第百十六話
最近の楽しい記憶は?
「……カミーユと一緒にいる時」
もっと前の楽しい時は?
「……MSで敵を倒せた時」
それより前の楽しかった時は?
「……美味しいクレープを食べた時」
それは1人で?他に人は?
「……誰か……誰かいる……思い出せない……」
その人は女性?それとも男性?
「わからない……わからないけど、髪は短い」
服装は?
と、(私主体の)共鳴をしつつ、いくつも質問を重ねて記憶の途切れを確認し、強制的に私が共鳴して記憶を読み取る。
これを繰り返すと私が無理やり記憶を読み取ると同時に本人にも記憶が伝わり、連鎖的に記憶つながっていく。
「……思った以上に穏便で、非常識な治療法だった」
と言うのはモニターしていたカミーユ・ビダンの感想だ。
ちなみに、治療中ずっと私の思念波を感じてかなり疲れたそうだ……鍛え方が足りんな。せっかくだから私が鍛えて——
「遠慮しておきます」
「そうか、残念だよ。気が変わったらいつでも言ってくれ。歓迎しよう……ところで……カミーユ・ビダン、君はここのことで何か気づいていたかね?」
「なんのことを——」
「ニュータイプというのは隠し事や嘘が嫌いだ。オールドタイプも決して好きなわけではないだろうがニュータイプはその能力故に相手の秘め事を察してしまうからだ」
「……」
言いたいことは伝わっただろうか……などと思うのはオールドタイプと微妙ニュータイプだけだ。私に掛かれば相手が理解しているかしていないか把握するぐらい造作もない。ただし、ハマーンやイリアなど身近にいる者を除く。
それはともかく、このままだと話しづらいか。
「……ファ・ユイリィとロザミア・バダムは一旦別室に移ってもらおうか。私はカミーユ・ビダンと2人で話がしたい」
「それは——」
「ファ、言う通りにするんだ」
どうやらこちらの気遣いを察するぐらいにはお子様ではないようだ。
まだファ・ユイリィが不服そうに何か言おうとしたが、見張りをしていたプルシリーズ2人を中へと呼び、連れ出させた。
ロザミア・バダムもカミーユ・ビダンと離れることに不満そうだったが、私のプレッシャー(を仕掛けているつもりはないが)が嫌なようで逃げるように出ていった。手間がかからなくて結構。
「さて、これで遠慮なく話してもらえるかな」
「……あの兵士達は……なんであんなに成長しているのに子供のような感情ばかりで……しかも、なんで、なんで同じような存在が何人もいるような気配がするだ!」
ふむ、以前は気づかなかったが、この短い間に随分とニュータイプの能力が向上しているようだな。
シャアなんぞは身近にいながら気づいていなかったがな。
「私はMSやニュータイプの研究、開発をしているがもう1つ専門に扱っているものがある。それはクローン技術だ。これが何を指し示すのかわかるかな」
「そんな……そんなことが許されるわけがない!」
「許されないならいずれ裁きが下るだろうさ。さて、それはいいとして、問題はこの秘密を知った君がこれから私によってどういう対応をされるかだろう?」
そう言うとカミーユは素早く宇宙服に収納ポケットから銃を取り出し、こちらに銃口を向けた。
「選択肢は2つ、どちらか選ぶといい。君が大人の対応を求めるか、それとも子供としての対応を求めるのか」
選択如何では始末することになるな。
ちなみにハズレは大人の対応だ。大人なら自己責任、都合が悪ければ消してしまうことが当然だ。
子供として対応を求めるなら子供が多少のことを知ってもある程度多めにみてやるつもりでいる。
「……ここで俺が博士を殺すという選択もありますよ」
「私がそんな根本的なことを見落とすわけがないだろう。そもそも——」
触手を動かし、銃をはたき落とそうとするが、それより先に引き金を引かれる。もっとも牽制であったようで当たらない弾道だった。
まぁデモンストレーションとして——
「——私に銃が通じるとは思わないことだ」
銃弾を触手でキャッチしてみせる。
触手でたまたま弾く程度なら偶然も有りうるだろう。しかし、掴むというのは偶然ではありえないので相手に認識させるにはちょうどいい。
「それに忘れているかもしれないが、ここは私のテリトリーだ。ファ・ユイリィ達を人質にするのも容易いし、テンタクル(触手の正式名)がこれだけだとは思わないことだ」
部屋のあちこちから触手が飛び出してくる。
ここは元々トラブルが起こることが前提の部屋で、通信妨害から始まり、触手が20本が壁内に収納され、防音もされている上に部屋の六面は全てルナチタニウムとガンダリウムγの複合材で作られ、更に外側には対衝撃吸収ジェルも充填されているので並大抵のものでは破壊されることはない。
いざという時はシェルターの役割も果たすことになっている。
「さあ、答えを聞こうか」
「……」
カミーユ・ビダンはやっと立場が理解したのか汗が止まらないようで親切な私は触手でタオルを取って拭き取ってやる。
まぁ時間がないわけではないしゆっくり考えてもらおう。