第百三十八話
「ハマーンはクィン・マンサを操りきれているな」
「はい。パノプリアで終わらせれたら問題にはならなかったんですけど、クィン・マンサでも問題ないようでよかったです」
クィン・マンサの操縦は重武装なパノプリアのそれより簡単そうに見えるだろう。
しかし、パノプリアは高機動、重火力ではあるものの運動性、追従性などはIフィールドと触手による防御力によって必要性がなく、結果的に位置取りと火器管制のみに集中して操縦できる分だけ楽なのだ。
実際、私が操縦するこのアッティスもMSの操縦から比べると随分と楽だ。……まぁ、操艦が楽なだけで艦内の触手を込みにすると圧倒的にアッティスの方が辛いが、それも精神的な話で、MSだと肉体的に問題が生じることよりはマシだろう。もう2度とMSには乗らん。
これらに比べるとクィン・マンサはIフィールドを搭載しているもののサラミス級の主砲ならばともかくマゼラン級やアーガマ級の主砲は防げない。
そして、大型とはいえMSである以上近接戦闘も熟さなくてはならないのだからその操縦が複雑になってしまうのは仕方ないだろう。
「もっとも、1時間も戦闘ができない欠陥品だがな」
そう、クィン・マンサは欠陥品なのだ。
1時間どころか40分程度でIフィールド発生装置は暴走する可能性が高く、3基搭載の核融合炉は排熱が追いついていないので冷却する必要がある。
これらの欠点を補うためのパノプリアなのだ。
パノプリア装着時はクィン・マンサの核融合炉の活動は最低限に抑えられる上に備え付けられている冷却装置で排熱をクリア、Iフィールドもパノプリアに内蔵されているものに頼るようにしてあるので起動させないなどの戦闘面以外でも補助する役割がパノプリアにはあるのだ
「あの性能で1時間も戦闘するとハマーン様の方が先に音を上げますよ」
「それもそうか」
ビーム兵器が通用しないとわかり、近接戦闘に切り替えたTRシリーズを軽々と殴って、蹴って吹き飛ばし、背後から接近していた青い烏賊をファンネルで右足を奪い取り、引き抜いたビームサーベルでコクピットを串刺し……にしたように見えたがどうやらギリギリで躱されてしまった……クィン・マンサを眺めて思う。
間違いなく現行の機体を超越していると断言できる。
相手のTRシリーズの最新機に遅れを取るどころか他の機体を相手にしながらでも余裕があるように見えるのだから間違いない。
パノプリアが大きすぎる……それこそMAどころか既に船と言えるサイズであることや稼働時間が短いことなど欠点はあるが、間違いなく大作だ。
後はクィン・マンサを量産するか、量産型として下位機種を作るか、連携を前提とした機体を作るのか悩むところだ。
「……こんな機体を量産って……正気ですか」
「スミレだって知っているだろう。今回の作戦で私達が鼻つまみ者であることはわかっただろう?」
「それは……そうですけど……」
作戦会議の段階で色々揉めた。
やはりというかなんというか、私達の大きすぎる戦力と戦果に危機感と妬みが生じ、今まではタカ派の脳筋ばかりだったのが良識派すらも一部がそれに加わった。
私達の戦力を消耗させようとプルシリーズを最前線にバラバラで配置する、アッティスやキュベレイIIの徴発、パイロットの貸し出し依頼、クィン・マンサの開発データの提出(クィン・マンサはパノプリアと同時運用が決まっていたためその大きさからアッティスしか搭載できなかったのでアクシズは詳細を知らない)など様々な手段で嫌がらせが行われようとした。
この前触手で粛清したにも関わらず無駄に逞しい奴らだ。好意を抱くかといえば真反対だがな。
それらは全てハマーンとガトーによって一蹴され、プルシリーズのほとんどは後方待機(嫉妬組への配慮)となった……まぁプル、プルツーはさすがにハマーンのフォローに周ってもらうことにしたがな。
ついでにキャラ・スーンやマシュマー・セロはハマーンの親衛隊入りが正式に決まって喜んでいた。
もっともザクIIIは売っぱらったが、ゲーマルクに関しては後で返して貰う予定だが……返ってくるか怪しいものだ。
「やはり戦後はアクシズから距離を取った方が無難だろうな」
「……残念ですけどそのようですね」
視点を引き、戦場全体に移すと状況は一進一退。
エゥーゴやアレン一派を含むアクシズはエースである、クワトロやカミーユ、ガトーやカリウス、ラカン、プルやプルツー、準エースであるアポリーやロベルト、マシュマーやキャラなどは危なげなく、ティターンズの部隊を減らしている。
しかし、一般兵の自力はやはりティターンズが良く、しかも一部のバーザムにはTR計画の成果であるGパーツ、フルドド(IIでないのはオーバースペック過ぎて制御系の改修が追いつかない)で強化が施され、一騎当千とまでは言わないが一騎当十ぐらいの活躍はしていた。
一応エゥーゴもリック・ディアスの強襲強化を行ったシュツルム・ディアスやTR計画のシールドブースターをモデルとして作られた機動強化換装機ネモ・カノン、Gディフェンサーで火力と機動強化を図ったネモ・ディフェンサーなどMSのスペック的には十分なものが配備されているが、結局はパイロットの質で差がある。
アクシズは防戦に徹している。
これはハマーンの指示で、TR-5、TR-6を撃破するまではエース級や準エース級以外は戦線維持するようにと命令されているからだ。
アクシズにとってこの戦いに命運がかかっているとはいえ、無理をし過ぎて損害が大きくなれば独立しても後が続かないなどという間抜けな事態になるのを回避するためなので仕方ないのだ。