第百二十四話
ティターンズの戦力はグリプス2とルナツーに分けられ、相対している戦力ではアクシズとエゥーゴを合わせた戦力より下回った。
しかし、防衛側である上に旧ア・バオア・クーこと現ゼダンの門が聳(そび)え立ち、更にはサイコガンダムmk-IIにガンダムTR-1[ヘイズル・アウスラ]、ガンダムTR-1[ヘイズル・ラー]、ギャプランTR-5[フライルー]、ハンブラビ、バウンド・ドックなど粒揃いである。
対してアクシズは最大戦力であるハマーンと留められ、それに伴い親衛隊であるイリア、プルシリーズも同じく留められ、切り札とも言えるアレン一派のニュータイプ部隊(?)とアナベル・ガトー率いる特殊機動部隊は別行動。
エゥーゴはほとんどがネモであり、一部少数がリック・ディアスとその改造機、ラーディッシュ所属のエマ・シーンが操るガンダムmk-II、おまけのカツ・コバヤシのGディフェンサーという何とも心許ない戦力だ。
戦争とは数だと昔、傷だらけの男が言ったが数が多少上回る程度なら質で逆転できるのだ。
ここに、陽動とはいえ、決戦に等しい戦いが切って落とされた。
開幕はお決まりの艦砲合戦。
これにはアクシズのグワジン級が圧倒的な火力を見せたのだが、それ以上に目立ったのがサイコガンダムmk-IIである。
メガ粒子砲をIフィールドで無効化するサイコガンダムmk-IIの姿はアレン・ジールやノイエ・ジールを彷彿させ、その強さを知るアクシズ兵に嫌な予感を抱かせるには十分だった。
その動揺を感じ取ったハマーンはそれに1つ手を打つ。
「ラカンの部隊にあのデカブツを優先して落とすように伝えろ」
「了解」
現状唯一とばっちりでアレンの強化を受けたラカン・ダカランを差し向けることに決めた。
ラカン・ダカランはドライセンを操り、その腕前はアナベル・ガトーとカリウス・オットーに次ぐ強さである。
ハマーンとしては本当は後方に控えているTR-1とその系統であろう機体と予想しているTR-5に当てるつもりでいた。
サイコガンダムmk-IIはその火力こそ優れているように見えるが機動力はアレン・ジールやノイエ・ジールほどのものは無いように見えた。それはおそらく強襲用ではなく、拠点防衛に重きを置いてのことだろうと予想していた。
だからこそラカン・ダカランには未知数ながら高機動で高火力なのではないかと読んだTR-5の相手をさせるつもりでいたのだ。
(あのサイコガンダムとかいう機体に乗るニュータイプはあまり大したことがないようだからそう掛からず落とすことができるはず)
現在サイコガンダムmk-IIに乗るのは本来ならロザミア・バダムの兄役だったがエゥーゴに連れ去られたままなのでパイロットとして参戦しているゲーツ・キャパをハマーンはそう断じた。
(まぁ、幸いあのヘイズルの系統の機体はエゥーゴの管轄の戦域を狙っているようだし、無理してこちらに目を引く必要性はないだろう)
エゥーゴとは同盟関係であるが現状、立場は五分、そしてティターンズとの争いが終わった後もこれが維持できるかどうかというとエゥーゴが連邦の主流派となるのだからそんなわけもなく、できるだけ力を削いでおきたいというのがハマーンの本音であった。
(となるとアレン・ジールの投入はもう少し様子を見てからだな)
「前線のMS隊、戦闘開始しました!」
とうとうお互いのMS同士が衝突する。
前哨戦、というわけではないが、アクシズはガルスJ、ティターンズはマラサイとハイザック、バーザムという量産機同士が斬り結ぶ。
続いて後方からガザCやズサ(MS形態無し)が、バーザム・キャノン仕様が支援攻撃を行う。
そして、アクシズの本命であるザクIII、ドライセンの部隊が優勢な戦域に突撃して切り崩しに掛かる。
そこへ——
「ちっ、あの青い烏賊モドキの3機、目障りだ」
切り崩しに掛かっていた部隊が逆に切り崩されかかっている。
それは3機のハンブラビ……ヤザン、ダンゲル、ラムサスによるものだ。
ヤザンの部隊は強敵であろうザクIIIやドライセンの部隊ではなく、新米兵士が多く乗り、調子に乗って前線に近づいて支援をしていたガザCを狙い、突出したアクシズの部隊を分断しようと試みたのだ。
それを阻止せんとガルスJも応戦するがヤザンの部隊に鎧袖一触で被害が拡大している。
「さすが腐ってもティターンズか。エリートと呼ばれていただけあって優れたパイロットが多いな」
一般兵ですらその戦いぶりは統率が取れ、見事な連携に、素早い再編成で戦場の穴を埋めていく。
それに比べてアクシズは全てが劣る。特に連携と再編成などが上手くいかず、再編成に限っては一々後方に下げて整え直さなければならないほどだ。
もっともそれは『アクシズの兵士』であって旧ジオン残党の兵士達はその限りではない。
突出した部隊を孤立させようと動くことはベテランなら誰でも想像がつくことであり、アクシズの新米兵の未熟さを苦々しく思いながら旧ジオン残党の兵士達がフォローに入る。
ドライセンを与えられている彼らは間違いなくベテランであり、それなりの強さを持っていた。
しかし——
「その程度で俺を止めようなんざ甘いんだよ!」
止められるかどうかはまた別問題だ。
一方的な虐殺という状態から戦闘行為にまで回復したが撃墜数が増え続けていくのには変わりがない。
混戦状態で暴れまわるヤザン達に通信が入る。
「なにぃ!あのデカブツが損傷して後退したからそちらに回れだと!」
サイコガンダムmk-IIはラカン・ダカランによって右腕と左脚を切断され、それによって引き起こされたサイコミュによる反動でゲーツ・キャパは意識を失うこととなり前線から離脱した。