第百四十四話
なるほど、ハマーンからシロッコとエゥーゴが接触しているとは聞いていたが、まさか乗っ取りを企てていたとは……しかし戦争……内乱?を早期終結のためとは言え、シロッコを抱き込むのは獅子身中の虫だろうに。
政の才はどの程度かは知らんが、あの無駄にあるカリスマ?と野望は誰かの下で扱いきれるとはとても思えない。
だからこそアクシズにとっては利となるはずだ。
エゥーゴはア・バオア・クーの自爆により艦隊の3分の1を失い、残った艦も大体中破判定を受けており、MSも満足に稼働できるもので半数という普通なら大敗とも言える深刻な被害を受けているが、幸いシャアが生きていたおかげで組織的混乱は最小限で抑えられた。
これによりエゥーゴ、アクシズ、シロッコが率いるティターンズ……新生ティターンズとでも言おうか……の三つ巴同盟がなるだろう。
三つ巴となれば冷戦状態となり、そう簡単には戦争が再開されることはないはずだ。
それに私達と敵対しつつあるアクシズの高官達に、クィン・マンサという圧倒的な力を魅せることができた以上、私達にちょっかいを掛けてくるとどうなるのか、むしろ協力関係を築くことに専念するだろう。
となると私達は自由な時間ができ、好きなだけ研究ができるということだ。
結果的にだが私達の望む、1番の状態になる可能性が高い。
そうなると——
「上位ナンバー以外のプルシリーズには戦闘訓練だけではなく、他のことも学ばせるとするか」
「それはいいですね。ちゃんとした助手が欲しいですし、ミソロギアの管理するスタッフも必要です。他にも料理人とか!」
「スミレは研究所というか街でも作る気か?……いや、その通りなのか」
自分達の身は自分達で守らなければならない。
そのためにはMSとプルシリーズの増産は必須と言える。そうなると私とスミレだけの生産活動では経済が成立しない……こともないが、時間が取られるのは嬉しくない。だからといって余裕はあるにはあるが、独自勢力と化してきた私達はいつ切り捨てられるかわからないのだから食料や水、空気などを備蓄して置かなければ首根っこを押さえられるのは面白くない。
それに労働力不足で農業用プラントも設置しただけで稼働していない。
そして、これらを全て揃えれば既に街……いや、小さな国の1つとも言えるか。コロニーは2000万人居住可能なのだ。連邦設立前の国が乱立していた時代ならこのぐらいの人口の国もあった。
(ちなみに現代でいうと2000万人というのはマケドニアやスロベニア、ボツワナの人口と同じぐらい)
「それと交渉役も欲しいですよね。プルツーさんに本格的な教育を施してみてはどうでしょう」
「……その教えるための交渉ノウハウは誰が持っていると?」
「うっ」
ハウツー本はいくつも渡してあるのだから専門に勉強しているわけではない私よりプルツーの方が交渉がうまい可能性がある。
……心理学を学んでいても、ニュータイプ能力で相手の心をわかっても活かせるかどうかは別問題なのだ。
それに最近は私の感情に触手が反応して暴れるから交渉には不向きだろう。ちなみに触手を外したらいいという意見は認めない。触手無しで歩くのが面倒だから。
「とりあえずは家畜とかどうでしょう。命の大切さを教えるのは大事だと思いますよ」
「……今まで兵士として、戦士として戦ってきたプル達に今更命の大切さか?それはプル達にとって幸せなことなのか」
それにそもそも家畜を育ててなぜ命の大切さを知れるというのだ。最終的には〆て食べるだけだというのに。
アクシズ代表はミネバ・ラオ・ザビと宰相であるハマーン・カーン、エゥーゴ代表はクワトロ・バジーナ、新生ティターンズ代表はパプティマス・シロッコという地球圏最大の戦力を有する組織のトップ会談が月面都市グラナダで行われた。
この会談により、和解(内乱だからこう表現する)が成立し、エゥーゴと新生ティターンズは地球連邦政府へと戻る……もちろん表向きに過ぎないが。
そして和解自体は予定調和であり、話は拗れずに済み、約定どおりサイド3を手にし独立が正式に認められ、本拠地であるアクシズを一年戦争当時にア・バオア・クーがあった宙域に配置することが決まった。
そして、これを以ってアクシズはネオ・ジオンを名乗ることを宣言する。
ただ、アクシズの中には不満を抱くものもいた。
今ならエゥーゴやティターンズを同時に敵に回しても勝てると豪語するのはやはりタカ派の高官達であった……が、問題は市民にも一定数でそのような意見が出てくることである。
プロパガンダとしてゼダンの門で無双したクィン・マンサもしくはパノプリアの映像が流され、それが宰相であるハマーン・カーンが操るものであることも伝えられると盛り上がりに盛り上がり、他のサイドの解放まで謳う者まで現れたのだ。
それに頭を痛めたのはその噂の人であるハマーン・カーンである。
確かに今ならエゥーゴとティターンズを相手取ってもいい勝負だろうし、自身の独占欲を目に瞑るならクィン・マンサの2号機すらも生まれ、ひょっとすれば量産されて圧倒するかもしれないが、ハマーンは戦争を続けるつもりはないし、領土を広げる価値を見出していなかった。
ジオン公国は他サイドに半強制的に支配した上で戦争に巻き込み、その上敗戦国という形にしてしまっている。
そんなジオン公国を受け継ぐ国を求めるものがどの程度いるのかというのがハマーンの考えである。
もちろん連邦のコロニーへの締め付けによる恨みもあるだろうが、ジオン公国への恨みを忘れたかというとそんなことはないと断言できるし、何より今となってはスペースノイドの代弁者はエゥーゴであるというのが周知の事実なのだ。
そんなところでしゃしゃり出ても無用の混乱と争いを生み出すだけで意味はないのだ。
とはいえ、何もしないしないというのも悪手であるのは間違いなく、ハマーンは更に要求することにした。
エゥーゴに所属する元ジオン兵がネオ・ジオン、つまりサイド3への帰還を阻害しないこと、それらの受付員を常駐させること(スパイでもある)、双方の関税はネオ・ジオンが主導で決めることなどを要求する。
もちろんエゥーゴ側は取引の定石として突っぱねはしたが、最終的には全面的に受け入れることとなった。
それは戦うとなるとクィン・マンサという化物を相手にしなくてはならなくなり、しかも現状の戦力はネオ・ジオンの方が多いということもあり、強く出れなかったのだ。
決して、そう決してハマーンにアドバイザーとして呼ばれたアレンが長引いてきた会談に苛立って触手が不機嫌な時のネコの尻尾のように床を叩いていたのにビビったわけではない。(ちなみにこうなることがわかっていてハマーンはアレンを連れてきていた)