第百四十三話
「ティターンズは撤退を始めたか」
ハマーンもこうなることを予見していたというわけではないだろうがクィン・マンサに乗り、出撃するということはないだろうと旗艦であるグワザンへキュベレイに乗って帰っていった。
ティターンズが向かう先はルナツーのようだが……まだ1戦やろうというのか?それとも停戦と言う名の実質的降伏だろうか。
後者ならいいが、前者ならまだ戦争が終わらないということになる。
正直、TR-6の機体解析の成果で新しいMSが生み出せそうなんだから早く時間が欲しいのだが——なっ?!この嫌な感じは……いや、原因を探っている場合ではない!
「ハマーンへ緊急通信!!全軍に後退を命じろ!すぐにだ!その後はエゥーゴにも一応入れておけ!」
「は、はいぃ!」
プル、プルツーにも信号弾で帰還を命じると同時に触手で無理やり周りに護衛しているプルシリーズ達をコンテナに放り投げ、アッティス自体も触手でAMBACまで取り入れての急速回頭を行い、全速力で戦線から離脱する。
ハマーンも私の通信を信じたようでグワザンも急速回頭に入り、周りの艦隊も理解が追いつくまでのタイムラグがあるものの回頭を始めている。
エゥーゴに関しては私からの通信は無視されたようで反応がない。シャアかカミーユであれば信用したかもしれないが、他の人間ではやはり駄目か。
それにしてもこのタイミングでこの感じ……なんだ?何をする気——おぉ?!
「くっ、なるほど、ア・バオア・クーの自爆とはやってくれる」
最後の置き土産としてはこれ以上にないものだろう。ア・バオア・クーだったもののデブリが質量兵器へと変貌して周囲を災厄を撒き散らす。
「プルとプルツーは……こっちに向かってきているが、速度的に合流できるのはまだ先になりそうだな」
さて、問題はアクシズとエゥーゴの部隊だ。
アクシズは幸い、ハマーンの指示が間に合い被害は軽微だが……エゥーゴの様子は入り乱れるデブリと混乱している思念が入れ乱れているために把握ができない。
しかし——
「これは、別の意味で嫌な予感がする」
まさかとは思うがシャアが死ぬことがあればエゥーゴは求心力を失うことになる。そうなれば滅亡寸前ではあるが総帥であるジャミトフ・ハイマンが生き残っている以上、政治面で取り返される可能性がある。
シャアが生き残っていたとしてもエゥーゴの軍は深刻な被害を受けているだろう。そして問題となるのは被害が大きければ大きいほど……パワーバランスが狂うのだ。
何を危惧しているのかというとエゥーゴとティターンズが両方弱体化してしまうと被害を被っていないアクシズが最大勢力となる可能性が生まれ、そうなってしまえば——
「ハマーンの意思とは関係なく、アクシズが地球侵攻……少なくても宇宙ぐらいは手に入れようとしても不思議には思わん」
つまり意図せず不本意な漁夫の利を得てしまう可能性があるのだ。
しかも、クィン・マンサの圧倒的な力を魅せてしまっているので力に溺れるものもいるだろう。
更に連邦の最大軍事拠点であるゼダンの門も破壊してしまったのだから尚の事防ぐ手段がない……ちなみにルナツーは軍事拠点としてはあまり優れておらず、だからこそ一年戦争当時にルナツーは攻略されず、放置されていたのだ。
そこに逃げ込むティターンズはあまり余裕があるとは言えないだろう。
「せめて、シャアが生き残ってくれることを祈るとしよう……神は信じないが」
「ジャミトフ・ハイマン並びにジャミトフ・ハイマンに従うティターンズ諸君に告げる。地球連邦政府はジャミトフ・ハイマンをティターンズ総帥から解任することが決定した。ジャミトフ・ハイマン、貴様は軍法会議に掛けられることとなる。大人しく降伏せよ」
そう告げたのは、エゥーゴを通じてアナハイムと繋がりを持ち、地球連邦政府からルナツーの指揮権を勝ち取ったパプティマス・シロッコである。
元々パプティマス・シロッコが連れていたティターンズの部隊とルナツー駐留軍、周辺警戒任務についていた部隊を召集して結成されたジャミトフ捕縛部隊である。
そのシロッコが率いるティターンズの士気は、敗走中の同輩を捕縛するという嫌な任務で低く、それに比べて連邦兵のほとんどは今まで威張り散らしていたティターンズの崩壊をいい気味だと士気が高い……もっとも自分達の士気がティターンズであることも不愉快だったりするがそれとこれとは別である。
戦力的にはほぼ五分、練度や兵器はティターンズが上回っているのだから力押しでどうにかならなくもない……これが平時であるなら、だ。
決戦と言える戦いを敗走という経験した後の兵士達は疲労困憊、士気も上がらない。むしろ味方に裏切られたことで全体の士気が下がっている。一応一部は復讐のために士気が高いが、本当に一部だけである。
そして当の本人であるジャミトフは自身がここで終わりであることを悟っていた。
(連邦の主導権をエゥーゴというスペースノイド派に譲歩できたのは幸いだったか。地球にこれ以上の負担を強いれば母なる大地である地球そのものを破壊するところだが、地球に篭もるモグラ共を宇宙に引き出すにはいい機会になるだろう)
ジャミトフは地球至上主義ではある。しかし、ティターンズのほとんどが地球人至上主義であると勘違いしている。
彼は度重なるコロニー落としによって地球は限界が来ているという事実を地球連邦政府高官達は無視していることに業を煮やし、ジオン残党狩りという名目で力を手に入れ、腐った地球連邦政府を宇宙へ叩き出す予定だったのだ。
(パプティマス・シロッコ……エゥーゴの下で大人しくするような男とは思えんが、それは私の考えることではないか)
ジャミトフ派ティターンズ内では総帥を守ろうと徹底抗戦を唱える者と軍人らしく上意下達、引き渡すべきという者で意見は二つに割れた。
しかし、いくら創設者とはいっても敗戦の将を庇う意見はやはり少数であり、高官達の意見もだいたいまとまっていた。
「いいだろう。私の身柄を引き渡そう。しかし丁重な対応を頼むよ」
「無論、元とはいえ上司だった方だ。無碍に扱うようなことはしません」
こうして一大勢力を気づいたジャミトフは捕縛され、ジャミトフが率いていたティターンズはシロッコのティターンズに吸収されることとなった。