第百十四話
エゥーゴ、アクシズ連合とティターンズのソロモンを賭けた戦いはエゥーゴ、アクシズ連合の勝利で幕を閉じた。
追撃戦でエゥーゴが手痛い被害を被ったがそれでもソロモンを占領したのは大きかった。
そして地球からはキリマンジャロ基地陥落の知らせが届き、宇宙にいるエゥーゴは沸いた。
更に10日後、エゥーゴにとってもティターンズにとっても衝撃が走った。
それはクワトロ・バジーナことシャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンによる後世にも語られるダカール演説である。
この演説により今までティターンズの情報操作、情報規制によって実質的にはともかく、表向きはただのテロリスト、ジオン残党の派生組織とされていたエゥーゴが一転して、連邦の高官を多く味方に引き入れ、ダカール演説で全世界へ呼びかけたことで連邦組織の1つとして再認識されることとなった。
以前から罅が入っていた器が完璧に割れた瞬間である。
ティターンズの威勢に陰りが見えた……のだが、それでもなお結束は強く、破綻とまではいかなかった。
地球を、宇宙を守ってきたという自負が兵士達にはあり、ティターンズのトップであるジャミトフ・ハイマンの発言力、資金力、人脈を有するため、そう簡単に崩れ去るほどやわな組織ではなかったのだ。
しかし、世界は確かに大きく動いた。
ソロモン攻略戦の後のアクシズ軍はアクシズへと帰還、アレンはミソロギアに立ち寄った後に、アクシズへ向かった。
そしてアレンがアクシズに着くと、なぜか何人かの将官、佐官がアレンに殴り掛かるという事件が発生する。
もっともそれらを全てアレンは触手で撃退……過剰防衛で半身不随にしたり、何らかの障害が残るほどの傷(心も含む)を負わせた。
周りは問題行動だと騒ぎ立てたがハマーンはそれを一喝し、正当防衛であることがやり過ぎだとアレンにお小言を程度で済ますこととなった。
本当のところはジオン残党がミソロギアを襲撃した際に捕虜にした者から情報(個人情報含む)を洗い浚い吐かせて(というより読み取り)、吐いた情報の中にアクシズにいた人物を1人1人接触し、読み取ったものから灰色以上を全て粛清したのだ。
ちなみにそんな者達がなぜアレンに殴りかかったのかというとアレンのエグいプレッシャーにより生存本能で反応してしまったからだ。もちろんわざとだ。
この事件と先のソロモン攻略作戦の際に起こした暴力事件(こちらはアレンが悪い)によってアレンに二つ名が付けられることになった。
それは『デビルフィッシュ』、由来の1つが触手であるのは当然として、悪魔のような所業、悪魔の誘(いざな)いで殴りかからせた、という意味合いも含まれている。
当の本人であるアレンも満更ではないようで悪い反応はない。もっともハマーンは頭を痛めているのだがそんなことをアレンが気にするはずもない。
そんな事件もあったが、アクシズは次の行動に移す。
それはサイド3奪還である。
約定を果たしたアクシズにはエゥーゴからはサイド3の返還されることとなった。もちろんティターンズはそんなことを認めていないので侵略に等しいが何にしても大義を得た。
「しかし……サイド3に残存する部隊がこの程度というのは」
ハマーンは複雑な心境にいた。
もちろん楽に取り返せるならばそれがいいとは思う反面、生まれ故郷であるサイド3が軽視されている現状を見ればそう思うのも無理はない。
サイド3はジオン公国であった時の首都……いや、ジオン公国そのものである。つまり、旧敵国にして潜在的テロリスト集団と判断されても不思議ではない。
にも関わらず駐留しているのはサラミス級が4隻、MSがジムIIやジム・キャノンと旧式ばかり20機と明らかにサイド3を守るには数が少なすぎる。
元々は連邦軍のペガサス級やティターンズのアレキサンドリア級などが駐留していたのだが、それらはグリプス2という最重要拠点が誕生したこと、宇宙ではエゥーゴ、地球ではカラバとの戦いが激化したこと、アクシズという第3勢力の誕生、ソロモンでの大敗、エゥーゴに寝返る連邦兵の急増によるティターンズの不信などの理由で引き抜かれてしまった結果がこのようなことを引き起こした。
アクシズにとって間接的にこの状態に出来たことは成果の1つと言えるかもしれないのだが、事情を知らない者には目の前のことが真実なのだ。
いずれにしても——
「さあ、今こそ我らが祖国、我らが大地、我らの自由を取り戻す時である!全軍出撃!」
サイド3奪還に全力を尽くすのは変わりない。
過剰な戦力を投入し、その中にはハマーン自身も存在し、更にミネバ・ラオ・ザビもグワダンに姿があった。
ハマーンはサイド3の奪還には実質権力者である自身ではなく、ミネバを形だけでも大将として出撃に同行させた。
実際は何もしない、ただのお飾りでしかない大将だったとしても戦乱の世が未だ続いている現状ならば共に戦線に立つ大将……君主である方がウケがいいだろうという読みである。
戦場である以上リスクは伴うが、この戦いはその重要性に比べ、ほぼ勝ちが決まっているのだから利用しない手はない。
(本来ならばこのような幼い主君を戦場に出すなどという行いは愚行でしか無いのだが……タカ派が多い今なら有効だ。それにミネバ様は武闘派で知られるドズルの血を受け継ぐものだ。これぐらいのパフォーマンスがあった方がいい)
そして……何のイレギュラーもなく、サイド3の奪還に成功した。
連邦のMS部隊は数に押され早々に全滅、そしてそれを見届けていたかのようにサラミス級は降伏して奪還作戦は終了した。
本当に呆気ないほど簡単に勝利したが、祖国の奪還にアクシズ全体が沸いた。
もっともハマーンやイリア、プルシリーズは至って冷静だった。
特にハマーンとイリアはむしろこれからの方が大変だと理解していたからだ。
一方、アレン達は別行動をしていた。
ミソロギアをまた移動させるという経済的によろしくないが、襲われた場所に居続けるのも落ち着かないというプル達の要望を採用した結果である。
今回は本格的にコロニーの配置する場所を探すことに決めていた。そしてその候補も既に絞れていて移動中なのだ。
目的地は旧サイド5、デラーズ・フリートの根拠地であった茨の園があった場所である。
大量のデブリでミソロギアが傷つく可能性もあるが、しかし大量デブリである。
デブリといえばアレン、アレンといえばデブリと言っても過言ではない。
しかし、ミソロギアの配置とは別にアレンには別行動をした理由があった。それは——
「まさか本当にカミーユが彼女と……フォウとかいう強化人間と再会できるとは思いもしなかったな。しかも連れ出すことに成功している。それにロザミア・バダムとかいう強化人間まで捕まえるとは……これが世にいう女誑しというやつだろうか?」
アレンは以前、カミーユと約束した強化人間の治療をして欲しいという連絡をもらい、それに応える形でアクシズとは別行動となった。
民間人としてはソロモン攻略作戦やそれ以前の戦闘やMSの鹵獲などで十分な戦果をあげているアレンにこれ以上面倒事は御免だという思いがあったのも事実ではあるが、それはアレン以外にハマーンやイリアぐらいしか知り得ないことだ。
「さて、連邦製の強化人間というのはどのような仕上がりなのだろうか。フラナガン製のものとは違うものだったら嬉しいのだが」