第百二十二話
「エンドラ級軽巡洋艦を捕捉」
モニターにエンドラ級軽巡洋艦の姿が映し出されたが……もう『軽』巡洋艦というにはサイズではないと思うんだがな。
それになぜかミノフスキークラフトまで内蔵してあり、大気圏での運用も可能という高性能な艦となっている……地球侵略を視野に入れているのだろうが、そうなれば最後には負けることになるだろう。
つまり、全くの無駄機能なわけだ。
そんなものを搭載するくらいならMSの格納スペースを増やすべきだろうに。
「通信、繋げます」
モニターに映し出されたのは相も変わらず堅苦しい空気を放つアナベル・ガトーとカリウス・オットーの敬礼する姿だった。
いくら以前とは違って軍属となっているとはいえ、無官にそこまで敬礼することはないと思うが……まぁ完全な民間人であった頃から変わらぬ態度であるから今更なんだが。
『お久しぶりです。アレン博士』
「ああ、久しぶり。ソロモンでの活躍は見ていたぞ。ソロモンの悪夢の面目躍如だな」
『ハッ!ありがとうございます。私とカリウスの功績は博士のご協力あってのことです』
なんというか……ガトー達は武断派の割には謙虚だ。ちゃんと相手を敬う気持ちを持っていてこちらも付き合いやすい。
もっとも本当に謙虚なやつがコロニー落としなんていう迷惑な自己主張はしないがな。
「では、これからアーガマとの合流地点に向かうということでいいな」
『それでよろしいかと』
「ああ、それと大佐達の機体に少し手を加えたいので時間を作ってくれ」
『お言葉ですが、実戦前にあまり機体を……』
「わかっている。運動性が良くなる程度だから乗りこなしてみせろ」
以前は手を出す予定だったが、よく考えれば私の管轄ではないと気付き、控えるつもりだった。
しかし、事情が少し変わった。
そう、私の管轄内と言えることが起きていたからだ。
私の管轄は、それは——
『……わかりました。ご期待に応えてみせます』
「それでこそ、エースだな」
アナベル・ガトーとカリウス・オットーのニュータイプとしての覚醒、つまり、彼らの機体にバイオセンサーを搭載することだ。
上位機種であるサイコミュコントローラー(機体制御系のバイオセンサー+特定脳波高受信機能)はまだ覚醒して間もない上に低レベルな彼らには過ぎたものだから今回は保留。
それにしてもなぜガトー達がニュータイプとして覚醒したのだろうか……正直彼らの性格を考えればニュータイプから程遠い、ガッチガチのオールドタイプ軍人で、覚醒の兆しなどなかったのだが。
まさかとは思うがプロテインが原因か?そういえば身近な使用者はハマーンやイリア、プル達などニュータイプのみで、オールドタイプのサンプルはなかったな。
とはいえ、向いていない人間が覚醒したところで能力なので大したことはない。
故にプルシリーズに多少違和感を感じることはあるだろうが気づかれることはおそらく無いだろう。
「後、プロテインの差し入れをしておく」
『……ありがとうございます』
「ついでにグレードアップもしておこう。今の君達なら耐えられるだろう」
『…………ありがとうございます』
これで更なる高みへと昇ることができるだろう。
そうすれば私の仕事が減る!
アレン達がグリプス2へと向かう道中に新たにザクIIF2型MD3機、ゲルググMD1機とキュベレイIIが1機がロールアウトする。
MD化されたMSは機種の末尾にMDと記載することにする。
ちなみに鹵獲したバーザムやマラサイなどは装甲がガンダリウムγで作られたMSであるためキュベレイII用の資源として使われて残っておらず、ハイザックは他の連邦製MSと同じだが部品の互換がない為維持するのに手間ということでMD化は見送られている。
そのため旧式のジオンMSばかりをMSかしているのだ。
そして、ガトー達の専用機であるザクIIN型にバイオセンサーを取り付け、試験運転ということでMDと模擬戦をしていた。
「さすがザクIIN型……あの機動力と加速力はどうにもならないな」
アレンが操るザクIIF2型MD5機とゲルググ2機MDは全機健在ではあり、ガトーに5発ほど模擬弾を当てているが掠った判定でダメージ判定にはなっていない。
旧式のMSであるMDで、現行機の中でも高レベルの機動力と加速力を誇るザクIIN型を捕捉するにはアレンの腕を持ってしても難しかった。むしろ照準がまともに取れないのに掠らせている時点で十分過ぎる成果だ。
実際、ガトーは優位であるのに被弾したことで実質自身が敗北していると思っている。
実弾と違い、弾速が速いビームなら機動力にも追いつけるのだがはキャノンという取り回しが悪いものなのでそもそも射程範囲に入れることが難しい。
ただし、ガトーの方も手詰まり感があった。
機動性と運動性を活かした一撃離脱戦法を軸として戦っているが、MDにはそもそも攻撃が当たっていない。
アレンと戦う上で遠・中距離を軸とした時点で、回避に優れているアレンは負けがなくなるに等しい。
近距離となれば経験の差で何機か撃破することはできるのは間違いない。しかし、それと引き換えにガトーも撃墜されるのは間違いない。
なにせ、ガトーの前に戦ったカリウスが接近戦を仕掛け、1機は無事撃破し、2機目のザクIIF2型を斬り伏せようとした瞬間……自爆して中破判定をもらい、その後タコ殴りにされてアレンの勝利となった経緯がある。
そう、MD化の最大の強みをアレンは見つけてしまったのだ。
MDの消耗が激しくなるが、最も経験が左右する接近戦において自爆というのは最大の武器になるということに。