第百三十七話
「俺達は負けない!死んでいったカールのためにも!泣かずに戦い続けるオードリーのためにも!!」
エリアルドの叫びは艦隊に近いためミノフスキー粒子が濃くて通信ができない現状でもハマーンに伝わる。
「この感じ……ふん、貴様はプル24を殺した奴の仲間か。機体が同じなのだから早く気づくべきだったな」
TR-6のインコムとクィン・マンサ・パノプリアのファンネルという実戦において初のサイコミュと準サイコミュの対決はファンネルが5基落とされた次点で2基のインコムは消え失せた。
ハマーンほどのニュータイプならインコムのワイヤーを狙うことなど造作も無いことである。
「やはり座標を固定されたファンネルではどうしても被害が大きくなる……それにしてもおかしいな」
いくらオールドタイプが使えるサイコミュを開発したところでそれはニュータイプが扱うサイコミュを上回ることはないとアレンが言っていたことと目の前のTR-6の動作を見ていると本当にそうなのか疑問を抱く。
「あの重火器を使いながらファンネルもどきを使うというのはどう考えても無理がある」
そんな思考をしていながらTR-6の脚部から放たれたミサイルをファンネルとテンタクルで迎撃して全て撃ち落とす。
「鹵獲したいところだが……問題はその手間とパイロットに依存しない、システム的なものである場合は手に入る可能性が低いことか」
贔屓目に見ても最高機密の塊である最終兵器たる機体を鹵獲できたとして、システムまで残っている可能性は……皆無に等しい。
「それにしても……Iフィールドもそうだが、あの決め手を回避する動き……小賢しい」
未だに決着がつかないのはハマーンが手を抜いているわけでもなく、TR-5とTR-6の連携に手古摺っているわけでもない。
ただ、ハマーンが放つ本命の一撃を紙一重に躱されているのだ。
これでは埒が明かない……とまではいかないが、時間がかかるな、とハマーンが考えていると別の方向から妙な飛来物を3つ感知し、全てをテンタクルで薙ぎ払おうとしたが1つだけ払うことに失敗し、それが巻き付きいて——
「これは……電流か?」
帯電防御も完璧にしているためわかりにくいが、モニターに警報が流れて事態を把握したハマーンはテンタクルをヒート化させて切断する。
「ちぃ、やはりこの程度でどうにかなるような代物ではないか」
そこに現れたのは青い烏賊ことハンブラビ隊、つまりヤザン・ゲーブルの登場だ。
他の戦線で戦っていたヤザン達だったが、TR-6が苦戦するクィン・マンサの存在を重く見たバスクが増援を出したのだ。
(また面倒な……しかし、困った。あの3機もそれなりの腕があるようだし、このファンネルではすぐに撃墜、とはいかないだろう。それにあのイカ達にファンネルを割けばあちらの2機を拘束することは難しい……インファイトはあまりこの状態ではしたくないが……)
判断に迷ってしまい、それが隙となる。プル24の時のように。
ニュータイプでもないヤザン達だが、MS越しながらも相手の呼吸というのがわかるベテランである。その隙を見逃さず、畳み掛けようと動き出す——と同時に幾重ものビームが頭上から降り注ぎ、せっかくのチャンスを回避に費やすことになる。
ハマーンはその発生源から慣れた気配を感じる。
『それを寄越せ、ハマーン』
その気配はプルツーであり、そして思念波が思いを伝え、ハマーンもその意図を察して行動に移す。
クィン・マンサをパノプリアから離脱させ、そこに代わるようにプルツーが操るキュベレイmk-IIが納まる。
実は元々パノプリアはキュベレイmk-IIの補助強化プランの1つであったものをクィン・マンサの欠点を埋めるために調整したものなのだ。
だからこそ短い開発期間で実戦投入できるほどの仕上がりとなっている。
『じゃあ、私は雑魚を散らしてくる。こいつらは任せたぞ』
アクシズの実質トップであるハマーンに対して敬いの1つもない言動を残してプルツーはとっとと戦線を離脱する。プルツーにとって、敬うのは父親であるアレンのみであることを知っているハマーンは特に気にしない。
「さあ、第2ラウンドと——私を放ってどこに行こうとしている」
パノプリアの戦闘力は危険だと判断したTR-5は後を追いかけようと加速しようとしたところに3つのメガ粒子砲が襲い、Iフィールドを貫通し、なんとか間に合ったシールドで防ぐことに成功した。
「ふん、このクィン・マンサを甘く見てもらっては困る。パノプリアは所詮開幕を優位に進めるための補助にしか過ぎんのだ……ファンネル!」
今まで使っていたパノプリアのファンネルではなく、クィン・マンサの本来のファンネルを15基飛ばす。
パノプリアの時と比べると数はかなり減っている。しかし——
「私も忙しい身だ。早々に決めさせてもらおうか」
クィン・マンサのファンネルはキュベレイのファンネルとも違い、滑らかな機動で機械的な動きではなく、それ1つ1つが意思を持つ存在のような動きを見せる。
もちろんファンネルだけでなくクィン・マンサ自身も動く。
「そんな?!なんでTR-6より小さくてなんで速いんだよ!」
オプション装備により肥大化しているTR-6は加速性はともかく機動性は優れている。しかし、その肥大化させてまでして得た機動性はよりコンパクトなクィン・マンサが上回る。
これで火力がTR-6の方が上回るなら——
「Iフィールドが役に立たんだと?!」
Iフィールドがないなら——
「ちぃ、なんだこの化物は?!攻撃が効かずにどうやって倒せってんだ」
ファンネルがないなら——
「包囲され——うわああああーーーー!!」
「「ラムサス!」」
納得できただろう。
「まずは1機」
さて、次は誰だ、とクィン・マンサの瞳が