第百二十九話
「右2……左3……正面4……多い」
プル24は3人の姉妹とイリアと共に2機のTR-1を迎撃に向かっている最中だ。プルシリーズはもう1人従軍しているがハマーンが出ることを想定して護衛として残した。
ハイザック、マラサイ、バーザムを落として進む親衛隊だが、ファンネルは使われていない。
ガッライ(親衛隊のNT専用MSで見た目ヤクト・ドーガ)にはファンネルを補給する能力は備わっていないため多用できないのだ。
しかし、キュベレイIIより機動性こそ若干劣る程度ではあるが運動性が低い。しかし、豊富な武装でファンネルへの依存性を下げ、場面に応じた戦いが行える機体となっている。実はこの機体は乗りこなすには戦術が決まっているキュベレイIIよりも難易度が高かったりする。
「たくさんいて、たくさん死ぬ」
流れ込んでくる無念な思いを特に感じたように思えない冷たい声だ。
「死ぬのが嫌なら……出てこないで」
彼女は死の恐怖に打ち勝ち、戦いの場に出てきたのは尊敬している。
自分達には父親に対して戦うことぐらいしか存在意義を示せない。それしか選択肢がないから歩むしかなかった道。
今殺している兵士達は他に選択肢があったにも関わらず、死と隣り合わせでいることを選んだ者達だ。
だからこそプル24は無念な思いを聞く度に辟易とする。自分が選んだ道は最後まで胸を張って死んで欲しいと思うのだ。
死者からすれば勝手なことをと言われるかもしれないが、プル24は身体もそこそこ育ち、スパルタな教育も受けているが所詮中身は2歳未満の子供で、しかも社会なんてものに縁のない生活をしているので土台無理な話だ。むしろ敵を尊敬心を抱いていることこそよく教育されている証と言える。
「速い敵……TR-1、確認」
『こちらでも確認』
『あちらの未確認機と同じ部隊と考えられる。注意されたし』
『遠距離主体の武装、近接戦闘有利?』
「異議あり、機動性で負け、追いつけない」
『隙あれば狙う』
『異議なし』
『異議なし』
『異議なし』
「異議なし」
短く、杜撰な作戦会議が終わり、各々行動を起こす。
TR-1……正確に言うとガンダムTR-1ヘイズル・ラー第二形態のパイロット、カール・マツバラ、ウェス・マーフィーも他の機体と違うガッライを相手と見定める。
前衛はウェス・マーフィー、後衛はカール・マツバラ、ただし、これはだいたいの陣形であって少数編成であるため厳密に決められているわけではない。
ちなみにウェス・マーフィーは以前、アレンがTR-1ギガンティック・アーム・ユニットを鹵獲した時のパイロットは彼である。
お互いが敵と認識し、ビームの交差が始まる。
1つ、2つ、3つ、4つ……と交差を重ねていくと双方わかることが出て来る。
機体スペック、武装共にTR-1が優れていて、操縦技術も上回っている。しかし、プルシリーズはそれを埋めるだけのニュータイプ能力と強化された身体能力を魅せつける。
それに加え、このプルシリーズはニュータイプ能力で意思疎通を行い、連携を取っている。これはアレンと共に行動しているプルシリーズがまだ習得できていない技術である。
そしてプルシリーズは近接戦闘では自分達の方が優れていることを感じ取った。
そもそも特殊機に近いTR-1を操る2人は近接戦闘を行う機会が減少していたこともあるし、エース級との近接戦闘など数える程度しか経験していない。
それに比べ、親衛隊所属のプルシリーズは実戦経験こそ少ないがハマーンやイリアを始め、ガトーやカリウスと言ったエース級と近接戦闘の訓練を積み重ねていた。
「皆」
プル24が声を掛けるが内容は言わない。言う必要がない。それどころか通信回線すら開いていない。
包囲するように陣取り、プルシリーズはここが使い所だと踏み、示し合わせたかのようにそれぞれ4基装備されているファンネルを2基飛ばし、合計8基が宙を踊る。
そして四方からTR-1へと一気に距離を詰める。
なんとなくではあるが近接戦闘は危険だと察したTR-1の2人は近づけさせないようにビームライフルで迎撃……しようと構えた時、予想もしていない方角からのビームが訪れ、ライフルを構えた右腕が消失した。
「……外した」
それの正体は遠くから新型の高出力スナイパーライフルを構えるリゲルグ、つまりイリア・パゾムである。
ここぞという時のために離れて待っていたのだ。
本人は撃墜できなかったことに不本意であったが狙われ、破損したカールはそれどころではない。
目の前に近寄る敵、狙撃の第2射がないのか、飛び回るファンネル、どれもが死の足音が大きな音を鳴らして近寄ってきているように聞こえた。
「まだだ。まだ死なない!」
這って近寄ってくる死の恐怖に負けぬよう喝を入れ、残った左手でビームサーベルを引き抜き応戦するために構えた。
その時、カールの操るTR-1と戦う予定のプル24とプル18は迷ってしまった。
ビームライフルを失った以上、安全策を取って中距離から仕留めるか、それとも予定通り近接戦闘を仕掛けるのか瞬時に決断ができなかったのだ。
それは……致命的なミスとなる。
「だあああぁぁぁぁ!!」
カールはフルスロットルでプル24に向かって突撃する。
自ら前進したことでプルシリーズの足並みは崩れることになり、1対1という形を作ってしまう。
そしてそれをフォローするようにウェスは自身を狙ってきている2機を相手しつつ、プル18を牽制して足止めする。
「ファンネルッ」
残していた2基のファンネルも展開してカールを狙うが、悪魔の悪戯か、戦場の女神の祝福か、カールはいくらか損傷を受けながらも致命傷はなく、プル24と接近戦の距離まで近づいた。
もちろんプル24もビームサーベル引き抜く。
「……ッ」
まずカールが胴体目掛けて突き入れるがプル24は失っている右手、つまり左側へと躱すが——
「パージッ!」
スラスターが点火した状態であるTR-1付けられた外殻を解除する。
「ッ?!」
意表を突かれたそれはプル24のガッライに衝突し、カールは外殻ごとビーム・サーベルを貫いた。
————お父さん。
「これは……」
————ごめん。私……。
「プル24……まさか」
————死んじゃった。
————ごめんなさい。
————ごめんなさい。
————ごめんなさい。
「……こちらこそすまない。せめて私のために死なせてやりたかった」
————ううん、私が不甲斐なかった。
————私、役に立てたかな。
「ああ、十分とは言えないが役に立った」
————嘘つき。
————でも、そんなお父さんが大好きだよ。
「私も愛している」
————これからどうなっちゃうのかな。
「心配することはない。これからも共にある」
————だったら嬉しいな。
————姉妹を、よろしくね。
「言われるまでもない。家族だからな」
————お父さん。
「ん」
————大好きだよ。
こうして、プルシリーズに初めての戦死者が出た。