第百三十六話
ハマーンは最初からTR-6と戦うつもりだった。しかしあえてTR-6とは離れた艦隊へと突入した。
それは相手の陣地で戦うためである。
負けるつもりは欠片もなく、被害の拡大を抑えるためにはTR-6を前線から隔離するのが1番だと判断したのだ。
それに、周りが敵しかいない、つまりハマーン自身に向けられる殺意しか存在しないため、敵味方入れ乱れると殺意が混濁し、常に気を配らなければならないのだが、敵しか居ないならば意識を深く割く必要がない。このあたりはアレンも同意見である。
だからこそ、このような敵地のど真ん中で暴れ、TR-6を誘き出したのだ。
「そちらも付いてきたか……このクィン・マンサの強さに怖気づいたか」
TR-6ともう1機、TR-5までこちらに来るのはハマーンの想定外であった。
最新鋭であろうTR-6が阻止に向かってくるというのは既定路線、クィン・マンサの被害拡大を防ぐなら最善、次点でTR-6がクィン・マンサと相性が悪いかクィン・マンサを甘く見てTR-5が来ることだった。
「ふっ、数が増えた程度で私と、アレンが私のために作ったクィン・マンサに勝てるはずがない!」
『私のために』が妙に力が入っていたような気がするが気のせいだ。
先に動いたのはエリアルド・ハンターとウェス・マーフィーの2人だ。
TR-6・ハイゼンスレイII・ラーが真っ直ぐクィン・マンサに突撃しながらシールド・ブーステッド・ライフルを3射、TR-5・アドバンスド・フライルー(原作ではガンダムヘッドだったがここではギャプランヘッドのまま)が側面、もしくは背後を取るように動き、こちらは拡散メガ粒子砲を放つ。
しかし、いくら最新鋭で距離が近いとはいっても戦艦の主砲を無効化したクィン・マンサのIフィールドを貫通できるわけもなく、逸らされ、圧縮された粒子は散らされていく。
だが、ハマーンは少し機嫌を損ねる。
「パノプリアを着けた状態では躱しきれない……それにファンネルも8基落とされたか」
140mを超える巨体な上にそれを包むようにIフィールドが存在するのだからその面積は更に大きくなっている。しかも、固定砲台として機体とある程度の間隔しか保たないようになっているファンネルまで躱しきれてこそニュータイプだと思っているのだ。かなりストイックである。
「ではこちらからもウェルカムファンネルで出迎えるのが家長の役目というものだろうな」
固定砲台化したファンネルを半数ずつ、2機に振り分けて一斉に撃ち始め、撃破——できなかった。
しかも2機とも無傷だ。
「ほう、そのサイズのMSでIフィールドとは……さすがはティターンズの最新鋭機、恐れ入るが……どうやらこちらのIフィールドより濃度が低いようだな。当然といえば当然だが」
パノプリアにはクィン・マンサのそれとは別に大型のIフィールド発生装置……というかパノプリアの5分の1がIフィールド発生装置だったりする……が搭載されている。
その大きさに見合った防御力を有し、最大出力時ならゼロ距離の主砲でも受け流すことが可能……と数値上ではなっている。あくまで数値上では、だが。
「まぁ残念ながらアレンの想定内だがな」
想定内、つまり対策があるということだ。
1つは——
「これでどうだ」
先程と同じようにファンネルが砲撃を始める。
ただし、先程とは違いがある。それは先程の砲撃は逃げ道を潰すように面を意識してのものだったが今は8基ほどが一点集中……いや、厳密に言えば、ビーム同士が干渉し合わない程度に間隔を開けているので高密度と言った方が正確か……それを交互に間断なくに3回ほど続けたあたりで両機共に回避する。
「さすがに4回は防げないようだな。パノプリアならまだまだ大丈夫だぞ。さすがアレンが私のために作った機体だ」
やはり『私のために』の語句が強くなっている。
なぜこれほどこだわるのかといえば、アレンが作ってくれたからというのもあるが、キュベレイを妥協した結果ではあったがハマーン専用機として作ったにも関わらず、そう経たずにキュベレイmk-IIという形で量産されてしまったことを気にしていたのだ。
せっかくの専用機なのだからワンオフ機を乗り回したかったという子供っぽい事情がある。……MSという兵器をオモチャ代わりにする子供がいるという現状は本当に末期だ。(そういえばどこかのコロニーには軍のMSを盗んで妹に学校へ行かせようとする無謀な子供までいたような……)
「それにしても……この2機、パイロットは優秀ではあるがオールドタイプなのは間違いない。なのにこの命中率、回避……それに火器制御……何かあるか?」
ニュータイプでもない相手がクィン・マンサよりは劣るだろうが、それでも複雑な武装を使い熟しているのを見て、違和感を感じる。
「以前、アレンがニュータイプをシステム化したものがあったと言っていたな。それに類するものか?だが、あれはニュータイプの人格そのものをシステム化したものでニュータイプならわかると言っていたが……」
しかし、それを指し示すかのようにTR-6からあるものが放たれる。
「む、これは……有線式サイコミュ?いや、ニュータイプではないから……まさかオールドタイプが使えるサイコミュの開発に成功したのか?!」
以前自身が考えていたシステムが目の前に実現されていた。
そしてアレンが否定していた言葉を思い出す。
「なるほど、確かに万人が使えるもので勝負すれば負けると言っていたが、その通りか」
TR-6が放ったのはインコム、有線式ファンネルとも言えるそれである。