第百三十四話
「設計図とデータ採取に時間を使ったが、物になるまではそんなに掛からないのは私達の強みだな」
「……消耗部品がアレンさんのお手製ですから完成したと言えるかどうか私にはわかりませんけど」
アレンのキチガイの産物、MS部品8割(触)手製オーダーメイドというとてもではないが複数回出撃できるような……いや、実戦に耐えられるか怪しい代物と言えるだろう……通常ならば。
そこはキチガイはキチガイなりの秘策が……ない。
超正攻法である連日連夜フル稼働による製造によるストックのみである。
つまり、兵器として成立しているのかと問われれば否だ。
「まぁ4戦分程度は用意したから今回の戦いぐらいは保つだろう……そもそも戦闘にそれほど時間が掛かるのかわからないしな」
「確かにこれがデータ通りの活躍ができるのなら問題はありませんけど……」
「この機体……クィン・マンサは間違いなく最強の一角なのは間違いない。後はパイロット次第……つまりハマーン次第だ」
クィン・マンサはそのスペックの高さ故にプルシリーズの後期ロット、つまり経験が浅いプルシリーズでは満足に操作ができないほどのものだ。
クィン・マンサが大型機であることからパイロットを複座型にして操縦させるという案も考え、試しもしたのだが、これはこれで問題が発生して延期となった。
複座型となると2人以上のパイロットで操縦することになるわけだが、プルシリーズでは連携がうまくいかなかったのだ。
プルシリーズはまだまだ精神が未熟であるために1つの機体を2人で操縦するなどという高等技術はまだ身につけていなかったのだ。
ファンネルと機体の操作を分担することでゲーマルクはもちろんクィン・マンサを活かせることができるが、それをやるなら最初からクィン・マンサにファンネルを搭載せず、純粋な火力にして護衛機としてキュベレイを付ける方が火力的にも操作性でも便利だと判明している。
そもそも生まれて少し経てばそれなりにMSを使いこなすプルシリーズは、経験を重ねるとエース級、準エース級にまで成長し、プル、プルツー、プル3などは既にエース級にまで至っている。
複座型に使うならプルシリーズの経験豊富な初期ロットと新米である後期ロットを組み合わせぐらいでないと複座型に使うのは勿体無いというのがアレンの見解だが、現実では満足に複座型で操縦ができるのは初期ロット同士ぐらいの技量が必要なのだ。
もっともクィン・マンサを複数機揃えるのは難しく、そもそもプルシリーズの数も足りない現状では悪手でしかない。
「それにしてもテスト機であるゲーマルクより先に仕上がるなんて皮肉ですよね」
「新技術を投入し過ぎたな。今度からは気をつけるとしよう」
エゥーゴと少数の宇宙に存在するカラバとアクシズがア・バオア・クー宙域に進撃を開始。
ティターンズはゼダンの門にルナツー、グリーン・ノアの軍をグリプス2の的にならないよう分けて集結させた。
グリーン・ノアのほぼ全軍をゼダンの門へ、ルナツーにはパプティマス・シロッコを配置した。
ジャミトフ・ハイマンはパプティマス・シロッコがエゥーゴと接触していることを把握している。しかし、それを討伐するには貴重な戦力を消耗してしまうため、不穏分子と共にルナツーの防衛という押し込むことにした。
ちなみにこれらの対応はパプティマス・シロッコの狙い通りあったりするが、それを語るのは別の機会にする。
集結した数はティターンズの方が多いが、常にグリプス2を意識しなければならないので分散したような形で配置している。
ティターンズはグリプス2の欠点を把握していた。
再発射に時間がかかる。レーザー発振器は2射、無理をして3射すると交換しなければならない。方向転換は時間がかかる。ミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されている場合、通信ができずに座標が把握できないため、大雑把にしか撃つことができない。
それらを踏まえた上で迎撃態勢を整えたことで第1射でも被害は軽微に済む可能性が高い。
しかし、戦力が分散されているというのは戦術的にみれば各個撃破してくださいと言っているようなもので、明らかに悪手である。
グリプス2はその存在だけでも戦術的有利を引き出すことができるのだ。
余談だが、アレンは万が一ミソロギアを狙われても良いように移動させた上にダミーバルーンも設置していたりする。
更に余談だが、アレンがグリプス2の権限を握っていたならグリプス2で艦隊を狙撃、なんていう神業が見れただろう。
「あれは例のヘイズルと……ヘイズルの新型?……いや、あのフォルムには今までの機体の間に合わせ感がない。ということは完成形態か」
アレンが言った通り、TR-5ギャプランとTRシリーズの完成型であるTR-6【ハイゼンスレイII・ラー】がそこにはいた。
「ふむ、どんな活躍をするか……今考えるだけでもゾクゾクするが……敵である以上、そうも言ってられんか。ハマーンは……最初から先頭を切るようだな」
それでこそMSを仕上げたかいがあるというものだ、と白いクィン・マンサを見て、嬉しそうにつぶやく。
「さあ、ティターンズよ。お前達の技術、私に見せろ。そして私の技術も魅せてやろう」
(アレン博士……明らかに悪役ですよ)