第百二十一話
「……私達にグリプス2に攻撃を仕掛けろと?」
『そうだ。アクシズとエゥーゴでア・バオア・クーとルナツーに、カラバが地球で陽動として攻撃を仕掛け、ティターンズの目を引き付けるのでグリプス2をどうにかしてもらいたい』
攻撃の本命と言えば聞こえはいいが、指揮する者によっては捨て駒と言っても不思議はない……本当にアクシズを抜けてやろうか。
そんな私の思考を読み取ったのかハマーンは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
『正直、私もあまり乗り気ではないのだが、エゥーゴのアーガマも同行することになっている以上、信用できぬ者を付けるわけにはいかんのだ』
反応から察するにエゥーゴ側からの指名か?それにアクシズの屑共が乗っかった、というあたりかもしれないな。
しかし……アーガマもこちらか、それならエゥーゴの動きにも期待できるか。
「アーガマはフラグシップだろう?陽動の方が向いていると思うが」
『アイリッシュ級をアーガマに偽装するそうだ』
なるほど、確かに似ている艦だからごまかすことはできるか。
『それとエンドラとガトー大佐の特殊機動部隊をそちらに回す』
「エンドラというのは?」
『ムサイ級に替わる新型巡洋艦だ』
以前噂で聞いた新型艦はこれか、随分大盤振る舞いだな。
『勝手なことを頼んでいるという自覚はあるのでな。これぐらいはせねば私が納得できん』
それに特殊機動部隊といえばアレン・ジールも組み込まれていたはず……まさかエンドラという艦は搭載可能なのか……いや、アレン・ジールを搭載するべく作られた、という可能性が高いか。
前まではアレン・ジールを戦場に投入しようとする場合グワジン級が必須だったからな。
それにしてもアクシズの屑共がよく納得したな。
ガトーはこの前のソロモンの戦いで多大な戦果をあげて、今までデラーズ・フリートの功績という遠い場所ではなく、目の前で実力を示し、今では完全に英雄と化しているというのに、半ば捨て駒のような役目を負わせるとはな。
「決行日は」
『4日後だ。2日後には特殊機動部隊がそちらと合流できるだろう』
ザクIII改は問題ないが、ゲーマルクは実戦に投入できるかどうか微妙なところか。
ゲーマルクの完成を図るよりキュベレイIIの改修と急造支援機あたりを用意する方が優先だな。
ガトー達の機体を改修する必要もあるかもしれんな。
「ア・バオア・クーを攻めるという話だったが、それはあくまで陽動なんだな?」
『ティターンズがよほど腑抜けていない限りはそのつもりだ。アクシズの兵士もまだまだ未熟だからな
……ガザCやガルスJはともかく、ザクIIIやドライセンに乗れるパイロットがまだ少ない』
「……それはどうなんだ。ドライセンは格闘戦を前提としている機体だからまだわかるが、汎用であるザクIIIは使い易い機体だろう」
『ただ扱うだけならできるさ。ただ、ガルスJに乗せるのと変わらない程度しかないがな』
私の機体が軒並みダメ出しされている気分だ。
これがティターンズなら問題なく扱えたのだろうが……これだから辺境は。
『それに派閥争いで合流した同志達にザクIIIやドライセンを扱えそうな者へ満足に配備することもできないのだ』
…………派閥争いなんて勝ってからすればいいものを、これだから組織は嫌いなんだ。
アクシズとジオン残党の溝は深くなりそうだな。
自分達が主導で行動しているのに尻馬に乗った奴らの方が最新鋭機が配備されることが気に入らないというのはわからなくもないが、だからといってサイド3を奪還した程度で勝利と思われても困るぞ。
勝つことはできても維持することが難しいことを知らないわけではないだろうに。
とりあえず、サイド5宙域に漂う残骸からザクIIF2型2機、ゲルググ1機をサルベージした。
近代改修と支援機としてセンサーの強化、狙撃ライフル(実体弾)とビームキャノンなどの遠距離武装を搭載させ、その内ザクIIF2型は無人MSシステム……面倒なのでモビルドール化と命名し、略称をMDとする……を施した。
キュベレイIIは今までの実戦データの蓄積によりスラスターの配置を変更したり、脚部に外付けで使い終わると自動的にパージできるようにした以前ティターンズから巻き上げた物資にあったハイザック用の3連装ミサイルポッドで火力の底上げを試みた。
キュベレイIIの脚部はかなり丸みがあるために装着に少し時間がかかるという問題があるが、弾はそれなりにあるのでしばらくは困らないのでいいか……と思っていたのだが、別のところで問題が発生。
プル達はキュベレイIIのデザインが気に入っていたらしく、無骨で安っぽいミサイルポッドの取り付けは不評だったのだ。
なんとかあくまでオプション装備なので状況次第では取り付けなくてもいいことと開幕に使い切ればいいということで納得した。
見た目を気にするあたり、クローンであろうが、中身が子供か赤ちゃん年齢であろうが、女は女ということだな……いや、ガトー達もザクを愛好していたからあまり性別はあまり関係ないか?
「……そういえばガトー達はプルシリーズのことを知らないから注意しなくては」
大体の人間はプルシリーズのことを知らないわけだが……それは置いておくとして、万が一ガトー達が知ってしまえば彼らの牙は私達に向けられることになる可能性が高い。
流石にガトー達を敵に回すとなると負けないまでも被害が大きくなることは間違いない。特にアレン・ジールは天敵と言ってもいい存在なのだ。
となると、スミレも同行してもらった方がいいかもしれん。私1人で応対し続けるのは体力的にも無理がある上に、不自然に感じられるかもしれない。
ガトー達を強化したのは間違いだったか?