第百四十二話
「お疲れ、ハマーン」
帰投したクィン・マンサ・パノプリアからハマーンが降りてきたのを感じ、労いの言葉を贈ったのだが——
「そう思うならせめてこちらに向いてから言って欲しいな」
どうやら不評なようだ。
しかし、目の前にこんなもの(TR-6)があってそんなことができるわけない。
「感謝はしている。ハマーンのおかげでシステムのほとんどが無事なようだ」
「努力したかいがあったようだな。オールドタイプにも関わらずこちらの攻撃を躱していたから気にはなった」
そうか、まだハマーンはまだわかるレベルに至っていないか……まぁ仕方ないか、私ですらハマーンと戦闘をしている最中にやっと気づいたぐらい微弱なものだからな。
「このMSにはニュータイプのシステム化されたもの……クルスト・モーゼス博士が開発したEXAMシステムの完成品と言えるものが搭載されている」
「ニュータイプのシステム化か……なるほど、あれほどの回避行動はそれのせいか」
「それにしても強化人間人格型OSと言う名はセンスが無さ過ぎるな」
「名付け親はは外道か皮肉屋のどちらかだな。ところでこれは量産できるか」
ハマーンが考えているのは自軍の強化などではなく、このOSを搭載したMSが標準化されることへの危惧だ。
「まだ十分な解析は行えていないからはっきりとは言えないが、このオリジナルほどではないにしてもある程度の性能を保たせた代物が出回る可能性がある」
「そうか」
「とはいえ、あまり心配はいらないと思うがな」
「なぜだ」
エゥーゴが主導となれば軍部の地球至上主義は淘汰されるが、地球連邦政府の政治家達は大半が地球至上主義のままであり続けるだろう。
それを切り崩すのがこれからのエゥーゴの戦い、政争の始まりだ。
つまり——
「このようなシステムがあるとエゥーゴが知れば弱みとなりかねないから投入できないというわけか」
「そういうことだな。エゥーゴも使うとなると私達がこれを手に入れていることを知っているのだから……」
「今度はアクシズがエゥーゴの弱みを握ることになる……か」
それにそもそも地球連邦は厭戦機運が高まっているとも聞くから軍縮が進む可能性は高い。
まぁ立て続けにコロニーが落とされ、核爆弾が爆発したりと地球そのものに深刻な被害が出ている以上、これ以上無駄な争いは避けたいと思うのは人情だろう……特に戦争で特に利益がない政治家は。
もっともアクシズが戦争を仕掛けるなら話は変わるがな。
「エゥーゴ、地球連邦が約束を破らぬ限り、こちらから戦争を仕掛けるつもりは少なくとも私にはない。既に父の目指したところには到達したと自負している」
マハラジャ提督は戦争をせずに独立を勝ち取りたかったはずだが……もっとも彼は戦っても勝てないから戦わずに勝とうとしたわけで、戦って勝てる見込みが今回はあったのだから結果だけ見るとするか。
「ところでそのOS、アレンは……」
「もちろん量産するつもりだ」
「やはりか、元々クローンという禁忌がある以上、禁忌が1つ2つ増えたところで問題ないからな」
そういうことだな。
将来的には操作性が劣悪でハマーンとプル、プルツーぐらいしか扱えない(プル3はMS操作に難あり)クィン・マンサをプルシリーズ一桁ナンバー程度が扱える程度にはハードルが下がるかもしれない。
「……まさかとは思うがクィン・マンサまで量産する気ではないだろうな」
オーラが私の専用機だぞ。量産は許さん。と訴えかけてきている。
生産効率や整備性のことを考えれば同型機を量産したいと思うのは至極当然のことなのだが——
「認めん」
「わかった。デザイン変更しておこう。ただ、整備性のことを考えると類似するのは許してくれ」
「仕方ないな。妥協しよう」
平和な会話をしている2人であるが、外は勝敗が決したとは言え、まだ戦闘真っ只中である。
ゼダンの門に帰還できたマウアー・ファラオがサイコガンダムmk-IIで再度出撃し、前線でエゥーゴやアクシズの進行を押し止めることに成功した。
カミーユやシャアなども交戦しているがサイコガンダムmk-IIだけで対応せずに他の部隊と連携と言う名の捨て駒を使い、落とすことより時間を稼ぐことを意識し、なんとか落とされずに済んでいる。
このあたりが速攻で落とされたゲーツ・キャパとの腕の差である。
それに士気が挫けたティターンズではあったが、追い詰められたネズミであり、窮鼠猫を噛むという諺通り、死に物狂いで戦い始め、エゥーゴやアクシズの勝利ムードに冷水を浴びせることに成功している。
何より、ハマーンが操るクィン・マンサ・パノプリアが戦線から離脱したことが全体へ掛けるプレッシャーが緩くなったことで負けているにも関わらず、あの怪物と戦うよりはマシというような心理が働いている部分があった。
更に調子に乗り過ぎたアレン・ジールが集中砲火を浴びてしまい、1機撃墜されたのも大きく影響している。
アレン・ジールの撃墜とこれ以上の無理をしなくても勝ちは確定した、自分達の役割は終えたということでアクシズの勢いがなくなり、一部のティターンズ憎しを掲げる者達以外は積極性を失い、ガザCやズサなどの後方支援が主となっていく。
そもそもこの戦いはアクシズの独立の戦いという面も確かにあるが、メインとしてはエゥーゴとティターンズの決戦であるため、アクシズが無理する必要がないことを思い出したのだ。
とはいえ、エゥーゴがゼダンの門に取り付くことに成功し始めるとティターンズは本格的に撤退を開始する。
目的地はルナツーである。