第百十三話
<ハマーン>
「ガンダムタイプか……ほう、これがヘイズルか」
アレンが鹵獲したという機体と同機種だが、もらったデータとはあまりにも見た目が違う。
レポート通り、追加武装を主眼に置いた機体のようで、アレンが鹵獲したものはゲテモノといえる珍妙なものだったが、目の前にいる機体は正統派とは言えないが随分とバランスが良さそうだ。
エゥーゴが開発したGディフェンサーのようなものが付いているが、あれほどスマートな見た目ではないな。
「ファンネルッ」
サイコミュを通じてファンネルをコンテナから射出する。
さて、相手はオールドタイプのようだが……動きから察するに非道な行いが目立つ組織だがさすがは精鋭を謳っているだけのことはあるな。
ファンネルによる3方向からの攻撃も躱し、タイミングをズラした背後からの1撃もギリギリだが躱してみせ、こちらにミサイルを撃ち返すという行動まで見せた。
向かってくるミサイルは2発だが両方ファンネルで撃ち落としてあまり時間を掛けたくないので接近して仕留めようとスラスターを吹かす。しかし、機動力は相手の方で上で距離を詰めるより前に逃げられてしまった。
「ちっ、接近戦とファンネルで同時攻撃ができればすぐ終わったものを」
方針は機動力を削ぐことにしよう。
時間は多少かかるだろうが負けることはないだろう。
——が、ここに来て——
「貴様も出てくるか、パプティマス・シロッコ」
『お久しぶりです。このような形で再会するのは不本意ではありますが宮仕えゆえとご理解いただけたら幸いです』
……胡散臭い。
言っていることは本当かもしれないが、奴の喋り方や浮かべる表情がとても胡散臭い。
もし奴に惹かれ、信じる者がいるとすれば間違いなく結婚詐欺に引っかかるような奴だろう。
「ああ、こんな形で戦うことになろうとはな。残念だ。しかし手加減はせんぞ」
『もちろんです』
出していたファンネルをコンテナに回収して別のファンネルを射出して展開して早々に仕掛ける。
シロッコが操るMSは先程から相手していたヘイズルと同じ機体で追加装備も同じようだ。(裏事情:ジ・Oは製造中で代替機)
「初めてのニュータイプとの殺し合い……このプレッシャー……互いの殺意で起こる共鳴……これはなかなかに不愉快だ」
とっとと撃墜してやりたいところだが、アレンが言っていたとおりニュータイプ相手にファンネルはサポート兵器以上の役割にするには心許ない。
キュベレイの主武装がそうなってしまっては武装という面ではこちらが劣る。
とはいえ、サポート兵器も上手く使えばどうとでもなるだろう。
「まずは与し易そうなオールドタイプから……と見せかけてシロッコの足かせをするつもりだったのだが……」
追い込まれるオールドタイプを全く無視してこちらに仕掛けてくるシロッコはやはり信用ならんな。
とりあえず牽制にビームガンと周りに展開しているファンネル4基で弾幕を張ることで速度を殺すことに成功する。
そこへオールドタイプを攻撃すると見せかけて射線が重なり合うシロッコを狙ったファンネルのビームが……まさかの狙いに気づいたオールドタイプによって防がれた。
全く、オールドタイプでもベテランともなると面倒な。
ハマーンが苦戦しているな。
TR-1が2機、しかも片方はあのパプティマス・シロッコとかいう野心型ニュータイプともなれば当然か。
お互い被弾無しで、主導権を握っているのはハマーンだが、シロッコによって着実にファンネルを削られているため、ファンネルの残弾が気になり始めている頃だろう。
もっともイリアやプルシリーズが手出ししないあたり、半分は訓練の一環のようだがな。実戦で経験を積もうというのだろうがストイック過ぎるだろう。
「しかし、思った以上にハマーンは成長しているな」
今ハマーンはシロッコ達に拘束されているが、それまでにMS15機を撃墜、サラミス級2隻を大破させている。
しかも乱戦の中でファンネルを使用して、見事に操りきっている。
元々私の検体の中では飛び抜けた優秀だったハマーンだったが最近は訓練をろくに施すことができなかったので鈍ってはいないかと心配していたが知らぬ心配だったな。
そんな忙しそうなハマーンとは打って変わって私はというと……実は暇をしている。
味方がこれだけいるのだから敵艦を全て撃墜することもできなくはないのだが、それをするとまた薄汚い妬みの対象にされるだろうと思って自重している。
そして暇な時間があるとはいってもここが戦場である以上、万に一つがあったら命で支払うことになってしまうため、さすがに研究をする気にもならない。
仕方ないのでキュベレイIIやファンネルを増産している。
「お、あの状態でTR-1の右腕をもぎ取るとは本当に成長したな」
しかし、そろそろ時間が……ああ、やはりか。
エゥーゴからソロモン内部から制圧完了の知らせが入ったのとほぼ同時にドゴス・ギアから信号弾が上がった。それは撤退を知らせるものだ。
どうやら勝敗は決したようだ。
勝者はもちろん私達、敗者はティターンズ、得たものはソロモン要塞。
「追撃戦は……アクシズ不参加、エゥーゴと合流した連邦でのみで行うのか」
……大丈夫か?今回の攻略戦ではほとんどアクシズが身を削って、エゥーゴはほぼ無傷とはいえ現状の戦力だと負けてしまいそうだが。
後日、追撃戦を行ったエゥーゴがアイリッシュ級1隻とサラミス級1隻を沈められ、ティターンズはほぼ無傷で逃してしまうという何とも言えない結末を聞かされることとなった。