第百十九話
新しい技術が加われば更に新しい技術が生まれることがある。
ミソロギアへ帰還する途中、早速サイコミュコントローラーを弄くり回して出来上がったのが——
「無人MSか」
以前まではサイコミュだけでは成し得なかったものだ。
いや、厳密に言えば前からビットやファンネルの応用でできなくはなかったが接近戦を行うだけの操縦ができなかったがサイコミュコントローラーによって難易度がハードルが大きく下がったのだ。
既存のサイコミュとサイコミュコントローラーによって実現した無人MS、その素体はもちろんキュベレイIIだ。
しかしビットやファンネルなどから比べるとコストも掛かり、的が大きくなってしまいステルス性に劣る。
それでもMSを無人化したかというと……接近戦も熟すことができ、武装の多様化と言ったところか。
もっともパイロットが操縦するほどの操作が行えるのは私ぐらいのものである。しかもあまり距離が開くと精密操作は行えないなど問題点も多い。
将来的にはミソロギアの防衛戦力の無人化(遠隔操作化)といったところか。
「とはいえ正直、キュベレイIIだと微妙か」
キュベレイIIの主武装はファンネルであり、ビームガンやビームサーベルはおまけでしかなく、他に武装はない。つまり、武装の多様性が無いのだ。更にスペック的拡張性はあっても武装の拡張性はほとんど存在しない。
その点だけはバーザムやヘイズルはオプション武装で状況に応じた戦いができるのだから優秀な機体といえるだろう。
残念ながら機体は鹵獲してあるがそのオプション武装を整えるだけの設備と設計図がないのだがな。
そもそもプルシリーズにMSを配備し、整備するだけでもかなりの物資を消費する。今頃ミソロギアではスクラップを回収して資源へと変えているはずだが、やはり物資は有限だ。
キュベレイIIの武装が貧弱なのは物資に余裕がないという理由からも来ている。
「オプション武装か……」
考えないわけではないが、だが、大体においてオプション武装というのは機動性や運動性を犠牲にするものだ。
それはニュータイプの利点である察知能力から来る回避能力、射撃能力が低下に繋がる。
果たしてそれだけの価値があるのかどうか……キュベレイIIやファンネルが通じなくなる自体がくれば全戦力が通じなくなるということにもなるから無駄でないことはわかっているのだが。
「無人MSをキュベレイIIから操作できればいいのだがな」
そうすればキュベレイII自体の性能を落とすことはなく、火力が手に入る。それに比例して物資の消費量が跳ね上がる。
悩ましいことだ。
ミソロギアに帰還……したら何やら見覚えがないものがいた。
いや、その存在は知っているのだが——
「お初にお目にかかります!ハマーン様の命により参上いたしましたマシュマー・セロであります!」
「同じく、キャラ・スーン」
そういえばこちらに派遣してくるという話だったな。
確かに磨けば光るであろう原石ではあるようだが……マシュマー・セロは予想通り暑苦しそうだが思ったよりキャラ・スーンは普通の性格なようで安心した。
……ただ、すっかり忘れていたので専用機の用意がまだ終わっていない。(用意というのは設計段階からのことを言う)
既にスミレからいくらか訓練を受けているようでニュータイプとして僅かながら覚醒しているようだ。
私を見て、視て、足が震える2人の様子でそれを察する。
アクシズなどの人数が多いところではなるべく抑えるようにしているのだが、他人が居ないミソロギアやアッティスでは自然体でいる。つまり、今の私は自然に他者へ強烈な存在感(プレッシャー)を放っている状態だ。
もちろんプル達やハマーン達は慣れているから問題ない。
「よく来たな。君達がここで何を知り、何を思い、何を感じるかは私にはわかる。もしそれが私の害になるようなことがあれば始末する。これはハマーンからも許可を貰っている」
「ハッ!心得ています!私達はハマーン様のため、身命を賭す所存であります!」
ふむ、その気概に嘘はないようだ。なかなか純粋な思念を発しているな。
しかし、キャラ・スーンの方は若干迷いがあるようだ。
それは自身の命を惜しんでのものやハマーンへの忠誠を偽ってのものではないようだ。
「キャラ・スーン、私の目を見ろ」
「——」
言われたとおり私の目を見るキャラ・スーンは身体を硬直させる。その姿はまるで動けば死ぬとでも思っているかのようだ。
隣りにいるマシュマー・セロは何が起こっているのかわからないと首を傾げている。
「お前は何を思っている……お前は何を嫌がっている……そうか、コクピットに乗ると違う自分になるのが怖いか」
ふむ、強化もしていないのに本人が戸惑うほどの二面性を内包している、か。
ひょっとするとキャラ・スーンはニュータイプとして育てるより強化人間のような手段を用いた方が伸びるかもしれない。
まぁ紳士な私がそのような手段を用いることはないがな。
スミレは過去、強化人間の研究に携わっていたと聞く。完全な強化人間とはせずとも何か得るものがあるかもしれい、か。
問題はスミレが強化人間の研究はする気がないことだな。