軍か」
ソロモンから新たに艦隊が出撃してきたのが目に入る。
確かエゥーゴから渡されたデータでは……これで全てか。
しかし、ドゴス・ギアとアレキサンドリアということは……あの胡散臭い男(シロッコのこと)もあそこにいるようだな。
シャアとの会談の後、奴とあった。
挨拶と共にこちらの要求(ジオン再興とサイド3の返還)を話した程度だ。
奴自体にそこまで権限がなく、本当に挨拶程度の内容だったが……奴の才覚は認めよう。アレンとは違った才能で輝いているように視える。しかし、それを覆い隠すほどの野心と人を駒のように……見下したようなあの態度、気に入らない。
アレは人を惑わす誘蛾灯のようなものだろう。
「早く始末しておくべきかもしれんな」
手近にいたジムIIを切り裂き、周りの様子を窺う。
プルシリーズも順調に戦果を上げているようだが……後から合流した2人の動きと最初からいた3人では随分動きが違う。
後から合流した2人は動きが悪い。連携が取りにくいのは共有時間が少ないのだから当然だけど操縦技術にも差があるように見える。
これはアレンにデータを渡すついでに話してもおくべき案件か、環境の変化で大きく質に差が生まれるというのは興味を引くはず。
そういえば、プルシリーズの戦果とサイコミュ兵器の運用が芳しくないとぼやいていたが……ティターンズと2度も寡兵で交戦し、ほぼ無傷で……しかも2度目は精鋭相手にし、多くの最新のMSを鹵獲しておいて満足しないなんて他の者達が聞いたらなんて言うことか。
アレンはやはり軍人ではないのだとこういうところで実感する。
戦争とは小競り合いであったとしても死者が出るのは当然なのよ。それを兵器の運用が上手くいかない?プルシリーズの戦果が芳しくない?贅沢過ぎる悩みだ。
よく話して自覚させるべき……なんだろうけど、私がそれをできるだろうか。