第百二十六話
その頃、アレン達は……
「せっかくの偽装なのに意味がないな」
隕石のバルーンで艦を隠しているというのにアレンはそうぼやいた。
その理由は、グリプス2の守りについている部隊の中にパプティマス・シロッコがいることを察知したからに他ならない。
今はお互い距離があるためアレン以外はわからないが、射程範囲に入れば害意や敵意を感じ取り……いや、射程ではなくともある程度近寄ればパプティマス・シロッコも気づく。
ある程度の奇襲にはなるが、完全な奇襲とはとても言えなくなる。
「となると囮が必要か」
戦闘状態になってしまえばいくらニュータイプと言えどアレンほどの規格外でなければ察知するのは容易ではない。
そしてグリプス2は重要な要塞……要塞というには攻撃的だが、それを守る部隊の数はそれ相応に多い。それに対して囮を行うとなると相応の数を、質を出す必要がある。
「本当は私達が本命を行いたいところだが、私達ではさすがにシロッコに気づかれるだろうな」
つまり、囮となるのは自動的にアレン達の役割となることが決定した。
「問題は囮となる数か、私達だけでは明らかに少数に過ぎるし、何よりエゥーゴの部隊がいないと警戒される可能性があるな」
アクシズとエゥーゴが同盟を結んでいることはティターンズも当然知っている。にも関わらず、グリプス2を攻略するという手柄をアクシズだけが総取りするというのは多少政に知っている者なら不自然に感じる。
「だからといって、アーガマも囮とするとガトー大佐が単独でグリプス2を占拠することになる。そうなると手柄がアクシズ寄りになり過ぎる……ハァ、これだから組織は嫌なんだ」
野蛮人のようで嫌だが、戦争(殺し合って)いる方がずっと気が楽だとアレンは呟いた。
兵器を開発している身の上もあって戦争は得る物が多いのでアレンにとっては後々の楽しみが増えるのだ。
それに比べて利益調整など何の身にもならないことを考えなければならないのだから辟易としても仕方なことかもしれない。
「本当はこのようなことちゃんとした軍属であるアーガマやガトー大佐に任せればいいのだろうが……ニュータイプの感覚というのを理解できるか、納得できるかという問題もある」
「父上」
「ん、どうしたプルツー」
「確かティターンズは私達がアクシズの中の独自勢力、もしくは特殊な立場であると思っていると以前話していたはず」
だからこそ、ミソロギアを手に入れてすぐぐらいにティターンズが攻めて来たはず、とプルツーが告げると、アレンは、ああ、と頷き——
「私達だけで攻撃を仕掛けたところであくまで個人で動いている、もしくはアクシズと協力しているだけと取られる可能性があるか」
かなり無理がある上に、相手のミスを期待する下策ではあるが私達の戦力を加味すれば単独で奇襲を仕掛けに来たと思われても不思議はない……はず、とアレンは自身に言い聞かせる。
残る問題はアーガマとエンドラのガトー大佐の説得だけか、と思ったがそれはそれで面倒だと思ったが話さずに済む話ではないので通信を入れて説明する。
『しかし、作戦を勝手に変更するわけには……』
案の定、アーガマの艦長であるブライト・ノアから渋る声が出た。
ガトーはアレンの言うニュータイプの感覚については理解できなかったがこの程度の変更なら問題ないだろうと特に異論はなかった。
ガトーに異論がないとわかるとブライトはしばらく考え、変更を了承した。
そうと決まれば、とダミーバルーンを破棄し、グリプス2に向けて加速させる。
すると、少し遅れてグリプス2付近に駐留していたティターンズの艦が慌ただしくなった気配を感じた。
「どうやらこちらに気づいたようだな」
幾ばくか過ぎるとメガ粒子砲の射程に入る。
もちろん開幕狙撃を始める。
アレンが狙うはパプティマス・シロッコが搭乗するドゴス・ギアだ。
そして放たれたビームは……船体を若干溶かす程度で命中とはとても言えない結果となった。
「ち、さすがに感づかれたか。ここで始末できていれば楽だったんだが……MS隊、出撃しろ」
いつもより早い出撃命令が言い渡される。
それは相手が防衛側であるため、どのような兵器が用意されているかわからないことへの対策でもあり、アーガマやエンドラを気取られないためのものでもある。
出撃したのはキュベレイII20機(内1機はキャラ・スーン)とザクIIIだ。
ゲーマルクは当初の予定通り完成できなかった……というか途中でMDの開発に熱中していた上にテスト運転もできないため完成するはずもない。
ちなみにミソロギアの駐留戦力が少なくて大丈夫かというとも完全ではないにしろ、ある程度は大丈夫だろうとアレン達は思っている。
ミソロギアを停留させているサイド5には多くのデブリがある。
そのデブリを利用して機雷(軍だと条約違反)や砲台、ファンネルなどを紛れ込ませているため防衛戦であればそう簡単に遅れを取ることはないだろうとキュベレイIIのほとんどを投入することになったのだ。
「続いてMDを出す。総員注意するように」
MDの運用には色々と問題があった。
まず、視覚共有などというものがあるわけもなく、アレンの超理不尽な超感覚だけで操縦している。人間相手なら遠くても察知してしまうアレンだが、ニュータイプ能力で察知できないコンテナなどは衝突してしまったり、踏みつけてしまうことがあるのだ。
つまり、今のMDの頭部はただの飾りだったりわけだ。一応対策は考えているのだが時間が足りないだけだ。
続いてファンネルを射出する。
ファンネルの射出が終わる頃にはティターンズ側の砲撃とMSの発進が確認される。
「ほう、なにやらでっぷりとしたMSだが……シロッコが乗っているということはTR-1より高性能ということか……なんだろうな。しかし、あの重厚感でニュータイプの要求に応えるMSか、気になるな。それに何とも言えない妙な新型MSが2機までいるな」
でっぷりMSはジ・O、妙な新型MS2機はパラス・アテネとボリノーク・サマーンのことだ。
「しかし、なぜ全機モノアイなんだろう」
ティターンズは元々連邦系の組織なのになぜモノアイにこだわるのか、それがアレンには不思議でならなかった。
ハイザックは旧ジオン公国民に対して精神的圧力を、自分達が負けたとわからすための策だとしても他の機体までモノアイにする理由がわからなかったのだ。