第百三十一話
グリプス2の護衛部隊であるシロッコの艦隊は撤退した。
しかし、これで戦闘が終了したわけではない。
確かに宇宙で戦闘を行える戦力はいなくなったのは間違いないが、問題はグリプス2内部だ。
艦隊が指示を出していたが、コントロールするのはあくまでグリプス2内部から直接行っている。
つまり、グリプス2内部には規模は小さいながら守備するティターンズ兵がいるのだ。
ここからは直接人間同士の白兵戦が行われることになる。
「とくれば私の出番だな」
そう言って買って出たのは大多数が想像していなかったアレンだった。
先陣こそ務めたが肝心の司令官であるシロッコを動揺で逃したこと、プル24の仇(八つ当たり)を取りたいという思いからのことだ。
ブライトやガトーからは心配の声が出たが——
「MSならばともかく、白兵戦で私達に勝てる者がいるとは思わんがな」
そうアレンが自信満々で宣言したことにより、グリプス2の制圧作業はアレン達が行うこととなった。
とはいえ、万が一の事故でまたプルシリーズを失うのはアレンとしても避けたいので自身とプル、プル2、プル3の精鋭だけで突入することにした。
港に入るまでの護衛はプルシリーズに頼み、その後は周囲の警戒を任せる。港に入るのはランチに乗ったアレンとプル達、そして支援用にザクIIF2型MD3機を伴う。
「さて、蹂躙タイムだ」
ランチのハッチが開くと同時に間断なく銃弾の嵐が訪れる。
「そんなもの私達の前では無意味だ」
このために用意してきたパワードスーツ(元耐Gスーツのこと)で銃弾を見事跳ね返す。ガンダリウムγの装甲は伊達ではない。
そのパワードスーツを着た4人は(MSの高性能化に際して耐Gの問題を解決しようと試験生産をしていた)堂々と突き進む。
しかし、パワードスーツは予想外だったが装甲車などが乗り込んで来ることも想定していたティターンズ兵は対戦車ロケット弾も用意しており、迷いなくそれを発射する。
「ふん、その程度のものが私達に通じると思っているのか」
左(触)手は添えるだけ、とでも言うかのように軽く触れると軌道を変更して明後日の方向へ飛んでいく。
それを見たティターンズは青い顔をして慌てて次の対策を持ち出してきた。それは対戦車ライフルだ。
ロケット弾よりも威力は低いが弾速が速く、数を用意でき、一斉発射が可能な対戦車ライフルを持ち出してきたのはいい判断だろう。それが実るかどうかと言えば——
「通常弾より数が減って対処は楽だな」
10以上のライフル弾が一斉射され、いくつかは射手の腕が良くてアレンやプル達の剥き出しになっている肩や膝などの間接部を狙った弾丸もあったが、それより速い触手が弾く……狙撃手に向けて。
それにより見せられないよ!的な映像が広がる。具体的には頭がパーンッしたり胴体が半分なかったり腕が根本からなかったり。
これはたまらんとティターンズ兵は直ぐ様別の手段を用意する。
しかしそれはほとんど自暴自棄に等しい選択といえるかもしれない。
次に現れたのは装甲車である。
そして……速度を落とさずアレン達の方へと突っ込んでいく。特攻である。
「パワードスーツに装甲車とは笑止」
そう言うと触手が赤くなる。
ヒートホークやヒートサーベルのように触手が熱せられているのだ。
そして赤く変化した触手2本が猛進する装甲車の上下から迫り……触れると——
「装甲車が斬られた?!」
ティターンズ兵の驚いた声が響く。
もっともアレン達にとっては当然の結果であった。
なにせこの状態の触手は初期のザクIIの正面装甲を多少時間を掛ければ貫くだけの威力があるのだから。
それを見届けたというわけではないだろうがティターンズ兵は港での防衛を諦めたのか撤退を始める。
「まだ足掻くつもりか……見上げた根性だ」
ティターンズ兵はシロッコが率いる艦隊がジャミトフ・ハイマンがいるグリーンノアに引き上げ、再編成し直して救援に来るまでの時間稼ぎを命令されているのだ。
自分達が生きている間に帰ってくることはないだろうとわかっているが、それでも地球を守ってきたという自負がある兵士達は命を捨ててでも抵抗するつもりでいるのだ。
「その根性は素晴らしいが……すごく面倒だ」
結果から言うとグリプス2にいたティターンズ兵は残らず死んだ。
アーガマやエンドラに乗っている者達は戦慄した。
4人で制圧したのはもちろんであるが、まさか文字通り皆殺しにするとは思っていなかったからだ。
もっともそれはティターンズ兵が最後の最後まで抵抗したからであってアレン達が残虐なわけではない……まぁ降伏する間もなく殺していたようなところがあったのは間違いないが。
さて、無事グリプス2を制圧したという合図のためにコロニーレーザーを発射してゼダンの門に張り付いている部隊に知らせた。
ちなみにこの合図、アレンの独断であり、当然アーガマやエンドラから苦情があった。
さすがにミノフスキー粒子が散布されて通信ができないからといってそんな合図の仕方はないだろうという苦情という名の説教がされたがアレンはどこ吹く風だったのはアレンを知っている者なら容易に想像ができるだろう。
そしてハマーンの方はというと……見事カール・マツバラを仕留め、プル24の仇を取ることに成功した。
姉妹が殺され、今までどこか殺し合いを舐めていたプルシリーズの目が覚め、猛攻を開始し、ウェス・マーフィーや他の友軍によるフォローも撤退させるまでいかず、ハマーンが戦場に到着してしまうと勢い止まらず瞬く間に友軍はウェス・マーフィーを残して全滅して最終的にはキュベレイにボコボコに殴られ、蹴られ、コクピットを少しずつ潰して殺した。
その残虐な殺し方にティターンズや味方のはずのエゥーゴに戦慄が走ったがアクシズの士気はうなぎ登りで勢い付くが、そこで撤退の合図であろうコロニーレーザーが発射されて撤退する流れとなった。
「……これで許されるとは思わないけど、1つのケジメはつけれたかしら」
そうMSの中でハマーンは呟いた。