第百四十話
「しかし、量で攻めればいいというものではないぞ」
戦術兵器と見て取れたクィン・マンサから遠く離れるように艦隊は避難したためミノフスキー粒子が薄くなり、多少の誘導ミサイルも含まれている(ゼダンの門の遠距離への攻撃も想定し、スペース的に余裕がある防衛兵器など)が、基本的には無誘導のものが多い。
ハマーンはTR-6を置き去りにして自分からミサイル群に向かって行く。
「消え去るがいい」
頭部、胸部、腹部(原作ではない)、腕部、背部、バインダー(これも原作にはない)から拡散メガ粒子砲が放たれ、綺麗な花火が広がる。
「この程度のことでクィン・マンサをどうにかできると思っているとは、な……そして——」
4本のテンタクルを動かし、背後から迫っていたTR-6の四肢を捕らえる。
「このような小さな隙を活かそうなど死にに来るようなものだ。そもそも」
ミサイル第2波も到達するがまた拡散メガ粒子砲で薙ぎ払う。
「私が前に出たのは貴様を——」
テンタクルで四肢を切断し——
「破壊されないように——」
1本のテンタクルは軌道を変え、TR-6の上部からヘッドを掠るように過ぎ、操縦席を貫く。
「守ったに過ぎない……と言ってももう聞こえないだろうが、な」
こうしてティターンズは単機最大戦力であるTR-6、TR-5、個人でも連携でも強いヤザン・ゲーブルを序盤に失うこととなった。
何よりガンダム神話なるものが蔓延していたティターンズと旧ジオン兵にとってガンダムが惨たらしい最後を迎えたことに大きな動揺と歓喜を齎(もたら)すこととなり、ティターンズは宇宙という孤立すると死ぬ世界であるがゆえに敵前逃亡こそないが、士気はガタ落ちし、及び腰になり、エゥーゴやアクシズは逆に士気がこれまでに無いほど上昇してしまい逆に統率するのが難しくなるという展開となった。
しかし、統率はできないまでも勢いというのはやはり重要で、今まで防戦一方だったアクシズの前線は流れを感じ取ったガトーやラカンなど実戦経験の豊富なベテラン達が独断で突撃を開始、エゥーゴは押されて、崩れかけていた戦線を立て直している。
「さて、最小限の損傷で終わらせたつもりだが……これであの妙なシステムが壊れていたら労力の無駄遣いだな」
ハマーンがわざわざTR-6をコクピット上部から破壊したのは、コクピット上部には連邦、ジオン合わせた今までのMSだと重要なシステムなどが配されたことがないからだ。
もちろん前例がないだけで今回に限り……という展開もあるのだが、さすがにこれ以上戦闘を長引かせるわけにはいかないとハマーンはなるべく安全だろうという手段で鹵獲した。
「それにしても……この素体自体はそれほど強い機体というわけではなかったな」
テンタクルで捕縛するのは狙っていたとは言え、こうも想定した通りに行ったことにハマーンは多少驚いていた。
あれだけの回避能力を有しながらも回避を続けていたにも関わらず、テンタクルであっさり撃破してしまったのだからそう思っても仕方ないところだろう。
「まさか、テンタクルが想定されていない武装だったからか?いや、あの烏賊もどきもワイヤー系武装は使っていたのだから全く想定しなかったわけではないだろうが——」
『ハマーン、パノプリアを返す。前線を頼む。私……いや、私達はこれらを運ぶ』
まるでタイミングを見計らったかのように現れるプルツーとプルシリーズが操るキュベレイmk-II3機が近くまで来ていた。
「ああ、そうだな。私はまだ少し暴れるとしよう」
『ところで……これらはお父様へ届けていいんだろうな』
それは暗に、TR-6やTR-5は当然アレンのものだろう?と念の為に確認しているのだ。
ハマーンはそれにもちろんだと頷いて肯定する。
「アレンの成果を思えばまだまだ少ないが、喜んでくれるはずだ」
『それは否定しない……では……お父様が作ったMSを傷つけるなよ』
その言葉は遠回しにハマーンを心配しているという意味であった。
それを汲み取ったハマーンだがここで下手なことを言えばまた烈火の如く嫌味なりお小言なり罵声なりが返ってくることを知っている。
プルシリーズはプルを除くと自身がクローンであることを自覚し、姉妹であるという教育を受け、姉妹はアレンに平等に愛されている。
しかし、その平等から外れた存在がいた。ハマーンである。
アレンがハマーンに特別待遇で接していることがプルシリーズには気に入らないのだ。
そういう意味ではイリア・パゾムもプルシリーズ側に近い立場だったので特に問題にならなかった。
要はプルシリーズはハマーンに嫉妬しているのだ。
それでも若いナンバーは成長して多少抑え、受け入れてきているがそれでも何かの切っ掛けで爆発するので注意が必要だ。
「ああ、アレンの手を煩わせるわけにはいかんからな」
『いい心がけだ』
プルツーはパノプリアから離脱し、ハマーンに渡すと他の姉妹達と伴にTR-6とTR-5とハンブラビを牽引して後方へ下がっていく。
「さて、予定時間までは少しあるか、さすがに疲れたから下がりたいところだがそうも言ってられんか」
機体的にも肉体的にもまだ戦闘は可能だが、精神的には披露していた。
元々扱いが難しいクィン・マンサを敵にプレッシャーを与えるために通常戦闘ではなく、クィン・マンサの出せる力を全て使っていた。
もっとも1番疲れたのはTR-6の救援に駆けつけたMS部隊だったりする。
その見た目とサイズに相応しく、クィン・マンサの防御力は実弾に対しても有効ではあるがビーム兵器とは違って当たってしまえばダメージがないわけではない。運が悪ければ1撃で撃破される可能性もあるのが戦場だ。
「これが最後の戦いとなればいいのだが……」
今までも何度も思ってきた願いだが果たして叶えられるのか。
TR-6が撃破されて15分ほどが経過した頃、エゥーゴ・アクシズ同盟の勢いは止まらず、ティターンズは防戦一方になり、戦線は後退、押し込まれ続けている。
特にクィン・マンサは当然としてアレン・ジール3機が戦線に穴を空け続けるためティターンズは立て直しする暇を与えない。
ガンダムmk-IVを操るマウアーもクワトロやカミーユなどと善戦するが数に押され、撃墜こそ免れているがとても戦えていると言えるほどの状況ではない。
サイコガンダムmk-IIはパイロットであるゲーツ・キャパが重傷で出撃できず、他にパイロットはいないためゼダンの門内で眠らされている。
戦場は既にエゥーゴ・アクシズ同盟の勝利ムードである。
しかし、突然エゥーゴ・アクシズ同盟の進撃は止み、それどころか後退を始める。
そこでティターンズ側は嫌な想像が頭を過る。
最初こそ分散して配置していたのに、いつの間にか防衛のため集結してしまっている。
戦術的には間違っていない、むしろ正解だ。ならなぜ愚策である分散配置を行ったのか。
それは——
ここに一筋の暴虐が行われた。
グリプス2からコロニーレーザーが発射されたのだ。
コロニーレーザーの発射は時間と座標のみが決められていたため、ティターンズが集結していた宙域から少しズレていたが、それでもかなりの被害が発生した。
特にバスク・オム、ジャマイカンの両名の死亡が最たるものだろう。
最高指導者であるジャミトフこそ生きているものの最高司令官であるバスク・オムの死は致命傷であった。
ジャミトフは残存する艦から歴戦の船乗りとして優秀なガディ・キンゼーに司令官として任命して事態の立て直しを図る。