第百二十七話
「つくづく私には運が無いようだな」
そう呟いたのはアレン達と相対することになったパプティマス・シロッコである。
強大なプレッシャーを放つアレン、そしてその影に隠れるが他にもニュータイプの20以上の存在を感じて冷や汗が止まらないでいた。
「あのような化物を相手にせねばならんとは……ゼダンの門に行っておけばよかっただろうか」
ティターンズの戦力は大きく分けて3個に分かれている。
1個はジャミトフ直轄の部隊。最近まで存在しなかったが、エゥーゴとの戦闘が周囲で発生するほど追い詰められているため急遽結成された。
2個目はバスク・オムの率いる主力部隊で、ジャマイカン・ダニンガンもここに入り、現在は部隊を分け、バスクがゼダンの門、ジャマイカンがルナツーの防衛にあたっている。
そして3個目はシロッコが率いる遊撃部隊……こちらは連邦兵も混じっていたりティターンズの中では質が低い兵士やバスクやジャマイカンが気に入らない兵士などの寄せ集めた部隊だ。
事前の作戦会議でバスクとシロッコ、どちらがグリプス2、ゼダンの門を守るかという話し合いが行われたのだ。
その時はシロッコは手勢の消耗を嫌って遊撃部隊であることを理由に拠点運用のノウハウがないとしてバスクに押し付けたのだ。
「愚痴ばかり言っていても仕方ないか……レコア、サラ、行くぞ!」
『『了解』』
レコア・ロンド、彼女はエゥーゴからティターンズに寝返った珍しい人物だ。
ちなみに原作とは違い、シャアはナタリーとくっついているのでサクッと心置きなく寝返っている。もちろん寝返ったのでカミーユ達が戦い辛い心境であることには変わりがないが。
もっとも、アレン達には関係ない。
艦砲であるのにやたらと精度がいい砲撃を躱しつつ、レコア、サラと更に5機ほど僚機を連れて迎撃に出る。
砲撃を潜り抜け、機動戦力同士の戦いが始まる。
シロッコ達に訪れる最初の難関、蛇口を捻りすぎたかのようなビームのシャワーが出迎える。
アレン一派の定石、ファンネルの制圧射撃だ。
本来ファンネルは中、近距離を前提にした兵器であるため、まだ遠距離と言える現状では関節などに命中しない限り致命傷とはならない。
しかし、それでも数が当たれば耐ビームコーティングは剥がれていき、ダメージは蓄積されていく。
「これを全て躱すなど到底不可能だな……これ以上近づくと確実に致命傷となるな」
進むことを止めて回避に専念しつつ、次ぎの行動を考える。
シロッコは、単独ならまだ先に進むことができると感覚的にわかるが、それと同時に先に進むな、と言っている自分がいることに二の足を踏んだ。
3回機体を切り返したところでアッティスのメガ粒子砲が後ろにいた僚機2機を火花へと変えた。
「主砲でMSを狙撃とは化物め!」
ファンネルで足止めを行い、アッティスの砲撃で仕留める。
これまでの戦いではアッティスは主に艦を狙って沈めていた。
それは敵のMS部隊に圧力を掛けるためであったが、今回は少し状況が違う。
母艦を落とし過ぎるとMSが撤退できなくなる。そうなってしまえば降伏するか死を覚悟した死兵となり、死ぬまで戦い続けるかの2択となる。
死兵化してしまえば戦闘が長引き、被害が拡大し、物資は消耗される。
グリプス2の占拠を視野に入れた場合、それらは命取りとなる可能性が高い。なにせゼダンの門とルナツーに守られているように配置されているグリプス2の占拠に時間を浪費すれば援軍が、被害が拡大してしまえば維持が、物資を消耗し過ぎれば戦闘に支障がでる。
そこでアレンはMSの消耗させることによってティターンズを撤退させようと試みることにした。
MSの消耗してしまえば艦隊は無防備になり、そうなるとただの的に等しく、撤退することになる。そして撤退するならMS隊も当然撤退することになるのだから無駄が減ると考えたのだ。
「あれは……いかん、別働隊が回り込もうなどと、以前の戦闘データを見ていないのか?!」
シロッコが言っているのはアレン側からすればミソロギア防衛戦の時の戦闘データのことだ。
あの時の戦いではファンネルの弾幕を突破できたのは中央への誘いだった部分だけで、弱点に見えた両サイドを回り込みを仕掛けたティターンズのMS隊の末路は全機撃破であった。
そしてその時撃破されたパイロット達と今回り込んで攻撃を仕掛けようとしているパイロット達を質で比べた場合、撃破されたパイロット達の方が質が高い。
つまり、彼らの末路はもちろん同じものになるだろう。
12機いたMSは瞬く間に4機が火花となって消え、残りもそう時間がかからず火花となるだろう。
「敵の練度が上がっているな。データにあるものより連携ができている……しかし、やはり同時に操作するにはそれ相応の集中力が必要なようだな!」
一部のファンネルの動きが鈍くなったのを感じ取り、そこを全力で駆ける。
もちろんレコアとサラもついていく。
動きが鈍いファンネルをフォローしようと他のファンネルが動くが、レコアがシールドから小型ミサイルを連射して弾幕……いや、注意を逸らすための囮とした。
小型ミサイルはすぐにファンネルによって落とされたがそれでもいくらかの手を割いたのは間違いなく、それによりシロッコ達が更に前進することができた。
中距離に到達するとシロッコ達の反撃が始まる……いや、正確に言うとシロッコの、というべきだろう。
忙しなく動き回るファンネルを感じ取り、先読みし、ライフルを撃つ。それを5度ほど繰り返し、7基のファンネルを撃墜して更に弾幕は薄くなる……が——
「次から次と!!」
弾幕が薄くなったのは本当に一瞬で、すぐに補充されてしまう。
「ぐっ」
『パプティマス様?!』
「大丈夫だ。私に構うな」
今まで躱していたシロッコだが、ついに被弾する。
幸い肩の装甲を一部溶かした程度で済んだ。
レコアはファンネル対策として用意したものを発射した。
それは本来、対艦用の大型ミサイルであったがあまりに恐ろしい弾幕であったため、対策としてビーム撹乱幕へと切り替えておいたのだ。
それは見事に的中し、ファンネルのビームは減衰してしまう。