第百二十八話
ビーム撹乱幕、それは一年戦争から使われていたアンチビーム兵器。
ならなぜビーム兵器が主体となった現在使われることがなくなったのか。
それは一年戦争のように撹乱幕を使うには戦闘規模が小さすぎることがあげられる。
ビーム撹乱幕を実戦に活用するならパブリクのような専用輸送機(あれは戦闘機とは言えないと思う)が必要だ。でなければ、そう時間が経たずに拡散してしまうので一般の兵士が使うにはあまりに短い効果時間であるため意味がない。
しかしパプティマス・シロッコはその僅かな時間、面積でも何かがやれるとレコアは信じ、この武装を減らしてでもビーム撹乱幕を搭載したのだ。
「いいタイミングだ」
それに応えてみせるシロッコはほぼ視認ができないビーム撹乱幕の薄いところを通すようにライフルの引き金を引く。
狙いはファンネル……ではなく、ギリギリ有効射程に入っているキュベレイIIだ。狙われているキュベレイIIを操るプルシリーズも気づくのに遅れ、回避が間に合わない。
しかし、そこはアレンが操るシールドビットが割り込み、防ぐ。その代わり防いだ衝撃で後方へ流されるがお返しとしてバルカン(MMP-80マシンガン)を見舞う。
上手くいかないことに舌打ち1つして回避するシロッコに衝撃が襲う。
「ぐぅ!被弾だとどこから——アレか?!あんな旧式如きに……いや、あのプレッシャーはあの化物のものか?しかし、あんな旧式を……待て、あれから発するプレッシャーはあのサイコミュ兵器のものと変わらない——まさかあれもサイコミュ兵器か!」
ジ・Oに右胴体にザクIIF型MDの狙撃ライフルが命中した。
シロッコは気づいていなかったがシールドビットのバルカンで誘導された結果だ。
「ということは——」
周りに視線を巡らせると——少数だが、同じような気配を発する旧式のMSが存在することに気づいた。
シロッコは自分の想像が正しいことを認識する。
しかし、そんなことを戦場で考えてしまったのが運の尽きだ。
『キャアアーー』
『サラ!』
ボリノーク・サマーンの腕とコクピットのすぐ横に穴が空く。
「回り込まれているだと?!」
いつの間にか背後に回り込み、近くを移動するファンネル達。
それから放たれる気配は間違いなくアレンのものであることをシロッコは感じ、己の身が捕食される1歩手前であることを自覚し、手が震える。
「くっ、ここは退くか……サラ、大丈夫か」
『駄目です……機体が動きません』
「レコア、サラを助けてや——」
言い終わる前にパラス・アテネの四肢が切断される。
もちろんそれを行った犯人はファンネル、そしてMDのビームキャノンだ。
サラが生きているのはサラがギリギリで察知できたことの幸運、レコアに関してはカミーユとファからの強烈な思念波を受けてうっかり鹵獲するような動きをしてしまったに過ぎない。
目新しいMSだからといって鹵獲を狙うほどは今回は余裕がないのだ。
実はニュータイプであるシロッコ達を足止めするのに多くのファンネルを割いているため、他の部隊はいくらか正面からすり抜けられてプルシリーズやマシュマー達と直接戦う場面も出てきている。
両翼に強いプルシリーズを配置している関係上、正面から突破されると質が落ちるのであまり悠長にシロッコ達を相手にするつもりはないのだ。
「これは——死ぬかな」
シロッコは自分の死が近いことを悟った。
いつの間にかミドルレンジの距離で30基近いファンネルに包囲されているのだから当然と言えた。
「ここまで、か」
『パプティマス様……』
しかし、なぜか終わりの時が来ない。
アレンの操るファンネルは動かず、他のファンネルも動きが鈍い……いや、それどころかキュベレイIIの動きが全体的に鈍い。
『パプティマス様、私達のことは気にせず行ってください。今なら——』
「いや、ここは退くぞ。ここで攻撃すれば間違いなく後がない。サラ、レコア、MSから出ろ。私が運ぶ」
こうしてシロッコは戦線を離脱した。
そして離脱したのと同時にアーガマとエンドラがダミーバルーンを破棄し、姿を現した。
少し時間を遡ってゼダンの門に場面を移す。
「ほう、エゥーゴ側もまだ手があったか……もっと早く出せばいいものを」
アーガマに偽装しているラーディッシュから1機のMSが出撃した。
それはヤヨイ・イカルガが操るガンダムmk-IIをベースに開発を進められた次世代試作機であるガンダムmk-IIIの火力を増強させたフルアーマータイプである。
ハマーンが言ったように早く出したかったのは山々だったがガンダムmk-IIIはそもそも構造が複雑であり、メンテナンスに時間がかかる機体である上に作戦直前に出来上がったフルアーマーの調整のために遅れてしまったのだ。
(しかし……ヤヨイのやつが勝負して五分か……いや、機体の特性上、仕方ないことだろうな)
操縦技術はヤヨイの方が上なのだがガンダムmk-IIIはあくまで高性能な汎用MSであり、TR-5は機動力と火力重視、つまり強襲用MSだ。
TR-5を操るエリアルド・ハンターは少し交戦して並々ならない敵であることを感じ取り、自分の任務は多くのMSを排除することであると同時に圧力を掛けることも言われているため、撃墜されるような相手との交戦は避けながらフルアーマーガンダムmk-IIIを自由にさせると味方の被害が増えると振り切らずに、他のMSを落としていく。
しかし、そのTR-5の動きが鈍ったのは間違いなく、勢いは落ちた。
(だが、これであちらに余裕がなくなったとなるとそろそろガンタムタイプ……TR-1が動くだろう。問題はどちらに動くか……あちらの援護に回るか、それともこちらに——)
ハマーンの考えを読んだように2機のTR-1は動き出した。
「なんでこちらに来るかな。面倒じゃない」
ついうっかり素の状態で本音が漏れてしまい、慌てて周りを確認したがどうやら周りもそれどころではないのか聞かれてなかったようでホッとするが、それどころではないと気を引き締め直す。
「TR-1に親衛隊を向かわせろ。あいつらを好きにさせるな」
「ハッ!」
エゥーゴとティターンズの戦況はエゥーゴ不利だが、アクシズとティターンズの戦況はアクシズが有利に進んでいる。
ヤザン達はラカンが抑え、他の部隊はアクシズの旧ジオン残党のベテラン達による操縦技術の差とMSの基本スペックの高さで戦線を押している。
ただし、ハマーンにはTR-1以外にも憂うことがあった。
(ベテラン達をここで損耗させ続けるわけにはいかない。それに今はいいとしても近いうちに疲労とエネルギーや推進剤が切れるだろう。そうなると交代させなければならないが……予備部隊の練度がな)
旧ジオン残党のベテラン達の代わりがアクシズの新米達となれば不安に思っても誰も攻めることはできないだろう。