第百二十三話
ガトーとの模擬戦は結局、私の勝利となった。
まぁ、勝利と言っていい内容かどうかは微妙だがな。
簡単に説明するとひたすら弾を節約し続け、相手の推進剤が切れるのを待っただけだ。
ザクIIN型はGP01の大型スラスターユニットは確かに推進力を得るには高性能ではあるのだが燃費はあまりよろしくない。プロペラント・タンクで増設しても限度がある。
推進剤の底が見えたあたりでガトーがこのままでは負けると一か八かの特攻してきたが、3方向から接近して自爆に巻き込み、残り4機で一斉射撃で勝負は決した。
「エース殺しとして自爆は有効だな」
「その代わり費用が恐ろしいことになりそうですけど」
「対費用効果で考えると断然安いはずだ」
しかし、そうなると近接戦闘を前提とした武装が必要かどうか悩むところだな。
そもそも雑魚ならキュベレイIIとアッティスのファンネルとMDの狙撃でどうとでもなる。本当に近接武装が必要か?その分、別の武装を追加するべきか……ひたすら試行するしかないだろうな。
それに自爆重視で行くとなると私の近接戦闘の経験がいつまで経っても積むことがなく、いつまでも自爆に頼らなければならない。悩ましい。
「まぁそんなことは余裕ができてから考えればいいか」
「ですね」
相手を葬る手段が必要なのは『今』であって『未来』ではない。なら、今効率が良い手段を用いることが正解だ。
少なくともティターンズを潰すまでは油断ならない。
今は劣勢であっても1度立て直されれば地盤が固まってアクシズとエゥーゴでは太刀打ちできなくなる可能性はまだ秘めている。
その点、エゥーゴが主導権を握ったならしばらくは利権争いという混乱は収まらないはずだから問題ない。
「とりあえず、後3機製造して終わりにしておくか」
「MSの方はいいんですけどサイコミュ系の方は費用が馬鹿になりませんからね」
決して安くないサイコミュをあまり多く使うのは収入源が少ない私達にとって痛い出費だ。しかも自爆させると回収なんてまずできな……ん?
「そうか、自爆前にサイコミュを脱出させればいいのか」
簡易な航行システムでも導入すれば元々遠距離で操縦が不可能である以上、自爆するのもそう遠くない距離なのだから回収することも難しくない。
多少破損することもあるだろうが資源は回収でき、回収できたならリサイクルはお手の物だ。
「いいですね!それならサイコミュ系は背中あたりに設置するといいかもしれません。MDは支援機の上にアレンさんが操縦するんですから背後を取られることはないでしょうし」
よし、なんだかノッてきたな。
アーガマと合流したアレン達は共同でグリプス2の機動力を奪い、余裕があれば奪取することを目指す。
アレンはとっとと破壊すべきだと主張したがなかなかアクシズとエゥーゴ全体の意思ということで却下された。
それは未だに大きな勢力を保つティターンズに向けて使用して決定打とするためだというのだからアレンは引き下がるしかなかった。
アレン的にはいつミソロギアをターゲットにされるかわからず、ミノフスキー粒子を常時散布して存在を隠蔽する程度の大雑把な対策しか取れないということを嫌ってのことだ。
と、多少のトラブルとも言えないものがありはしたが、概ね問題はなく、アッティス、エンドラ、アーガマの3隻は隕石型ダミーバルーンで偽装してグリプス2に向かった。
ちなみにこの時、アレン達は初めてダミーバルーンというものを知り、キュベレイmk-IIのダミーバルーン製造、標準装備化することを決定した。もちろん改造を施して上でである。
進行は順調であり、もうすぐグリプス2のティターンズの警戒網に入るところで陽動部隊が予定通りゼダンの門、ルナツーに攻撃を仕掛けたとの知らせがアレン達の下に入った。
「大型MSの存在を認める……データからするとサイコガンダムの後継機か」
陽動部隊がミノフスキー粒子散布前に送った最後の情報を眺めてアレンは興味深く眺めていた。
「しかし……明らかにニュータイプや強化人間が扱うのに向いてないだろう。これは」
ニュータイプ能力による先読みとサイコミュによるマルチ操作で火力重視のMSでは機動性はともかく運動性が下がってしまい、火力を潜り抜けてくるような敵がいた場合はすぐに撃墜されるだろうとアレンは予想していた。
アレンの計算上ではプルシリーズ1人で、余裕をもたせるなら2人で落とせると踏んでいる。
「とはいえ、資料としてはぜひとも欲しいな」
サイコガンダムの設計図は手に入れたがやはり実物が欲しい……と鹵獲した場合でも自分に回ってくるとは限らないのにそんなことを思うアレンだった。
「如何にもアレンが欲しがりそうな機体だな」
紫色の大型MS、サイコガンダムmk-IIを眺めながらハマーンがつぶやく。
それなりに長く、太い付き合いをしているハマーンはよくアレンを理解していた。むしろアレンの思考パターンが単調だということでもあるかもしれないが。
今回の戦いはソロモン戦とは違い、内通者がほとんどおらず、されど陽動と気づかれない程度には本気で攻める必要があるということでガルスJを始めとするドライセン、ザクIIIなども解禁し、戦力として投入されていた。
「今回は私が出撃することができないからな」
ソロモン戦はアクシズがサイド3を、建国が掛かった大一番だったので宰相のハマーンも出撃していたが、今回の戦いはただの陽動であるため総大将直々の出撃を周りの高官達が止めた。
アレンにとって鬱陶しい高官達も今回はちゃんと仕事をしたようだ。