第百三十三話
「ふむ……やはり扱いが難しいか」
ゲーマルクを完成……させることができればよかったが、まだ完成していない。
その代わり、搭載予定の新型サイコミュ兵器……と称しているが実際はファンネルの派生兵器であるマザーファンネルの起動実験行っている。
このマザーファンネルはファンネルコンテナをビット化し、従来のものより小型化したファンネルであるチルドファンネルを搭載している。
マザーファンネルにはサイコミュを搭載し、チルドファンネルに中継する役割もあり、従来のファンネルより多く操ることへのハードルが低くなった。
しかし、問題はゲーマルク自体の火力を増強し、手の平にバッテリー式小型Iフィールド発生装置を搭載したこともあって、サイコミュ・コントローラーによって思念波による操縦が可能になって尚、困難なものとなってしまった。
「やはりIフィールドのon-off、出力調整を操作させるのは無理があったか」
バッテリー式小型Iフィールド発生装置とはその名の通りエネルギーをバッテリーで補う、小型化に成功したIフィールド発生装置のことだ。
元々Iフィールド発生装置の弱点は膨大なエネルギーと放熱、それによる大型化にあったが、それを既存のものとは違って常時展開型ではなく、パイロットによる制御で省エネ化、部分展開で打破を図ったものなのだが、結果はこの通りだ。
「せめてマザーファンネルかIフィールドかビーム兵器の内2つぐらいが限度でしょう」
未だに若干暗いが、多少は立ち直りつつあるスミレが言うとおり、どれかに絞るべきだろう。
元々バッテリー式小型Iフィールドは開発中の代物であり、搭載予定ではなかった。しかし、プル24の死によって私自身もだがプルシリーズも死というものを意識するようになったことを機に、試験的に搭載してみたのだがやはり無理があったようだ。
「……妥協して大型化して既存の技術で満足するか」
「バッテリー式小型Iフィールドは搭載してもいいかもしれませんよ。別用途で使えますし」
今話しているのはゲーマルクではなく、ハマーン専用機に関してのことだ。
ハマーンから半月後にア・バオア・クー攻略作戦を開始するという通達が来た。
私達はそれまでに何としてでもハマーン専用機を完成させなければならない。
先のア・バオア・クー戦で見たMS……TR-1の後継機であろう機体の性能は私の開発したMSとでは相性が悪い。
負けるとは思わないが、あの機動力はキュベレイIIやファンネルを振り切ってしまう。そうなれば負けはしないまでも勝つことも出来ない。
実際ガンダムmk-IIIなる機体に乗ったヤヨイ・イカルガがいいように翻弄されていた。
そんなMSを用意されてはこちらも対抗しないわけにはいかない。
「私達の本気を魅せてやろう」
プル24の弔い合戦でもあることだしな。
グリプス2攻略作戦が終わってから両陣営は戦闘を行わず、只々決戦への備えに力を費やしている。
新しいMSの投入、軍の再編、連邦兵がエゥーゴに合流、アナハイムとティターンズが水面下で交渉を行う、エゥーゴとシロッコとの接触、グリプス2の占拠によってサイド3の政治家がアクシズに屈したりと目に見えない部分で激しく事態は動いている。
アレン達はミソロギアに引きこもり、着々と決戦に向けて準備を続ける。
そんなある日、アレンは重大なことに気がついた。
「…………口座の残高が見たこともない金額になっている」
それはアナハイムに売ったドダイIIの特許料であった。
ドダイIIは高スペックであったが同時にコストパフォーマンスが悪く、生産は少数となっていた。しかし、それに使われていた技術は現在使われているSFSに多くの流用されている。カミーユは知らないが実はZガンダムにも一部使われていたりもする。
ちなみに桁で言うと11桁で、四捨五入をすると12桁になるぐらいである。
「どうしたものか……本来なら研究のタネ増やしに投資でもするのだが、このご時世だと信頼できる投資先なんてあるとは思えん」
1番優良株がアナハイムというあたりが余計に信頼できないとアレンはため息をついた。
本来なら自国……つまりアクシズにでも投資すればいいのだがアレン達にとって既に自国という気分ではない。どちらかというと傭兵と雇い主の関係である。
投資をしたとしても何らかの理由で凍結なり没収なりで無効化、もしくは取り上げようとしてくるだろうと辟易とする明確な未来が見える。
「となると貴金属か宝石、生活物資に変えておくが吉か」
そもそも通貨すらも信用していないアレンは早々に物資に替えることを決断した。
この資金の一部でミソロギアに農業プラント、養殖プラントを設置することにした。これによりコロニー内より生産効率が上昇し、自給率が向上した。ちなみにフル稼働させると自給率は万%を軽く超えるが労働力(人も機械も)なく、最小限の稼働率に留められている。
余談だがプラントの外側だけなら廃材に囲まれた環境で、廃材のプロフェッショナルがいるのですぐにでも用意できたが、中身を揃える方が金がかかっていたりする。
もちろん希少金属にも変えられているが、それらはだいたいMSに使われることになるのは言うまでもない。
そして更にプルシリーズを増産し、合計70人となる。ちなみに24は欠番である。